第九話
八月に入ったある日、俺は
今回は
和子様がいるのでグランクラスという特別車両を貸し切りにしたのだが、確かに
軽食の提供と飲み物は酒も含めて飲み放題らしかったが、俺はほとんど手をつけなかった。和子様の
グランクラスの車内は通路を挟んで単独と二列のシートに分かれる。俺は単独シートに座り、通路の向こう側に美祢葉と和子様が座る。俺の前後はハラルとルラハが陣取り、側衛官は和子様たちの前後に分かれた。
ちなみに和子様はお忍びだったが、JRと呼ばれる鉄道会社の東京駅では他の客に気づかれてちょっとした騒ぎになってしまった。こういう時にきっちり仕事をした側衛官は少し見直したよ。
それはそうと和子様の乗車をJRに伝えた結果、通常は一人だけのグランクラスのアテンダントが三人体制になっていたのはやり過ぎだろうとツッコミたくて仕方なかった。
ところで何故俺たちがわざわざ列車で移動しているかというと、三妻育成園の皆をスパと恐竜飼育地に招きたかったからだ。つまり
スパの方も現在は月に一度の軍への貸し切りを停止しているため、これを彼らに開放すれば他の客を気にすることなく楽しめるだろう。
和子様の育成園訪問も当然お忍びだった。三妻園長一家は別として、子供たちにはおそらく身バレはしないのではないかと思う。和子様が出席する行事自体少ないので、ニュースなどに取り上げられる機会もほとんどないからだ。
とは言えこの可愛さだから世界中にファンがいることは間違いない。そんな彼女を射止めた俺は果報者と言えるのだろうか。しかしじゃじゃ馬だぞ。
「レイヤさん、今とっても失礼なことを考えてませんでしたか?」
「とんでもありません」
実は彼女と深い仲になってからもお互い敬語で話すようにしている。端から見れば皇族にタメ口など恐れ多いはずだからである。一方の和子様も親しい間柄でも普段から敬語を使っており、家族に対してさえ同様という徹底ぶりだった。
それに恋人だからって馴れ馴れしくしていると、いつどこでマスコミに嗅ぎつけられないとも限らない。まあそうなったらそうなったでいくらでも揉み消す手立てはあるのだが、あまり強引なことはしたくないというのが本音だ。
途中何度かサービスエリアで休憩して、俺たちはようやく三妻育成園に到着した。園の前では園長の三妻
「
「レイヤお兄ちゃん、元気にしてたよぉ!」
依麻は八歳になり春から小学三年生に上がった、この育成園の最年少の幼女である。将来は俺の嫁さんになってくれるそうだ。このまま育てばかなりの美人になるに違いない。
さすがにロリコン趣味はないが成人するのが待ち遠しい。その時になっても気持ちが変わらなければ、文句なしに嫁に迎えたいと思う。いや、本当にロリコン趣味はないからな。
「れ、レイヤ君?」
俺の右斜め後ろに立った和子様を見た園長が、真っ青な顔で驚いた表情を向けてきた。そんなことをお構いなしに依麻が叫ぶ。
「あ! テレビのお姉ちゃんだぁ!」
早速身バレした。
「テレビのお姉ちゃん?」
「うん! そのお姉ちゃん、テレビで見たぁ!」
「依麻さん、初めまして。テレビのお姉さんですよ」
「「レイヤさん!?」」
三妻母娘も和子様に気づいたようだ。側衛官たちがさりげなく護っているが、黒いスーツはここでは完全に場違いである。もっとも彼らも子供なら脅威はないと考えているのだろう。依麻が和子様に近寄っても特に動こうとはしなかった。
「テレビのお姉ちゃん、こんにちは!」
「依麻さんと言うのですね。和子と申します。こんにちは」
「和子お姉ちゃんこんにちは! 和子お姉ちゃんはレイヤお兄ちゃんの恋人なのぉ?」
俺は側衛官たちの眉がピクリと動いたのを見逃さなかった。それにしても和子お姉ちゃんか。あのコミュ力、依麻には頭が上がらないな。
「うふふ、内緒です」
「んー、分かったぁ! もう一人のお姉ちゃん、初めまして!」
「美祢葉です。依麻ちゃん、初めまして」
「美祢葉お姉ちゃんはレイヤお兄ちゃんの恋人?」
「そうですわよ」
「そっかぁ! 私と同じだね!」
「は、はい?」
「美祢葉、依麻は将来俺の嫁になるんだと」
俺が抱き上げると依麻は頬にキスしてくれた。それにしても前回会ったよりも背が伸びたよな。そろそろ抱き上げていい歳でもないかも知れない。まあ、本人が懐いてくれている間はよしとしよう。
俺たちはそのまま一晩育成園で過ごし、翌朝全員で
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