第八話
「調査結果はこれダ」
「ずい分早かったな」
再び
本来ならデータカードの納品だけでも事足りるのだが、議員などという人種の多くは機械音痴で大抵すぐに結果を確認したがる。そのための紙の資料というわけだ。
「裏金に……これは公職選挙法違反に繋がるな」
「満足したカ?」
「いいだろう。ところでジェームズ」
「何ダ?」
「君にはずい分可愛らしい彼女がいるようだね」
「それが何カ? 彼女に手出しをしたら先生の命はないゾ」
「おいおい、物騒なことは言わないでくれ。何もしたりせんよ。ただ君はあちこちから恨みを買っているようだから忠告しておこうと思ってな」
「先生の身辺を探るのはやめろト?」
戸倉は自由民権党の次期総裁候補として名が挙がっている有力議員だ。しかし裏金はもちろん後ろ暗い噂は後を絶たず、党内にさえ彼の失脚を目論む者は多い。
そんな彼にとってジェームズは諸刃の剣と言えた。味方であるうちは心強いが、敵に回すと厄介この上ない男なのだ。ところがここにきてジェームズに弱みが現れた。
「痛くもない腹を探られるのは気分のいいものではないからね」
「忠告、感謝すル」
痛みしかないクセに、とは喉元まで出かかった言葉だった。
◆◇◆◇
ジェームズ・テイラーは確かに戸倉議員の調査依頼を受けていた。しかし内容が内容なだけに戸倉も慎重で、なかなか尻尾を掴めなかったのである。
依頼を受けてから一カ月余り、これほどの長期間結果を出せずにいたのは今まで一度もなかった。ということは本当に白なのではないか。そう報告するしかないと考えていたところに、ヨウミレイヤから念話で思わぬ情報がもたらされたのである。
『戸倉は今夜、銀座の料亭で
重役の名は
狙いは料亭を出て雪車水が戸倉と別れてからとなるだろう。議員に封筒を奪ったのが自分だと知られるわけにはいかないからだ。知られれば
また、雪車水に自分の顔を見られるわけにはいかない。そのために彼は元アメリカ海軍ネイビーシールズの同僚二人を金で雇った。彼らならたとえ関係者全員を殺さなければならなくなっても戦力としては十分である。
戸倉と雪車水が料亭に入ってからおよそ二時間後、黒塗りの高級外車が前後を別の車に挟まれて入り口の前に停められた。
まず料亭の女将と思われる和服姿の女性が姿を見せる。続いて現れた四人のSP(セキュリティポリス)が周囲を警戒し、彼らが道を作る形で左右に分かれて立ってから戸倉議員が出てきた。
ジェームズは他にも私服の警察官が周囲に溶け込んでいるのを確認している。
「議員が去れば警察官もいなくなル。そこで
「「ワカッタ」」
読み通り議員とSPを乗せた車三台が走り出して間もなく、私服警官たちも数人を残して姿を消した。あの人数であれば無力化は容易い。殺さずともテーザーガン(離れた場所からおよそ五万ボルトの電撃を与えられる銃)で意識を刈り取ればいいだけだ。
間もなく新たに黒塗りの高級国産車が現れた。雪車水は一般人なのでSPの類いは近くにいなかったが、傍に控えている秘書らしき男は相当の手練れに見える。その秘書が抱えている鞄に目的の封筒が収められているのだろう。
彼を見送るのは料亭の女将のみだった。彼女と雪車水、秘書をテーザーガンで撃ってから運転手を車から引きずり降ろす。秘書から鞄を奪って車に乗り込み逃走というのが今回の筋書きだった。
スマートさに欠けるが背に腹はかえられない。しばらく走ってから車を乗り捨てれば仕事はほぼ完了である。
「よし、行くゾ!」
パンッと乾いた音が耳に入る。しかしそれは標的に向けられたものではなかった。直後、ジェームズは背中に激痛を感じる。テーザーガンで撃たれたのは彼自身だったのだ。
「うぐッ! な、何故ダ!?」
「オマエヨリオオクカネヲハラッテクレタ」
「セイコウスレバセイシキニヤトッテクレルソウダ」
「ワルクオモウナヨ」
首の後ろに打撃を受け、ジェームズはそこで意識を手放してしまった。
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