資格と技能について想う。

そもそも資格ってなんでしょう?

資格とはある特定の技能/技術/知識を

何らかの公的機関が認定し、

その保有者の能力を保証するものです。


この為、公的に重要な行為や職業に関して、

特定の資格者にしか認めないというケースが多い。

そうでなくても、それなりの権威をもつ資格は、

その保有者の能力を保証する物として価値を持っています。


では実際にこうした制度が有効に機能しているかというと、

実はそうでは無い事が多いのも現実。

資格の保有が必ずしも現実に起こる問題の解決に有効で

ないとするなら、何らかの代替策が必要ですが、

日本人は、実はこれがとても不得意な人種でです。


まず、これらの資格試験の多くは、表面的知識を問う事

ばかりに主眼が置かれており、

知識以外の技能や技術を評価する仕組みを欠いています。

なるほど、知識は確かに重要ですが、

世の中には知識だけではどうにもならない事も多いのではないでしょうか?


皆さんはどんなに頭脳が優秀でも、

手先の不器用な外科医に手術をして貰いたいとは思わないでしょう?

外科手術とは、本質的に医学知識の埒外にあるものなのです。

その本質はきちんと正確に切断し、

一分の隙もなく美しく丈夫に縫い合せる事です。

これはどちらかというと衣服の裁縫の技術であり、

先天的に手先の器用さが要求されるものだと言えるでしょう。


どこをどう切って、どう縫い付けるという指示は医者が出すにしても、

日常の縫い物さえ禄に出来ない連中に切り貼りされるのは、私は嫌です。

実際の医療事故の多くは、こういう事で起きているのが本当の所でしょう。

多くは闇に葬られたままですが。頼むから外科医には、

技術試験も国家試験として義務付けて欲しいと願うのは、私だけでしょうか。


ちなみにとある国では、外科医を養成するのに、次の様な手段を取っています。

まず、12歳を迎えた将来の外科医希望者に、手先の器用さを試す試験を行います。

これで合格した子供に必要な医学知識を与えて、医師としての実技訓練を施し、

技術/知識の双方である水準に達した者を外科医として認める事にするのです。


これに対し、日本のやり方はまったく逆です。

まず、医者の希望者に大学の医学部を卒業する事を求め、

最後に学力試験のみを課して、医師としての資格を与えます。

知識は問いますが、技術は問いません。

なので医師の資格を持った者の中から、

手先の器用そうな人間を探し出して、

外科医に育てるという事になります。

そんな訳で、外科医は多いですが、

本当の意味で高い技術を持つ外科医は極少数です。

よって名医は当然の事ながら超売れっ子ですから、

私達の様な庶民の手には届きません。

せいぜい、外科手術なんて事にならないように、

健康に留意する事が重要だと言う事なりそうです。


そうそう、それから文系の大学には経営学を教える偉い教授がたくさん居ます。

彼らはお金を取って学生に経営を教える訳だから、

さぞかし凄い経営者だと思ったら、さにあらず。

どなたも企業を経営したことなんてないし、

どこの企業からも経営者としてお呼びがかからない。

実際の経営をした事がない人間が、

どうして企業経営なんか教える事ができるのだろう?

私は学生の頃、素朴にそう思っていたし、今もそう思っています。


ゴールド免許の持ち主の多くは、車を運転しないからゴールド免許なのであって、

全てが本当に優良なドライバーな訳ではありません。

一歩道路に出れば、それこそ危険極まりない恐怖の運転者になる人も多いのです。

事故や違反を起こしさえしなければ、優良ドライバーというのは、

認識がおかしいと思います。

きちんとした運転技術を持ち、実績も伴ってこそではないでしょうか?

ゴールド免許を持たせるにも、実技試験が必要です。


事々左様に日本の資格の多くは、

十分な実態を伴っていない物が多いですね。

多くの重要な技能は、知識だけでは賄う事が出来ないし、

当然、サボれば技量は落ちるから、定期的なチェックもかかせない。

しかし、大半は一度取れば、一生有効な物が多い。

しかもこういう実態を伴わない『有資格者』が

世の中の多くで害毒になっています。


手先の不器用な外科医、世の中に出た事がない進路指導の教師、

歴史知識ゼロの政治家、冷酷非情な弁護士に裁判官、

医学知識のない体育教師、外人とじゃべれない英語教師、

会社経営の経験のない大学の経営学の教授、

アドリブプレイも出来ない某専門卒のピアニスト。ああ、上げるとキリがない!

彼らの多くは実際には殆ど役に立たないのに、物凄く多額の給与を貰い、

世間的にも認められています。しかし、実際は……


私が今思うのは、私の家から歩いてすぐの、定年退職後、

夫婦で居酒屋を経営していたある親父さんです。

もう70も来ようかという年齢でも、かくしゃくとしてとても元気でした。

居酒屋は場所柄、それほど流行ってはいませんでしたが、

その点、客が少ないので、良くバンドのメンバーと伺って、

話をして飲むことが出来ました。


その親父さんの人生は、ここには書ききれないくらい波乱万丈で、

数多くの失敗と不幸と栄光に彩られていました。

その親父さんの話は、実体験そのものであり、

当事者であったが故のリアリティーに

溢れていましたから、説得力もあり、納得も出来る物でした。

そうして、それら数多くの苦難を乗り越え、その歳までかくしゃくとし、

私の様な若輩者の良き相談者になっている事を、正直私は尊敬しました。

決して伊達に歳を取っている訳ではないのです。


世の中には数多くの資格が溢れ、その手のハウツー本が溢れています。

しかし、そうした知識のみで、何もかもわかった様に勘違いしてはいけません。

仕事ひとつとっても、自分で交渉して、自分の足で歩いて、酷い目にあって、

初めて得られるという物があります。

これは本なんかからでは得られる物ではありません。

バンドの運営だってもちろんそうです。

自分でリーダーやってみて、初めてわかる事が如何に多いことか。


そう、私にとって、今まで一番役に立ったのは、

もしかしたらあの居酒屋の親父さんの講義ではなかったかと思います。

その講義料と考えれば、あの居酒屋の酒代は安い物でした。

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