第十四話
その終業式をもって俺とハラル、ルラハは学園を去ることになる。しかし九月一日までの約四十日間は夏休みであり、劇団の海外公演に同行する
湊や弘達は海外の別荘などの避暑地に赴きそうなものだが、今年は友達と過ごしたいからと家の行事を断ったそうだ。やっぱり家は別荘地に行くのか。
なお、期末試験の成績も学年トップは俺の未来の嫁である美祢葉だった。俺とハラル、ルラハの三人は今度こそ遠慮して十位以下に収まった。
担任の
「レイヤ君たちはドイツに帰るってことはないんだよね?」
「俺は家を出て日本に住んでいるからね」
「そうなんだ! ならレイヤ君の家に遊びに行くってのはどうかな?」
「
「それなら仕方ないか」
すぐ近くまでは来てたけどな。
それはそうと美祢葉を除いて、彼らと
まして恐竜の視察は終業式の三日後と決まり、それからしばらくの間、第三皇女の
視察当日の一泊だけだと思っていたのに、どうしても外せない公務がある時は別として、夏休みが終わるまで居座るつもりらしい。
光学迷彩スーツやドローンの操作方法などの訓練には持ってこいかも知れないが、皇族がそんなに勝手していいのかよとは思う。しかし彼女曰く、第三皇女の立場では元々それほど公務は多くないとのこと。
「苗床が向こうからやってきますね」
「だから苗床って言うな」
ハラルはそんなことを言っているが、嫁候補と認めはしたものの、それはあくまで和子様が本心から俺に惚れていた場合に限りだ。天皇陛下に娘をくれなんて言いたくないし、嫌でも向けられる世間からの注目など考えただけでゾッとする。
「正直なところを言いますと、そこそこレイヤ様に興味を持っている感じですね」
「なら興味だけで終わってくれるとありがたいね」
「和子様はお気に召しませんか?」
「そりゃ見た目は可愛いと思うよ。だけどその可愛さに対する劣情しかないんだ。しかし相手は皇族だろ。美祢葉と同列に扱うなんて無理だね」
「では彼女のチップから思考パターンを転写したドールを作って、試しに恋人気分に浸ってみるというのはいかがでしょう?」
「ドール相手なら惚れる自信はあるさ。それこそ本人である必要はなくなるぞ」
天皇陛下に挨拶に行かなくても済むしな。とは言えハラルのこの提案は却下だ。実物を目の前にした時にどんな行動を取るか予測がつかない、いや、ついてしまうからである。
ドールは髪の毛、肌の質感、匂い、仕草に至るまで生身の人間と区別がつかない。つまり和子様の思考パターンを積んだドールは、まさしく本人と寸分も変わらないと言えるほどなのである。
自分で言うのもなんだが俺は基本的に節操がない。ハラルやルラハの胸や尻は息を吐くように触るし、美祢葉には後ろから抱きついて口には出せないあれやこれやをしたりもする。
「そういうことだから、和子様が泊まりに来ても絶対に煽るなよ。これは命令だ。背いたら機能を停止にする」
「はい、マイマスター」
ここまで言っておけばハラルとルラハがよからぬ画策をすることはないだろう。二人は感情型人工知能だから、実体がなかった
おそらくもう立体映像だけの存在に戻ることは考えられないはずだ。だから可哀想だが機能停止は言わば死刑に近い罰なのである。
「期間が決められているなら耐えますが、無期限となりますと堪えます」
「でもレイヤ様、私たちの機能を停止すると……今は美祢葉さんがいらっしゃいますね……」
「ルラハ、今の言葉は撤回しろ。俺は二人がいるから美祢葉はオマケとか、美祢葉がいるから夜の生活は困らないなどと言うつもりはないぞ」
「大変失礼しました、マイマスター。お言葉通り発言を撤回致します」
「ま、二人を機能停止にするとつまらなくなるのは事実だけどな」
「ですがレイヤ様は厳格な面をお持ちですから、私たちが調子に乗りすぎた時には躊躇なく処分されると思います」
「二人なら越えてはならない線は分かるだろうからさ。あえて一歩踏み出してみるチャレンジをやめてくれると助かるよ。気遣いはありがたいけど、俺は大丈夫だから」
ハラルは感情型人工知能である前に俺を最優先する思考プログラムが組み込まれている。それ故に、世界線を飛び越えてパラレルワールドに迷い込んだ俺の孤独感を紛らわせようとしてくれているのだ。
ハラルとルラハに人間に対するのと同じ愛情を抱いても不思議ではないだろう。
この先美祢葉が妻になり、和子様が続いたとしても、ハラルとルラハを愛し続けることは俺の人生をかけた決定事項なのである。
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