日本とアメリカの教育制度を考察する。
今日は日本とアメリカの教育制度を比較してみたいと思います。
日本の教育は6年制の小学校と3年制の中学校、合計9年間が義務教育と
されていますが、2023年度の高校進学率は98.7%ですから、現在の日本の若者は
ほぼ全て、高校卒業までの12年間の教育を受けている事になります。
日本の教育制度の大きな特徴は、個人の資質に関わらず、国際的に見ても
非常に多くの科目を必修で学ばなくてはならないというところにあります。
高校の教科書は国が定めた中学校3年間の学習指導要領(これは全国どこの学校でも
一定の水準が保てる様、文部科学省が定めている教育課程のカリキュラム)を、
全て理解出来ている事を前提に作られています(英語の文法の80%は中学時代に
出てきますから、中学英語が完璧に出来れば、英語圏での日常生活に支障がない
レベルである事は、あまり知られていません)。
それとこれらの科目の指導進捗は、平均レベルよりやや上…つまり平均的な生徒が
やや負荷をかけて勉強して何とか追いつける…様に作られています。
学習内容については、高校卒業の時点で全ての必修科目で、専門領域の基礎程度は
理解出来ているという事が目標になっていますが、実はこれ、世界的に見てもかなり高度な内容である事はあまり知られていません。特に高校3年間の学習内容は
中学よりもかなり高度で、その進捗速度も早く作られています。英語や数学の学習が中学レベルで躓いていると、ついて行くのは厳しい事になります。
何故なら、全ての科目が、【中学で学習した内容を全て理解している平均レベルの
生徒がやや負荷を掛けてついていけるレベル】になっているからです。
良く日本の大学生はアメリカの大学生に比べて勉強しない、アメリカの大学は入るのは簡単だが出るのは物凄く難しい…凄く勉強する…これの方が社会に出て役に立つ…という事を語る方が多いのですが、これらの論者は大抵アメリカ人が高校卒業までに学ばなければならない内容がどの程度の物なのか理解していません。
日本と前提条件がかなり違うのに、それを同じ様に比較しても意味がないのです。
アメリカの教育方法で面白いのは、アメリカ人らしい、割り切った合理主義でしょうね。そもそも多くの教科をまんべんなく学び、理解する事が必須であるなどと思っていません。小学校から図工や音楽は選択制だったりします。趣味趣向に類する
科目なので、やりたい生徒がやれば良い…なくても生きる上では困らない(笑)。
この選択制は上の学校に進むとより多くなります。
必修科目も日本より少なく、学ぶ内容も少なく、進捗速度もかなり遅い。
逆に優秀な生徒は飛び級出来ます。優秀な者はどんどん先に進めば良く、
そうでない生徒は自分なりにやれば良い…大学入学時点の平均的学力は、
概ね日本の高校1年生レベルなのです。
高校の授業もディスカッションが多く、クラスもなく、日本の大学の様な
単位システムになっています。学年毎の教科書にある内容は全て理解して覚えなさいという日本のカリキュラムとはかなり違いますね。それよりも議論したり、
ボランティアが必須だったり、行動や社会貢献を重視しています。
大学の入学システムも日本とは大分違います。アメリカにはそもそも全国一斉の
入学試験制度がありません。また個々の大学や学部が入試を設けることも
原則していません。そのような一発かぎりの試験ではなく、
書類審査によって出願者をさまざまな観点から評価して、合否を決めるのです。
その基準も大学によって一律ではありません。
なので日本の様な偏差値も存在しません。日本で言えば、企業が新卒の正社員を
採用する様なやり方なのです。ハーバード大学は素晴らしい大学ですが、
学力だけで入学出来る訳ではないのですね。
一方で親がハーバードの卒業生だったり、有名人だったり、有名企業の経営者や
重役だったり、大学に多額の寄付をしていたりすると楽に入学出来たりします。
誰を入れるかの選択肢は大学側にある…という訳です。でもこれ、多様性がある様に見えて、公平性の観点から見るとかなり歪んでいるとも言えるでしょう。
州や地域による教育格差が大きい国なので、こういう有名大学はアメリカ国内の
高校をランキング付けしており、そのランキングの上位に掛からない高校だと、
箸にも棒にもかからない可能性が高いのです。
特に国公立の大学は、多額の税金が投入されて運営されている訳ですから、
納税者には等しく機会を与えるべきである…それは理念として
最低守らなくてはならないはずなのですが。
※ちなみにアメリカの私立大学は税金の補助がほとんどなく、学費が半分、残りの半分は卒業生の寄付と、大学が運営するファンドの利益、特許収入、著作権などによって運営されていることが多い為、日本とは事情が異なります。大学というより、
営利の投資会社みたいな側面があるのですね…。
この様なシステムだと、当たり前ですが、大学入学時の学生間の学力差が大きく、
教える側は学生の学力レベルを基本的に信用していないので、中に入ってからテストだらけになります。学力が足りない学生は入学後に相当勉強しなくてはならない…
それは当然であると考えている訳です。
日本の場合は公平性の観点から、どこの大学も基本的には学力試験のみで選抜し、
有名大学にはかなりの学力がないと入学出来ません。しかもそれら試験の多くは
文部科学省の学習指導要領を超える内容なので、日本の受験生は高校の学習
+アルファの勉強をしている事になり、また大学側もこうした厳しい
試験をクリアして入学して来た学生の基礎学力を信用しています。
アメリカ人は日本人だったら高校で済ませている内容を、
大学に入ってから学んでいるのですね。
但し、優秀な能力があればかなり若い年齢でも上の学校に進めるので、
天才、秀才と言われる様な人材にとっては、日本より早く成長が可能です。
以上の事から高校卒業までの教育でわかるのは、
日本
・高校卒業までに多くの必修科目をまんべんなく全ての生徒が学ぶ事を求める。
・上位学校への進学では公平性の観点から学力試験を重視する。
・原則特例は認めない。飛び級制度はあるにはあるが、ほぼ活用されていない。
・各都道府県全てが文部科学省の要領に基づく教育を行うため、地域差が少ない。
・クラス単位とクラブでの活動を重視。集団の規律を求め、それも教育と考える。
・大学入学は原則として学力試験の結果で決まる。
アメリカ
・小学校、中学校、高校は(6・2・4)の12年。
・高校卒業時点の学力は日本の高校1年レベル。
・高校卒業までは義務教育なので、公立高校は原則無料、入学試験もない所が多い。
・公立校と私立校の差が大きい。裕福な人々が住む地区の学校が優れている反面、
そうではない地区の学校はかなり悲惨である。
・クラスやホームルームの授業がない。服装も自由である。
・必要最低限の必須基礎科目を学び、それ以外は選択科目になる。議論を重視する。
・上位学校への進学では総合的な評価を重視する(学力以外の要素も重視される)。
・能力がある者の特例扱いを推奨する。飛び級も大いに認める。
・各州によって教育内容が異なり、地域差が大きい。日本の様に国が主導して
カリキュラムを定めていないので、州や地域毎で内容がかなり違う。
・大学入学は高校時代の成績と、各大学独自の基準で判定される。
さて、みなさんはこれを読んで如何思われるでしょうか?
私はそれぞれ一長一短があると思います。
日本は高校卒業までにかなりの学力を求める一方、上位学校への進学に関しては、
入学学力試験の結果を重視、これは地道な勉学の努力が報われるシステムです。
地域差も少ないので、生まれた場所でのハンディのも小さい。但しかなりの
学力が要求されるので、ついていけない生徒が一定数出ると思います。
大学に入ってからは自主性を重んじ、かなり自由な選択が出来るシステムです。
遊ぶもよし、自分が興味のある、好きな分野の学問を究めるもよし、日本の大学生は勉強せずに遊んでばかりと思っておられる方が多い様ですが、大学本来の在り方は、むしろ日本の方が理想なのでは?と思ったります。
勉強とは学問だけではありません。人生において、同じ学力レベル
且つ利害関係のない同世代と、同じ空間で自由に行動出来る機会は少ないのです。
学問や様々なクラブ活動等、青春を友人達と共に自由に謳歌する事は、
人生において貴重な経験になる事でしょう。
一方、アメリカは各自の個性や能力を伸ばす事を重視しています。
必要最低限の事は学んだ上で、後は各自の得意な分野を強化する訳です。
優れた才能の持ち主は早く開花する事でしょう。ただ上位学校に進学する場合、
基準が曖昧だったり、学区や、公立校、私立校の差が大きかったり、
この為大学入学以降で、日本に比べて足りない内容をかなり勉強しなくては
ならない…という要素があります。
私が想うにアメリカの学校の地域差が非常に大きいのは、かなりやばいと思います。
裕福な人々が住む地区とそうではない地区の差が極端過ぎです。アメリカの公立校は
学区制なので、レベルの高い学校に行くには、その学校の学区に住む必要がありますが、皆が同じ事を考えるので、そういう学区の居住費は非常に高くなっています。
これって、レベルの高い学校は金持ちでないと入れない事を意味します。
学校の諸経費はその学区で支払われる税金の額に比例する為、豊かでレベルの高い
学区の学校は設備も整い、教師の質も良く、貧しい学校は学校内で麻薬が取引されたり、銃を持った警察が常に巡回していたりします。アメリカはこういう学区の
違いによる学校ランキングが平然とネットでアップされているのですよ。
日本人が留学するのはこういうランキングでは上位の学校なので、これが
アメリカの平均なんて思うと大きな勘違いをする事になります。
私立校の場合、日本に比べて学費がかなり高額な事も問題でしょう。
ハーバード大の1年の授業料は8百万円くらいだったりします。
いくら物価が違うと言ってもこれは極端過ぎます。
大学での奨学金の負債で自己破産する人が多いなど、本末転倒も甚だしい。
今のアメリカは結局の所、有力者やお金持ちが極端に有利になるシステムなのです。
移民が多い事もありますが、アメリカは2017年の段階で、成人の約8.1%が
英語での読み書きが出来ません。これは日本ではあまり知られていない、
アメリカの暗部です(それだけ格差が大きい)。成人の8.1%って、
そういう人が2000万人近くもいるのですよ。
これに比べて日本は、特に国公立大学の学費が国際的に見ても極めて安く、
その中でも医学部の学費の安さは図抜けています。産業医科大学では
学費免除になるコースもありますし、防衛医科大学に至っては、
給料を貰いながら医師を目指す事が可能です。
日本は天才を発掘する事より、平均的な質を高める事と公平性を重視しています。
アメリカはやはりというか、色々な意味で資本主義、能力主義が徹底していると
言えるでしょう。平均的な人がレールにのって幸せに暮らすのは、やはり
厳しい環境なのではないか?と思うのは、私だけではないと思います。
世界でもっとも成功した社会主義国…
日本がそう言われる理由は、こういう教育システムにもあるのです。
ちなみに私が大学で教えて貰っていた教授は、こんな事を言っていました。
『高校の学習内容を完全に理解したとしても、それはそれぞれの専門分野で、
あくびが出る様な基礎の基礎を理解したに過ぎない。
そのくらい、四の五の言わずに自分のものに出来ないでどうする。
そんな事もわからん奴が大学に来る意味などない』
このド正論がもしかしたら一番、的を得ているのかもしれないですね。
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