第六話
――まえがき――
今回はヨウミ記念公園のオープンセレモニーのテレビ局視点でのエピソードです。
――まえがきここまで――
――とあるテレビ局の取材風景――
「本日は東京都八王子市にある恐竜飼育施設の隣に造られたヨウミ記念公園のオープンセレモニーの模様をお伝えします。さっそく現場を呼んでみましょう。会場の
メイン画面がスタジオから公園に続く沿道の風景にに切り替わった。スタジオのアナウンサーはワイプとなり、詰めかけた野次馬とそれらを整理している兵士や警察官が映し出される。
「はーい! ご覧下さい。本日は
「すごい人ですねー!」
「そうなんです。この混雑を予想して、天然温泉スパリゾート
「チケットはどうなるんですか?」
「そこですか!?」
「だってショックじゃありません? なかなか入手できないのに」
「あー、まだ買えてないんですね。ご安心下さい。発表によりますと、今日の日付が記載されているチケットは後日好きな日に使うか払い戻しかを選べるようです。また、臨時休業を知らずに遠方から来た人や前日から宿泊した人には領収書など指定の書類を提出することで、かかった費用を食費も含めて全額負担してもらえるとのことです」
「食費もですか!? ずい分良心的なんですね。領収書がない場合はどうなるのでしょう?」
「住所を証明出来れば施設側で確認してもらえるそうです。ただしその際には食費は負担出来ないそうです」
「それは仕方ありませんよね」
「はい。以前から利用客起因を除く臨時休業などで突発的に不利益が生じた場合は、スパのチケットは次回に再度使用可能となってました。また、旅費などにかかった費用は全て弁済するので、領収書は取っておいてほしいとの要望も出されていました」
「でしたら大きな混乱は起きそうにありませんね」
「そうですね。普通コンサートなどが急遽中止になった場合は、振り替え公演かチケットの払い戻しだけですから。なお虚偽の申請は通報することになるので絶対にやめてほしいと言ってました。あと必ずバレるとも」
「必ずバレる、ですか?」
「はい。そのように言われてました」
再び画面が沿道の風景に切り替わる。声援を上げながらこれでもかというほどに旗を振る野次馬たちの姿が映し出された。
「あ! たった今天皇陛下と和子殿下を乗せた装甲車が到着したようです!」
交通機動隊の白いバイクが先導し、前後を陸軍の高機動車に挟まれた装甲車が姿を現した。視察窓からは陛下と和子様が和やかに手を振り、それを見た野次馬たちの興奮が最高潮に達する。実は暗殺者やスパイの姿がなかったので、和子様に念話で窓から手を振っても問題ない旨を伝えたのだ。
「ご覧のように夏篠宮陛下と和子殿下が手を振って声援に応えて下さってます」
「セレモニーはこの後十時より開始される予定です。それまで取材した高尾駅周辺の様子を見てみましょう」
画面が録画に切り替わる。スタジオのアナウンサーは相変わらず右下にワイプだ。
高尾駅前で最上キャスターが市民と思われる男性の後を追う。
「少しよろしいでしょうか」
「構いませんよ」
「日出村の恐竜飼育施設の横に公園が造られているのはご存じですか?」
「もちろん知ってますよ。八王子市民であそこのことを知らない人間はほとんどいないでしょう」
「なるほど。ではオープンセレモニーで天皇陛下と和子殿下がお見えになられることは?」
「それも知ってます。当日は旗を持って沿道で手を振るつもりですから」
「そうなんですね!」
「警備が厳重だろうから、お姿を見られるかどうかは分かりませんけどね」
「それでも駆けつけると?」
「もちろんですよ! 神様が見えなくてもお祈りしたりお願いしたりしますでしょう? それと同じですから!」
「な、なるほど。ご協力ありがとうございました」
録画から画面はセレモニー会場へ。
「なかなか含蓄のある例えでしたね」
「そうですね。さて、私たちはセレモニーが行われる会場にやってきました」
画面が切り替わると、カメラは壇上の来賓たちを映していた。
「天皇陛下と和子殿下のお姿はまだ見えませんが、あれは
「
「他に東京都知事に八王子市長の姿もあります。あちらは帝国陸軍と海軍のかたですね。お名前は……
「ヨウミレイヤさん!?」
「データによるとスパリゾート日出村の顧問で、この一帯の地主さんでもあるとのことです」
「確か恐竜飼育施設のオーナーでもあったはずですね」
「はい、そうですね。公園を整備した株式会社ハラルドハラルの社長でもあります」
「あんなにお若い方だったんですか」
「私も驚きました。あ、そろそろセレモニーが始まるようです」
「それでは
しばらくして来賓のスピーチが一通り終わり彼らが壇上から降りてくる中、
「すみません、ちょっと通して下さい」
「ダメだ」
「な、なぜですか!?」
通せんぼしているのは上下黒のスーツに真っ黒なサングラスをかけた大柄な男性だった。容貌だけで相当な威圧感を覚えたが、構わず彼女は脇をすり抜けようとする。しかしその腕をがっしりと掴まれてしまった。
「ダメだと言っている!」
「放して下さい! 大声を出しますよ! カメラも回します!」
「構わんが、困るのは貴女の方だぞ」
「ご覧下さい! 恐ろしい男の人に腕を掴まれてしまいました! きゃーっ! 誰かーっ! 助けて下さーい!!」
「我々は陛下の護衛官だ! この者は無許可で陛下と殿下を映そうとした罪で捕らえる! カメラマン共々取り押さえよ!」
「「「はっ!」」」
画面がスタジオに切り替わる。
「た、大変なことになりました。最上キャスターが捕まってしまいました!」
アナウンサーの慌てぶりに番組は一時中断され、テレビ局内は大混乱に陥っていた。自局のキャスターが逮捕されるシーンを全国ネットで流してしまったのだ。そしてこの後、宮内庁から呼び出しを食らうのは必至である。
ならばと局側は先手を打って宮内庁に最上キャスターとカメラマンの釈放と、申し開きの機会をもらえるよう打診した。しかし日頃から宮家を勝手に撮影していた事実を指摘され、天皇と皇女に対する不敬罪でキャスターとカメラマンはもちろんのこと、番組の制作責任者とテレビ局の局長までもが告訴される事態に発展してしまう。
余談だが、皮肉なことに今回の件でこのテレビ局が始まって以来の最高視聴率を叩き出したのだった。
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