第十一話
ルラハまさかの失格。これにより
なお、口説きイベントは大会の最後なので、ここからはハラル争奪戦となる。
「ハラルさんをレイヤから救い出せーっ!」
「「「「そうだそうだーっ!!」」」」
「「「「救い出せーっ!!」」」」
「救い出せって、ハラルは俺に捕まってるのかよ」
「ある意味そうかもしれませんよ、マイマスター」
「レイヤ! ハラルさんから離れろーっ!!」
「離れろったって、腕を組んできてるのはハラルなんだが……」
ルラハの件で一度は意気消沈した男たちだったが、同じデザインの青いフィッシテイルドレス姿で現れたハラルを見て活気を取り戻していた。こちらは中尉に気を遣う必要がないため余計に盛り上がっている。
「それでは第一回戦、
「アイツ、リーダーだったのか」
「そのようですね」
俺と会話しているのはもちろんハラルだ。ルラハは先ほどの失態を悔いてしょんぼりしていた。さすがは感情型人工知能である。
「レイヤ!」
「何だ、来人?」
「優勝してお前を倒し、ハラルちゃんは頂くからな!」
「やらねーよ!」
「レイヤさん!」
「松井さん、何です?」
「優勝するのはこの僕です! そしてハラルさんを成瀬村に連れていきます!」
「だからハラルはやらねーっての」
「「ハラルちゃん(さん)! 見ていてくれ(下さい)!」」
「はい。お二人とも頑張って下さいね」
「聞いたかレイヤ! ハラルちゃんは俺に勝ってほしいそうだぞ!」
「何を言います! 僕に勝ってほしいと言ってくれたんです!」
「あー、はいはい。琴美、早く始めろよ」
「分かりました! それではー、ファイッ!」
まずは八木の先制攻撃。なかなかに鋭い拳が松井の顔面を狙うが、肘で弾き飛ばしてすかさず蹴りを繰り出すあたりは、さすがに格闘技でインターハイ優勝経験者である。
その経歴により陸軍からも声がかかったそうだ。しかし村を離れる気はないと断ったらしい。強制的に入隊させることも出来たが、戦時下ではない現在はその必要はないと軍が手を引いたとのこと。
一方の八木も負けてはいなかった。体勢を崩されたフリをして回し蹴りを仕掛けたのである。残念ながら松井のガードに阻まれたが、後退させるほどには威力があったようだ。
二人は仕切り直しとばかりに少し距離を取り、フェイントをかけ合っている。と、そこで松井が動きを止めた。
「さすがは自警団のリーダーですね」
「うん? お喋りがしたいのか? 降参してくれりゃいくらでも付き合ってやるぜ」
「いえいえ、もうお分かりでしょう?」
「はん! 何のことやら」
「実力の差ですよ!」
次の瞬間、松井のタックルが八木をとらえていた。勢いよく腹に肩をめり込まれ、自警団リーダーは苦悶の表情を浮かべる。
そしてそのまま決して小さくはない八木の体がリングの外に投げ飛ばされてしまった。実にあっけない終わり方だったが、リングアウトは敗北である。松井の作戦勝ちといったところだろう。
なお、リングの周囲には十分なクッションが敷かれているので、たとえ頭から落ちても大怪我にはならない。ハラルが選手のリング外への落下を予測し、琴美に提案した安全策が早速功を奏したというわけだ。
「勝者、松井卓さん!」
「「「「うぉーっ!!」」」」
成瀬村からやってきた予選落ちした選手や応援団は大盛り上がりだった。それからも松井は順当に勝ち進み、次は俺との決勝戦というところで一旦休憩となった。
「何ですって!?」
何やら琴美が大声を張り上げている。大会関係者も集まって揉めているようだ。その中に軍の兵士、先ほどルラハに金的を蹴り上げられて泡を吹いていた岡部軍曹もいる。もう復活したのだろうか。
しばらくすると琴美が松井の方に駆け寄っていった。困り顔で説明している彼女に、彼は微笑みながら肯いている。そして何度も頭を下げてから向きを変えると、今度は俺たちの方にやってきた。
「レイヤ、あのね、佐伯中尉閣下が決勝戦の前に岡部軍曹と松井さんで準決勝をやりたいって申し出があったの」
「うん? 準決勝はさっきだったんじゃないのか?」
「だから一戦増やして、ハラルさん争奪戦にも参加したいんだって」
「マジかよ!?」
「もし岡部軍曹が負けたらルラハさんへの権利も手放すって言うの」
「それは……松井さんは納得したのか?」
「うん。ハラルさんとルラハさんを成瀬村に連れ帰るって意気込んでるわ」
なるほど、そういうことか。いくらインターハイ優勝経験者でも、帝国陸軍の格闘スペシャリスト相手では勝ち目は薄い。要するに佐伯はルラハだけではなくハラルも手に入れようという魂胆なのだ。
「もちろん断ってもお咎めはないと言われたけど」
「ないわけないよな」
「うん……」
「ギャラ、弾めよ」
「あ、それなんだけどね、もし岡部軍曹以外が勝ったら優勝者に賞金百万円出すって」
「百万か」
「それがギャラでいい?」
「ま、いっか」
「よかったぁ! ありがとう!」
琴美は心底ホッとした表情を浮かべると、関係者たちの許に走り去っていった。
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