これからの世界経済について想う。

新型コロナの拡散で世界経済は危機的な状態になっています。

私は大学で経済学を学んだので、今回は今の世界経済と、

その今後について少し考察してみました。


私達の生活が経済活動で飽和してくると、

それ以上経済活動を増やす余地が無くなるわけですから、

経済成長はそこでおしまいです。経済が成長しない時代には、

売上を増やして利益を出すのが難しいので、

会社は人件費を減らして利益を出そうとします。

人件費以外もいろいろな費用のコストダウンを追求する訳ですが、

そうすると仕入先の会社の売上が減ることになって、

結局よその会社の人件費を下げることになります。

支出というのは、たどっていくと最終的に全て人件費なのです。

なぜなら、お金を受け取って働くのは人間だけだからです。


経済成長の無い定常的な社会では、会社が利益を出すために

人件費が削られることになり、社会の大多数の人々の収入が減って

格差社会になるというわけです。多くの人々の収入が減っていく社会では、

経済活動が活発になるわけがないので、ますます経済成長しにくくなります。

「売上が増えないのなら人件費を減らしてでも利益を出すのが

株主に対する会社の責任だ」というのが資本主義の理屈です。

個々の会社としてはそうするのが合理的だとしても、

多くの会社がそれをやると社会全体で見れば経済成長を妨げることになります。

人件費を削って利益を出すというやり方は、

資本主義の原則に忠実にやっているつもりでも、

結果的に資本主義の首を締めているのです。


なぜその様な矛盾が生じるのかというと、

経済成長が限界に達したのに、経済成長を必要とする資本主義システムが

今までどおりに動き続けているからです。

何がなんでも利益を出せというのが資本主義システムです。

利益の出ない収支トントンの会社であっても、

社会の需要を満たして従業員の生活費が払えているわけですから、

存在意義はあるのですが、資本主義の論理はそんな意義を認めません。

利益を出さないと投資を続けてもらえくなって会社は潰れる事になります。

その上絶え間のない技術革新は、効率を高める事で、

相対的に付加価値の低い労働を無価値なものに変えます。

今まで10人で作業していた労働が、時間を経ていく内に

8人で良くなり、5人いれば十分になるという話です。

AIの導入がこれから進めば、その動きは加速化されるでしょう。

個別企業にとっては効率化によって原価を抑え、利益を上げるという

事になりますが、資本主義全体から見れば、

労働者、即ち購入者の減少を招き、自らの首を絞める事になります。

この矛盾は簡単には解決しません。問題を解決するためには、

経済成長には限界があることを認めなくてはなりませんが、

今のところ「経済成長を続けるにはどうすれば良いか」

という方向でしか議論されていないですよね。



かつてはこういう自己矛盾を全て解決する手段として、戦争が存在していました。格差の拡大に伴い、いつの時代も最大の不利益を被るのは若年層ですが、

彼らを戦場に送り込む事によって失業問題は解決する。

つまり彼らが戦死する事によって、失業の問題が小さくなるという訳です。

更に言うなら、あらゆるものを破壊しつくす事により、

需要が再び喚起される。莫大な死者と不幸な人々を作り出す戦争は、

一方で資本主義の安全弁として機能したのです。


しかし技術の急速な進歩は、大量破壊兵器を人類にもたらし、

戦争による究極の破壊が人類その物の息の根を止める可能性が高まった事から、

全世界規模での戦争など、ありえない事になってしまいました。

もはや資本主義の再生の為に大規模な戦争を起こす事は不可能なのです。


21世紀、人類は壮大な実験、つまり、大きな戦争を経ないで

如何に資本主義システムを維持するか?

という難しい課題に直面しています。

過去の経験から各国の金融システムの連携は高まり、金融政策の融合により、

多少の危機回避は出来る様になってはいますが、それらは全て医療行為における「対症療法」の域をまったく出ていません。

要するに根本的な対策にはなっていないのです。

重病人がカンフル剤を打ち続けて、表面的には健康を維持している様に

見せているのだと言って良いでしょう。


各国政府は本来、こうした格差の拡大を緩和する存在として、

持つ者から税として資産を取り上げ、貧しい者に還元するという

役割がありました。

しかし究極にグローバル化したこの世界では、もはや1国の政府による

資産のコントロールは不可能になっています。

利益を生み出す機能を持つ企業体は、本質的にコストの高い国から、

よりコストの低い国へと資本を移します。

故に課税を強化すればその国の経済力は大きな打撃を受ける。

資本が逃避してしまうのです。やるとするなら地球規模での

コントロールが必要ですが、 残念ながらそのようなシステムを

人類が構築する事は、少なくとも今世紀中は不可能でしょう。


第二次世界大戦の終結から既に75年が経過し、

資本主義の矛盾の蓄積は進んでいます。

実態経済の規模をはるかに上回るマネー量の拡大は、

風船が限界まで膨らんでいる様相を示しています。

ほんの僅かなショックで破裂しかねません…。

そのバランスをかろうじて維持しているかの様に見えます


その上、地球環境は現在の資本主義システムを長く維持出来る程の

ポテンシャルを持っていません。この地球は容量の限られた世界なのだから、

そもそも際限ない経済成長を許すような キャパシティーを持っていないのです。

化石燃料に頼り切った今のエネルギーシステムの限界は、早晩やって来ます。


EUの共同体での失敗は、この世界の統合が如何に難しいかを端的に示しました。EUはそもそも1国/1国では、アメリカや日本、中国との競争に勝つ事が難しい為、

ブロック経済化してそれ以外の国を締め出し、総合力で勝つことが本来の

目的でした。しかし各国の経済事情をまったく無視した通貨統合による矛盾が噴出し、EU内で途方もない格差を生む結果にしかなりませんでした。

本来なら日本の地方交付金の様なシステムを作り、

経済的に豊かな国から貧しい国へと資本を還流させ、

全体的な成長を計るべきところ、実際には貧しい国から豊かな国への

資本還流が起きています。EU各国の市民にはEU市民としての意識はなく、

最終的に自分の国さえ良ければそれで良いという意識から一歩も

抜け出せていません。自分達の国の税金が、自分達以外の国の者達の為に

使われるのが我慢ならないのです。これでは全体的な向上になんら繋がりません。

中長期的に見てEUの凋落は免れないでしょう。

結局の所、人類が本当の意味での「地球市民」的な意識へと進化しない限り、

資本主義の呪いから逃れる事は出来ないでしょう。豊かな国から貧しい国へと

正しい資本還流を起こし、相対的に貧しい人々を減らす事によってでしか、

本質的な問題の解決は出来ません。

ですが、XX国としての国民意識すら怪しい人々が多くを占める様な

この世界は、まさしく弱肉強食以外の何物でもないのです。

資本主義=弱肉強食と言い換えるべきかも知れません。



強い者が弱い者を全て食らいつくすのが資本主義の本質です。

この世界の上位62名の資本家の財産の総額が、下位35億人の財産の総額を

上回るという現実に戦慄を覚えるのは、果たして私だけしょうか?

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