第四話
深夜、
軍が駐在しているとはいえ平和な村である。寝静まるのもかなり早い時間だ。
そんな中、六つの黒い影がレイヤの土地を囲う壁に身を潜めた。道路とは反対側の裏手である。
影は指の形を変えて互いにサインを送り合うと、それぞれが壁にロープを投げ上げ、固定されたのを確認してするすると登っていく。音もなく壁の内側に着地し、再びサインを送り合った。
そして彼らが揃って一歩踏み出した時、突然サーチライトの大光量が六人を照らし出す。
「くわっ!」
ナイトスコープ越しのこの光は、彼らの視界を奪うのに十分だった。俺は○国語で語りかける。
「一度だけ問う。答えれば命だけは助けてやる。誰に頼まれた!?」
「「「「「「……」」」」」」」
「言うわけないか」
影の一人が俺にナイフを投げつけた。正確に眉間を狙っており、わずかに回復した視界の中で確実に命中したと思われたそれは、しかし甲高い金属音と共に地面に弾き落とされていた。
隙をついて散開しようとした他の五人だったが、総支配人の
「コイツらどこから!?」
「構わん、殺せ!」
『下曽我はソイツを殺すな。他は殺して構わん』
俺がドールたちに念話を送ると、全員無言のまま肯く。そして始まる乱闘。
スパのドールにはエアバレット砲などの内蔵武装がないため、武装している相手に対して素手での応戦となる。それでも決して生身の人間が勝てる相手ではない。しかし○国の者たちは善戦していると言えた。
彼らの身体能力は極めて高いようだ。ドールが急所を狙って放つ拳や蹴りを巧みに躱し、カウンターでナイフを突き出してくる。
侵入者たちの任務は俺の殺害だった。命令した者が誰かということもこちらはすでに把握している。しかし首謀者を断罪する際に明確な証拠が必要なため、情報を吐かせる必要があったのだ。
「ぐがっ!!」
ボキッという骨が折れる音と共に、最年少の
再びの骨折音を発した男の首が直角に折れ曲がり、さらに容赦なく真正面から蹴り上げられて、頭が真後ろに垂れ下がった。体はしばらく痙攣していたが、すぐにピクリとも動かなくなる。
次いで
戦闘能力を有したドールのパンチ力はフルパワーで十トンを超える。もちろん重力シールドのない対人相手ならそんな力は不要だ。彼女はせいぜい出力を一トン程度に抑えたことだろう。それでも内臓のいくつかは破裂したたずである。
思わず呻き声を上げて前屈みになったところに、彼女の膝が頭蓋骨を砕いていた。
「何故だっ!? 何故我々が手も足も出ない!?」
「弱いからじゃないか?」
「ば、バカを言うな! 我々は……」
「おしゃべりに付き合ってやるつもりはないんでな」
スパの事務長、五十一歳の設定の
彼女のナイフが空を切った瞬間、手首を取られて胸に膝蹴りを食らわせる水谷。何本もの骨が折れる音が聞こえ、仰向けに横たわった胸の中心が大きく陥没していた。
「さて、残るはお前一人だ」
「くっ!」
男が顔を歪めたところに下曽我の張り手が飛んだ。口の中に仕込んだ毒で自害しようとしたのだろうが、コイツはまだ死なせるわけにはいかない。相手が気を失ったところで総支配人は口を無理やりこじ開け、毒が仕込まれた歯を引っこ抜いた。
「ご苦労さん。死体を片付けておいてくれ」
六人のドールが無言で俺に頭を下げる。後は生かしたコイツに首謀者の名前と命令の内容を吐かせ、それを録画すれば終わりだ。
「ハラル、頼んだ」
「かしこまりました、マイマスター」
脳内チップの埋め込みはわずか数分で終わる。ただしこれは俺たちやジェームズに使った物とは違う。脳に信号を送り、質問に素直に答えさせるためのものだ。
何故そんな手間が必要なのかといえば、以前道場をスパイカメラで撮影した実行犯とはわけが違うからである。あの時は脳に電気信号を送るだけで自白させることが出来たが、今回はかなり訓練されたプロの暗殺者だから、あれでは十分な成果が見込めないのだ。
気絶したままの男を椅子に座らせて意識を戻す。縛り上げる必要などない。彼の行動は全て脳に埋め込んだチップで制御可能だからである。指一本から視線の移動まで、何一つ彼は自分の思い通りには出来ない状態にされていた。
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