2023年春…銀行について想う。

2023年3月、アメリカのSVB(シリコンバレーバンク)の倒産騒動が世界中で話題になりましたが、イタリアでは政権交代に伴い、この様な銀行危機に対処する為に、

銀行を商業銀行と投資銀行に完全に区分けするという法案が審議されています。

なので、今日は銀行という存在について考えてみたいと思います。


日本の銀行は【銀行法】という、特別な法律によって規定された民間企業です。銀行には預金者の預金を預かるという、他の業種には認められていない、特別な利権がある一方、変な事に手を出して倒産すると、預金者に多大な迷惑がかかりますから、

この法律で、銀行としてやって良い事とそうではない事を規定しているのですね。


そこで出て来るのが、商業銀行と投資銀行です。商業銀行は預金者から預かったお金を他者に貸し出してその利ザヤで収益を上げるという、歴史的にも銀行の本業と言えるものです。一方投資銀行は、19世紀になって現れた比較的新しい形態で、

これは預金者の預金を使って主に株式や先物商品、債権やデリバティブと呼ばれる複雑な金融商品に投資し、その値上がりや利回りで収益を上げるという業態になります。商業銀行に比べて高い収益を上げる事が出来る反面、

高いリスクも取る事になるので、リーマンショックの様な大きな問題が発生した場合、巨額の損失を被る可能性があります。


で、何故イタリアではこの2種類の銀行を分けようとしているのか?ですが、

実はこの考え方は随分前からあるもので、銀行の収益よりも預金者の預金保護を優先しょうとしているのですね。銀行は以前のひそひそ話で書いた、資本主義の詐欺の一種…銀行業のみに許された、信用創造という方式で、自身が持っているお金の何倍もの金額を市場に貸し出していますから、銀行経営に失敗し、取り付け騒ぎが起きれば瞬時に倒産します。しかし、その影響範囲が余りにも広範囲で甚大な損害をもたらす為、大半の国では預金者の預金保護の法律を制定しています。日本の場合は、

現預金に限り、上限を1000万円として国が預金を保護してくれますので、

たとえ銀行が倒産しても、国がかなりの金額の尻ぬぐいをしてくれる訳です。


こんなのは普通の民間企業ではあり得ない事です。

普通の企業は、経営が失敗して倒産すると、その株式は紙切れになって価値を失い、

株主…投資家が全損して終わりです。

でも銀行はそうではない。かなりの金額を国が国庫から保証してくれるのです。

この安心感があるからこそ、銀行は預金者から多額の預金を集められるのですが、

それに甘えてリスクの高い…投機に近い金融商品に手を出した挙句、倒産したら御免なさいでは許さないぞ…という事をイタリア政府は考えているという訳ですね。


商業銀行と投資銀行を分けるという事は、商業銀行の預金は国が保護するが、

投資銀行の場合はそうではない…そういう事になるのです。

歴史的には、世界恐慌とかリーマンショックとか、そういう大きな経済危機になった時はこういう銀行規制の議論が高まり、そうではない時にそれが緩くなる…アメリカの銀行法なんかは世界恐慌の後に極端に厳しくなりましたが、最近はそれが骨抜き状態で、殆ど何でもありになっています。景気が良い時は投資銀行の方が儲かるので、商業銀行もそれをやりたい…色々献金とかを政治家にして、

法律を骨抜きにして貰う…という訳です。


では日本の銀行はどうかと言うと、現時点ではアメリカに近い…

特にメガバンクなんかはアメリカの大手銀行と同じ業態です。

つまり、同じグループで内で、商業銀行と投資銀行、両方の業務を行っているのですね。見方によれば預金者と国にリスクを負わせて、巨額の利益を稼ぐ事に邁進していると言えます。今の様に景気が悪く、金融緩和で利率が低い市場環境では、

優良な借り手は低い利率でないとお金は借りてくれません。

利率が高く取れるのは他の銀行が貸したがらない、

貸し倒れリスクの高い貸出先になります。

この環境では商業銀行はあまり儲かりませんから、

投資銀行的な部門が社内では花形となり、出世するのはこうした部門の人間なので、次第に銀行はリスクの高い投資にどんどんシフトして行く様になるのです。


本来銀行には、貸出を通じて産業を振興するという社会的使命があります。ですが銀行は貸出先に対しては厳格に担保を要求するばかり、特に日本では、中小企業の多くで、企業経営者に連帯保証を取るのが当然になっています。本来、株式会社というものは、株主に限定した有限責任で、経営者に連帯保証させて無限責任を負わせるというのは、株式会社の原理原則を無視する行為であり、日本で起業が増えない理由のひとつになっています。何しろ一度でも失敗すると、身ぐるみ剝がされて、無一文になるのですから。中小企業の経営者の自殺が非常に多いのも日本です。一説には生命保険を担保に連帯保証しているケースもあるそうですから、もはや異常を通り越して違法です。世界的にもここまでやるのは日本くらいだと言われており、強く非難されています。


私がいつも思うのは、銀行は貸出先には非常には厳しい要求をする一方、国の保護による信用に甘えて多額の預金や資金を集め、それをハイリスクな金融商品に投資して、濡れ手に粟の利益を上げる…という事を当たり前だと思っているという事です。人に厳しく自分には甘々…と言ったら言い過ぎでしょうか?弱い者虐めにしか見えませんね。


日本には地方銀行等、小規模な銀行が1000行以上も存在しており、近年の低金利によって収益の少なくなったこれらの銀行は、大手のメガバンクや証券会社と組んで、仕組債やファンドラップ等、銀行が手数料収入を稼ぐ為だけに作られたとしか思えない、悪質としか思えない金融商品を多数販売し、

顧客に大きな損失をもたらすという問題を起こしています。


金融庁が調査に入るくらいですから、マスコミが取り上げていないだけで、相当深刻な社会問題になっていると思われますが、金儲けだけしか頭にない悪徳商人の様に思えるのは、私だけでしょうか?顧客の大事な預金にはリスクを負わせて投機に近い金融商品を運用し、碌に利払いもぜず、詐欺に近い金融商品を販売して多額の収益を上げる、一方で貸出先には極めて厳格な態度で臨む。澄ました顔でなにわ金融道を邁進している様にしか見えませんね。今度1万円札の顔になる偉大なお方は、きっと今の日本の銀行の姿を見て、嘆いておられるに違いありません。


偉大な作家であったマーク・トウェインはかつて、

【銀行とは、晴れている時に傘を貸し、雨が降り出したらそれを取り上げる所だ】

と語ったそうですが、私もそんな風に思うのです。

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