鍵師はドラゴンの子供と出会う4 キイは3分以内でやらなければならないことがあった

 キイには3分以内にやらなければならないことがあった。


 それはいますぐにドラゴンの旦那を連れてくることだ。


 なぜならドラゴンが産気づいたからである。


 お腹をすかせたドラゴンはキイが地面に落としたパンを許可を取るよりも早く口の中へと頬張るとうまそうに食べていた。うまそうにというがあんなに大きなドラゴンからしたら人間のパンなんて米粒みたいなものだというのにむしゃむしゃと食べるのだ。もしかしたら口に入った瞬間にパンが大きくなったのではないかと考えながらキイが見ていると突然ドラゴンが苦しみだしたのだ。


「どっどうした!? 食あたりでも起こしたのか!?」


「うっ……」


 ドラゴンが両手をお腹辺りに当てながら横になってうずくまる


「う?」


「うっ」


「う?」


 キイは思わずドラゴンのお腹に触れようとしたとき、さっきまで横になってきたドラゴンが立ち上がると遠吠えをあげる。


 そのせいでキイは尻もちをついた。


「産まれるうううう!」


 ドラゴンの声が天高く轟く。


 それゆえ山の中にいたあらゆる動物たちが何事かと慌てふためき、ガサガサと逃げ惑う音が響き渡った。


 キイは何が起こったのかしばらく呆然としたが、すぐさま事態を把握するべくしてドラゴンに「いま何といった?」と尋ねた。


「だから産まれるのだ!! 産気づいたのだよ! 人間」


「まじで?」


「偽るはずがない」


 ドラゴンは何度も頷く。


「うっ! うっ」


 ドラゴンはまたうめき声を上げた。どうやら痛くてたまらないらしい。


 しばらくすると再び正常に戻る。


 するとどうしたらいいのかわからずに右往左往するキイに視線を向けた。


「人間。頼みがある」


「頼み? ムリムリムリ! お産の手伝いなんてしたことねえよ」


「そうではない。頼みとは我の夫をつれてきてほしいのだ」


「ダンナ? いいけど、どこにいるんだ?」


「知らん」


「はあ!?」


「だが、この森のどこかにいるはずだ。頼む。連れてくれ! うっ」



 また苦しみだす。


「いっ急げ! 3分後に産まれる! そのまえに連れてこい」


「はあ。って3分とかわかるのかよ」


「とにかく、いそげ。いそげ! 3分以内だぞ!」


「わかったよ!」


 そういうわけで3分以内でダンナを見つけてこいと無理難題を押し付けられたキイは駆け出したわけだ。


 しかし無理がある。


 3分だ。


 すでに一分はすぎているはずだ。


 あと2分ほどでどうにかなるはずがない。


 どうしたらよいものか。


 とりあえず


「こらああああ! ドラゴン! あんたの奥さんが産気づいたぞ! いますぐ来ないと生まれちまうぞ!」


 思いっきり叫んでみる。


 しかし、ドラゴンがくる気配はない。



 キイは再び走り同じように叫んでみるも、結果は同じだ。


 そうこうしている間に3分なんてあっという間に過ぎていく。


「あああ! 無理だってのおお! とにかくドラゴンこい! こい!こい!」



 キイは無我夢中で叫んでみた。


 すると突然穏やかだったはずの風がはげしく吹き荒れはじめる。


 同時に太陽の光が遮られてキイの周辺が薄暗くなった。


「おい! 人間、呼んだのはお主か?」


 顔を上げるとそこには緑色の鱗をもつドラゴンがキイを見ているではないか。


 このドラゴンのことなのだろうか?


 もちろん、確信があるわけではない。


(名前聞いてなかったなあ。一か八かだ)


「あっちで産気づいてるドラゴンがいるんだ。いますぐにダンナを見つけてこいって言われたんだけど、もしかしてあの妊婦の旦那ってあんた?」


 ドラゴンはしばらく無言でキイを見つめる。


「うおおおおお!」



 すると突然歓喜の声をあげる。


 どうやらビンゴのようだ。



「リーターー!!出来したぞおおお!」


 そう叫びながら浮かれたように踊り始めるドラゴン。


 キイはそれを呆然とみる。


「して! リタはどこにおる?」


「リタ? あのドラゴンのことか?」


「おやおや、リタはお主に名乗っておらなかったようじゃな。それは失礼した。私はディーンで我が嫁はリタだ。してお主は?」


「俺はキイ。って言ってる場合じゃないぞ! 3分以内っていわれてんのにさ! とにかく奥さんのところに案内するからこいよ」


 そういってキイは駆け出した。


「わかった!」


 ディーンはそのあとを追いかけた。

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