中国による台湾侵攻を考察する。

中国が台湾に侵攻する可能性に関する議論が高まっているので、

今日はそれについて考察してみたいと思います。


今日の台湾は、完全な独立国と考えて良いでしょう。

国家の要件である領土、国民、政府をきちんと有しており、

その経済力、軍事力も国際的に侮れないレベルになっています。

また台湾は、TSMCを初めとする最先端の半導体製造企業を有しており、

半導体の重要なサプライチェーンを構成する世界有数の国家です。

故にこの国で大きな問題が起きると、全世界の半導体の供給に致命的な問題が

発生します。地政学的にも東南アジアにおける海上交通の要衝にあり、

ここを押さえられると、日本、韓国、フィリピン等の海上交通に

重大な問題が発生します。アメリカが事ある事に台湾問題で中国をけん制するのには、十分な理由があるのですね。


この様な国家を中国が完全に自国の物にするのは、中国にとっても非常にメリットが大きい為、以前から台湾の国民党(中国との統一を推進する政策を掲げている台湾の政党)を支援し、台湾側から望んで中国に統一されるというシナリオを推進して来ました。


ところが、2012年に国家主席となった周近平は大きな失策を犯します。彼は台湾を統一する前に香港の民主制度を非常に強引な手段で破壊したのですね。これを見た台湾国民は中国に統一されるとどういう結果を招くのかを改めて強く認識し、以降、台湾国民党は国民の支持を失います。この為中国が政治的に台湾を統一出来る可能性は現在の所ほぼ消滅し、中国が短期間で台湾を得るには、武力侵攻以外の選択肢がない状況に陥っています。


では、中国が台湾に武力侵攻する場合のシナリオを考えてみましょう。


①一番合理的な方法は、台湾内部に親中国の武装集団を作り、彼らを秘密裏に支援、台湾国内でクーデターを起こさせる事です。これが成功すれば形式的に台湾側から申し出る形で中国との統一が達成出来ますが、台湾軍内部に協力する勢力が一定数いないと、成功はおぼつかないでしょう。まあ、こんな事はとっくの昔にやっているのでしょうが、上手くはいっていない様ですね。もっと強くやるなら、台湾内に作った親中国の武装勢力が武力蜂起すると同時に中国軍が攻撃を行い、短期間で台湾の政府と軍を完全にマヒさせ、制圧するという戦略が考えられます。限定的に中国の航空攻撃や中国本土から発射される地対地ミサイルによって、台湾政府や軍の主要拠点を破壊し、親中武装勢力の蜂起を支援するのですね。このシナリオは中国本土からの武力攻撃を伴いますので、当然ですが、台湾軍及び米軍と戦闘になると思われます。軍事的セオリーから考えれば、台湾のすぐ傍の沖縄にある在日米軍を叩く必要もありますが、これは日本本土攻撃になりますので、日本も敵に回す事になります。これも成功の為には台湾軍内のかなり大きな部隊が丸ごと中国の味方になる必要がありますが、現実的にはやはり難しいでしょう。


②中国軍が全力で台湾に侵攻し、完全に武力制圧するという作戦です。現在台湾には、10万人を超える陸軍並びに海軍陸戦隊の正規軍がありますから、これを制圧するには万オーダーの中国陸軍を台湾に上陸させる必要があります。第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦の様な本格的な上陸作戦を行うには制海権と制空権を中国軍が握る必要がありますが、台湾海空軍、アメリカ太平洋艦隊、在日米軍、日本の海空自衛隊とまともにぶつかると、中国海空軍の勝ち目は薄いでしょう。台湾へ向けた上陸部隊の編制を台湾近辺の中国本土で行えば、そんな大規模な軍の編制など監視衛星から丸見えですから、相手にも準備をする余裕を与えます。21世紀の海上や空の戦いは、数よりも質が重要であり、主要兵器が旧ソ連のコピーである中国軍にはそれがありません。じゃあ、中国本土からミサイルによる飽和攻撃を行えば、台湾は降伏するだろうという人がいるかも知れませんが、そんな事をして台湾の国土を徹底的に破壊してしまうと、大きなリスクを払って自分の物にしても意味がありません。なるべく無傷で手に入れる必要があります。


この様な方法で台湾を強引に占領した場合、中国はアメリカを中心とした国際社会からかなり厳しい制裁を受ける事が予想されます。国際貿易や金融関連での強烈な制裁は、中国経済に大きなダメージを与え、失業者の急増に伴う内政不安を発生させます。これに現在の中国共産党が耐えられるかどうか…。このあたりの問題を現在の中国政府がどの様に考えているか?ですが、戦争というものは、見方を変えると失業対策の一環でもあるので、注意しておく必要があります。


2022年末に中国はコロナ規制を廃止し、2023年から大きく復活すると思われていましたが、蓋を開けてみると、中国の上場企業は平均11%の従業員の削減を行っています。上場企業でこれですから、これより規模の小さい企業はより多くの人員削減を行っているでしょう。倒産したり廃業した企業も前年から大きく増加しており、若者の失業率が公式発表で20%を超えています。中国の公式統計だと平均失業率は5%台前半のはずですが、中国の企業数と就業者数の推計を元に計算された実質的な中国の失業率は30%近い言われており、世界恐慌で最悪だった時のアメリカの失業率と大差ありません。この巨大な失業問題を解決する為に戦争を行うという判断を中国共産党が絶対にしないとは、私は言い切れない気がします。彼らを戦場に送り込む事で失業問題を改善し、合わせて一人っ子政策によって大幅な不均衡になっている男女比も改善する…どうしたところで酷い恐慌に落ち込むのなら、歴史的偉業としての台湾奪回を行って自身の権威を高めよう…。これ、実は第二次世界大戦でドイツのヒトラーがやろうとした事に似ています。


当時のドイツは短期間での無理な軍拡と公共事業の大判振舞いで財政が極端に悪化し、支払い用の外貨の資金繰りが逼迫して、国家破綻寸前でした。ヒトラーの経済政策は、国家破綻を侵略戦争によって打開する事を前提に作られていたのです。周近平が同じ事を考えている可能性が全くないとはとても言えません。


台湾を巡る全面戦争が起これば、好む好まないに関わらず、日本は巻き込まれる事になるでしょう。アメリカにとって台湾の陥落は、自国の半導体産業の壊滅を意味します。アメリカは台湾防衛の為に沖縄の米軍基地を最前線基地とするでしょうし、当然日本に軍事協力を求めて来るはずです。何より中国側から見れば、台湾の至近にある沖縄の米軍基地は、必ず叩かなければならない軍事拠点です。


日本のライフラインを支える原油を積んだタンカーの多くは台湾沖を通過しますので、日本の生命線も脅かされます。短期間でそれが終わる保証はどこにもありません。


ウクライナとロシアの戦いは、アメリカが敵対視した国を追い詰めすぎるという、いつものパターンで起こっています。20世紀のアメリカは、敵対視した国家を徹底的に追い詰めて戦争を勃発させる事を繰り返して来ました。その都度巨大化しているアメリカの産軍複合体は巨額な利益を上げ、多くの不幸な人々を溢れさせました。今の中国はアメリカの覇権にとっては悪かもしれない。しかし、必要悪として割り切って、現状維持程度は出来る程度に留めて置くというのも立派な政策です。アメリカが窮地に陥った中国をこれ以上追い詰めると…中国の台湾進攻はより現実味を帯びる様に私は想えてなりません。

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