作詞について考える。
今日は作詞について考えてみたいと思います。
サンタクロースが街にやって来たとかハッピーバースデイトゥユーとか、
実は一番最初は全然違う詞が付いていたと言うのを皆さんはご存知でしょうか?
無論、最初の詞がどんな物だったかなんて殆ど誰も知りません。
あまりに現在の詞と曲のマッチングが良すぎるからです。
邦楽でもありますね。昔だと『上を向いて歩こう』『こんにちは、赤ちゃん』、
最近だと『涙(なだ)そうそう』や、ちょっと前だとThe Boomの『島唄』など。あなたが作詞家だとして、これら曲に詞を付けてみたとして、オリジナルを超える仕上がりに出来るでしょうか?多分、非常に難しい事だと思います。
作詞家の目指す理想はこういう、この曲にはこの詞しか考えられない!
というような物を作る事にあります。言い換えれば他の詞に置き換えても
あまり問題がない様な詞は、さほどの出来ではないという事ですね。
通常作詞は作曲が終了した後に行います。理由は曲に詞を付ける事より、
詞に曲を付ける事のほうが困難だからです。
ちなみに私は作詞/作曲を両方やります。
両方出来る場合、曲と同時に詞のイメージが沸く事が結構ありますね…。
音楽のメロディーは通常同じ韻(リズム)を規則的に踏みますので、
メロディーの韻に合わせて作詞を行なえば、原曲を壊す事はありません。
語彙が豊富なら、詞は同じ意味をいろんな韻で表現出来るという事もあります。
対して自由詩は音楽程規則正しく韻を踏まないので、
どうしても後で曲に合わせた修正が必要になります。
つまり、元々の詩か曲をいじらなければならなくなると言う事です。
元々の詩を一切いじらない…そういう困難な作業もやって出来なくはありませんが、
相当な訓練と覚悟が必要です。ちなみに下記は私が【鴨長明/方丈記】の序文全文に
曲を付けて唄ってみたものです。これは原文を一切いじっていません。
ご参考までに。
https://www.youtube.com/watch?v=aa2BVlhhIDk
作詞の醍醐味は、音楽のイメージに合った内容で、
きちんとメロディーの韻を踏みつつ、優れた自由詩を作るという所にあります。
音楽的な歌心と、文学者の詩心、両方が必要な訳ですね。
さて、普通のオリジナルバンドやっている場合は、
作詞はボーカル担当が行う事が多いと思います。
作曲者が作詞までやっているケースはどちらかと言えば少ないでしょう。
私の場合は殆どの期間、女性だけのバンドだったのですが、
詞に関しては時々ひと悶着起こしたものです。
良くあるのが、『自分の作った詞でないと思い入れがないから歌えない』という
タイプ。個人的にはこれは勘違いも甚だしいと思います。
これは役者が『自分で台本を書かなければ、思い入れがないから演技出来ない』と言っている様なもの。
ちなみに世の中の名作と呼ばれる演劇で、台本の作者と演技者が同じというケースは殆どありません。理由はおそらく、
『名演技を行なうという才能』と『優れた台本を書くという才能』は、
まったく別物だと言う事でしょう。歌を歌う才能と、
曲に詞を付けるという才能は、本来別物と言うのが私の考えです。
本当に良い詞を付けてくれる、明らかに自分が作った詞よりも良いという
ボーカルも中には居ましたが、それは例外。大半は作詞の中身を見ると、『???』みたいな人が多い。女性ボーカルだと、
それにも増して1から10まで全部恋愛の詞というのも良くあります。
別段恋愛の詞を否定する気は毛頭ありませんし、
恋愛をテーマに扱った素晴らしい詞は世の中に数多くあります。
しかしそれしか書かないとしたら、余りに偏り過ぎです。
作詞したい云々の前に、きちんとした作詞の訓練や勉強をして来たのかと
小一時間問い詰めたいと何度思った事やら。
実際、アマチュアボーカルの恋愛詞は、同じような内容、表現ばかりをひたすら
繰返す、変わり映えのしない、出来の悪い物が圧倒的に多い。
同じ単語を何十回も使うなんて、私は馬鹿です、
語彙も知性も経験もありませんと言っているような物です。
せっかく良い曲を作ったのに、酷い歌詞が曲を台無しにしていると感じている
作曲担当は結構いる事でしょう。
そもそも詞は詩です。本来はそれ自体が自由詩として
単独で通用する完成度がないといけないはずです。
音楽に付ける詞ですから、メロディーや曲調による制約があるにしても、
基本は変わりません。色々な自由詩を沢山作ったり、優れた作品を読んだり、
それなりの物が書ける様になっていないと、
より制約の多い作詞では良い物が作れる訳がありません。
有名な詩人の本なんて読んだ事がない、それより何より本すら禄に読まない、
語彙もない。こんな事で良い作詞なんか出来る訳がないのです。
最近の流行歌の詞より、『みんなの歌』の詞の方が、
余程気が利いていると思うのは私だけでしょうか?
こういう人に限って、100%英詞書けますなんて言ってたりする。
ここは日本なのですから、英詞なんかで歌って内容を理解する人なんて
殆ど居ませんし、オーディションでも馬鹿にされるだけです。
ちょっとしたエッセンスで、簡単な英単語を僅かに使う事は
悪い事だとは思いませんが、詞の大半が英語では、
メッセージがないのと殆ど同義語だと言えます。
何より表現の多様性では世界有数の言語である日本語に対する冒涜です。
日本語で詞が作れない人が英語で詞を作れるとは到底思えません。
TOEICで900点取れてもです。
英文学を日本語訳するのは普通の翻訳家でも可能だが、
優れた日本文学を英訳するには、
訳者に文学的な才能を必要とするというのは良く言われる事です。
日本語の韻の美しさを表現する事に喜びを感じる作詞担当者でありたいと、
常々思うと同時に、本当の意味で良い『詞』を作る作者に出会いたいと思う
今日この頃です。ちなみに音楽業界では、作曲家は腐るほどいますが、
作詞家は意外と少なく、作家としては遥かに収入が多かったりします。
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