第六話
「て、テレパシーって何ですか?」
「あら、もしかして図星でした?」
「あの、えっと……」
「私はこれでも皇族ですよ。そういう普通ではない能力を持った方ともお会いしたことがあります」
ハラルが念話でお姫様の言葉が嘘ではないと伝えてきた。俄には信じられない。
「惹かれ合う恋人同士なら、そういうことが出来ても不思議ではないと思っています。ちょっと羨ましいですけど」
「いや、あの……」
「えっ!? もしかして本当にそうなんですか!? からかうだけのつもりでしたのに!」
「「はいぃっ!?」」
俺と美祢葉がハモった。
「驚きました。民間人の中にそのような方がいらっしゃるとは! ね、ね、どうやっているのですか? 私にも出来ますか? 詳しく教えて下さい!」
「いや、あの……」
「和子様、よろしいでしょうか」
「はい、何でしょう、ハラルさん?」
「今は恐竜についてのディスカッションの最中です」
よく言った、ハラル。
「ですので詳しいことは後ほど自由時間に、ということでいかがでしょう」
前言撤回だ、ハラル。
「それもそうですね。レイヤさん、美祢葉さんも」
「「はい?」」
「逃がしませんからね。これは皇族命令です」
そしてディスカッションが終わり自由時間が訪れ、俺とハラルにルラハ、美祢葉と和子様はホテル・レイクサイドグランデの俺の部屋に集まっていた。
お姫様の
「皇族のご命令ということで話しますが、ここでのことは一切を他言無用でお願いします」
「それは私が判断します」
「
俺はそう言うと目の前に置かれたコーヒーカップに視線を落とした。すると派手な音を立ててカップが粉々に砕け散る。まだ飲み物が注がれる前だったので、幸いにして液体が飛び散って衣類を汚すようなことはなかった。
「い、今のは……!?」
「他言無用を誓うか、今すぐこの部屋から出ていくかを選んで下さい。ちなみに今のは俺の手品です。タネも仕掛けももちろんあります」
「レイヤさんは私を脅すのですか?」
「とんでもない。お願い、と申し上げたではありませんか」
それまで余裕たっぷりだった和子様の額に脂汗が浮かんでいる。さすがに身の危険を感じているのだろう。
「み、美祢葉さんは……」
「レイヤの言葉は嘘でも脅しでもありません。話を聞いて他言無用の約束を反故にすれば、待っているのは確実な死ですわ。それ程に重い内容なんです。お約束頂けないのなら私もこの部屋から出ていくことをお勧め致します」
「美祢葉さんまで?」
「今ならカップが砕けたことを誰かにお話しになられたとしてもレイヤの手品だったで済ませることが出来ます。ですが話を聞かれた後ではそうは参りません」
「で、でも美祢葉さんは? レイヤさんの恋人なんですよね?」
「婚約者ですわ。ですがその私でさえ、レイヤの秘密を漏らそうとすれば家族もろとも消されますのよ」
「そんな……そんなことありませんよね!?」
「いえ、たとえ愛する婚約者でも同じです。ですから今ならまだ逃げられると申し上げている。しかし聞いた後はそうはいきません。お勧めはご命令を撤回してこの部屋から出ていくことですがどうされますか?」
さらにお姫様を追い詰めるため俺は彼女に大声でボディーガードを呼ばせ、スマホで外部への連絡を試みさせた。むろんそのどちらも彼女の思い通りにならなかったのは言うまでもないだろう。
和子様の表情から完全に余裕が消え失せた瞬間だった。
「私は一体どうすれば……」
「俺の秘密はこの国の国家機密よりも重いということです。そして俺にはそれを守り通す力があります」
「人の……婚約者や友人の命を奪ってでも、ですか?」
「はい」
「でも和子様、全部が全部悪いことでもないんですのよ」
「はい?」
「レイヤは秘密を守る限り私と私の家族を絶対的な力で守ってくれています」
「で、では私も他言無用を約束すれば守ってもらえるのですか?」
「まあそうなりますね。何か身の危険を感じていることでも?」
「立場が立場ですから常にです。表沙汰にはなっていないだけで……」
ハラルが念話で、先月○国の工作員とお姫様の
「なるほど、お亡くなりになられた方とは特に親しかったようですね」
「ええ。実の兄より兄のように慕っておりま……何故それを!? 公表も報道もされてないはずです!」
「和子様、それがレイヤの力ですわ」
「俺の秘密を知った者の脅威は、俺以外にはなくなります。つまり裏切らなければ最も安全ですが、裏切ったことを隠し通すのは不可能。待っているのは死のみということです」
「この部屋を出ていけば、全てなかったことになるのですね?」
「はい、それはお約束致します。ただし、俺に関してつまらないことを口になさらないようにして下さい。あくまでお願いですが」
「その願いを聞かなければやはり……」
「どうされますか?」
「聞かせて下さい!」
あれだけ
美祢葉の時は雰囲気にやられたが、和子様には見た目以外に惑わされる要素がないからである。
そして俺は美祢葉と同様に全ての秘密を彼女に打ち明けた。ついでに○国に恐竜の飼育施設が実在することも付け加えておいた。
「テレパシーではなく念話ですか。あまり違いが分かりませんが」
「和子様が言われたのは特殊な能力のことですよね。俺と美祢葉の念話は脳内に埋め込んだチップによるものです。科学の力ですよ」
「そのチップを埋め込めば、私も念話が使えるようになるということですね?」
「ええ、まあ」
「○国の恐竜飼育施設も気づかれることなく見られるというのも本当ですか?」
「はい。もっともそっちは近々潰す予定ではありますけど」
「えっ!? では恐竜はどうなる……まさか温泉施設のすぐそばで恐竜が飼育され始めるというのは……」
「まさに今、
つい先ほどまで小刻みに震えていた和子様は、次々と知る事実に顔を輝かせていく。
どうやらこのお姫様も猪塚陸将補と同類、好奇心の塊の人のようだと俺は認識を改めたのだった。
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