かけっこの王国。
昔々ある所に王国がありました。
この国を治める王様には3人の王子がいました。
ある日、王様は3人の王子を呼び出し、
100メートルのかけっこをさせました。
そうして一番速かった2番目の王子に王位を譲りました。
2番目の王子による治世は素晴らしく、
彼は王国に攻め込んできた敵や魔物を撃退し、
経済を発展させ、王国を大国へと成長させました。
そしてその王子は偉大なる王として、
その王国の歴史に名を刻む事になったのです。
そしてそれ以降、その王国では、国の要職に就ける人材を、
かけっこによって選ぶ様になりました。
毎年成人した男女を会場に集め、
彼らに100メートルのかけっこをさせるのです。
そしてそのタイムが良い者から順番に国の要職に任命しました。
なので、その王国は周りの国から、
【かけっこの王国】と呼ばれる様になりました。
時に参加者からは不満の声があがりました。
『かけっこの能力だけで人を判断するのは、不公平ではないのか?』
それに対して、王国の大臣はこう答えました。
『かけっこが速くなる為には、たゆまぬ努力と強い精神力が必要だ。
つまりかけっこの速い者はそういう能力の持ち主なのだ。
そして一芸に秀でているものは、他にも秀でているものである。
それはこの王国の歴史が証明している…』
さて、この寓話を読んで皆さんはどう思われたでしょうか?
国や企業の要職…つまり良いポストは数がどうしても限られるので、
大勢の希望者に何らかのテストを行って選別する必要があります。
それがこの王国では、【100メートルかけっこ】なのですね。
これを現在の日本に置き換えると、
【英国数理社】のペーパーテストという事になります。
そして企業の面接の担当者は、だいたいこう言う話をすると思います。
『【英国数理社】で高い点数を取る為には、
たゆまぬ努力と強い精神力が必要だ。
つまり受験戦争の勝利者はそういう能力の持ち主なのだ。
そしてこれに秀でているものは、
他の能力も秀でているものである。
それはこの企業の歴史が証明している…』
私は個人的にこの意見には全く賛成できません。
かけっこは生まれつきの才能による差が大きい…
つまり全く同じ努力をしても、全ての人が同じように速くはなりません。
例えタイムは遅くとも、人の何十倍も努力した人だっている事でしょう。
逆に言えば、碌に練習しなくても、良いタイムが出せる人もいるはずです。
【英国数理社】で良い点数を取るのも、個人的にはこれと同じだと思います。
もの凄く努力して頑張ったけど、有名大学には合格しなかった人がいる…。
一方で大して努力もしていないけれど、有名大学に合格する人もいる。
これらのペーパーテストは数理的な理解力と記憶力を試している訳ですが、
同じ努力量でもかけっこと同様に、個人によって差がでます。
それは数理的な理解力や記憶力というものは、遺伝的な素質にかなり
左右されるからです。これを全て努力でカバーできるという人は、
誰でも努力すれば、100メートル走で10秒を切れると言っている様なものです。
それと能力には男女差も存在します。
難易度の高い国立大学や医学部は多くの場合、
合格者の男女比率が7:3とか8:2になるのですが、
これは現在の試験制度が男性有利に出来ている
事を示唆しています。これほど差が出る様な試験は、
男女の公平な能力発揮という観点から言えば、
良い制度だとは言えません…。
以上の事から、ペーパーテストは努力する力や精神力を測る
絶対的な基準とはなり得ないと思うのですね…。
数理的な能力と記憶力が高ければ、
歴史に名が残る偉大な人物や経営者になるのでしょうか?
偉大な発明や発見が出来るのでしょうか?
商売人として成功出来ますか?
世界のタフガイを相手に交渉が出来るでしょうか?
国の防衛が出来るでしょうか?
世界平和や人類の福祉に貢献出来ますか?
偉大な芸術作品を創作出来るでしょうか?
長い歴史が私達に教えてくれるのは、
その答えが【No】であるという事です。
受験とか、企業の面接とかで落とされたのは、
自分が無能だからだと考えて命を絶つ人までいますが、
こういう世間的な物差しだけで全て上手くいく事などありません。
生きる上で自分と向き合い、自分は何に向いているのか?
そして自己実現をはかる為にはどうすれば良いのか?
自分の人生の尺度は自分で決めれば良いのです。
まずは自分を愛し、自分にまっすぐ向き合う事が人生では大事…。
長引くコロナ渦の中、女性の自殺者が非常に増加しているという
記事を読んだ私は、心からそう思うのです…。
もっと肩の力を抜けば、世界はもっと明るく、
広く見えるはずだと思うのですね…。
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