ドラゴンを連れた鍵師は魔法使いを仲間にする3
「お腹すいた~」
その魔法使いは何度もお腹を押さえながら訴えかけていた。
けれど、どう考えてもキイたちには彼女のために与えられるものはない。財布の中身を確認しても彼女の分までパンのお金があるはずがない。
「どうする?」
お金の勘定をしていたアイシアが耳打ちをする。
「どうするといわれてもなあ」
キイは周囲を見回す。彼女のほうを振り向くものはいるも話しかけるものなどおらず何事もなかったかのように通りすぎていく。
なんとも冷たいものだ。
だからといって、このお腹を空かせた魔法使いを養うほどのお金を持ち合わせているわけではない。
このまま、彼らと同じようにことなかれで通りすぎるべきなのだろうか。
けれど、それは出来そうもない。
なによりもムメイジンがすでに話しかけてしまっているからだ。いまさら、他人のふりをするわけにはいかない。
「食べる?」
そうこう考えている間にいつのまにか買ってきたのだろうか、ムメイジンがコッペパンらしきものを差し出している。
魔法使いはすくっと起き上がると、ムメイジンからコッペパンを奪い取るたり、ガムシャラに食らいつき始めた。
よほどお腹すいていたのだろう。
あっというまにコッペパンは彼女のお腹の中へと収まっていく。
「おいしかったか?」
「はい! おいしかったですう。こんなに美味しいパンはじめてですうう。ありがとうございます」
「あはははは。そうか。そうか。それはよかった」
上機嫌に笑うムメイジンに対してまるで神様でもみるかのように目を輝かせた。
「本当にありがとうございます!
あなたはわたしにとってヒーローですう。感謝しても仕切れません!」
「それはよかった。よかった。俺としてもそんなに喜んでもらえるなんて嬉しいぜ! あはははは!」
「パン一個にオーバーすぎねえか?」
その様子をみていたキイがアイシアに耳打ちした。
「それだけお腹すいていたってことじゃないの」
確かにそうだろう。
年はキイたちはさほど変わらないほどで小柄でやせ型。血相もさほどいいほうではないところをみるとほとんど食事をとっていなかったのではないかと想像がつく。だから、そんなに大きくもないコッペパン一つでも感動してしまったのだろう。
「どうか、どうか! なにかお礼をさせてください!」
そういいながら、少女はムメイジンの手をぎゅっと握りしめた。その行動にさすがのムメイジンの面食らったのかそのまま尻餅をついてしまう。
「お願いします!」
ムメイジンは頬を赤くしながら一度視線を反らす。
「あいつ、女の子に手を握られたのははじめてのタイプか?」
キイは思わず呟いた。
「キイはあるの?」
アイシアはすかさず尋ねた。
「そりゃあ、手ぐらい繋いだことあるさ」
「ふーん」
アイシアはなぜか不機嫌に視線を反らす。
「なに?」
「別に……」
その様子にキイは首をかしげる。そのすぐとなりにいたショセイはなぜかニヤケていた。
「そうだなあ」
ムメイジンは赤くなったほっぺたを人差し指で撫でながら空を仰ぐ。
「じゃあさ。うちのパーティーに入ってくれるかい?」
「おい! こらっ! いきなりかよおお!」
ムメイジンの言葉にキイが叫ぶ。
「はい。いいですよ♥️」
そんなに間をおかずに少女はにっこりと微笑みながら答える。
「即答かよっ!」
さらに突っ込みを入れた。
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