第十七話
多くの取材陣が見守る中、壁を補強するためのタングステン合金板の設置は結局二日間に及んだ。
そして迎えた強度試験の当日、大日本帝国陸軍が誇るという
面白そうなので一つの番組を脳内チップに受信してみる。アナウンサーとゲストのやり取りで進めるらしい。
「それでは次のニュースです。東京都八王子市にある天然温泉スパリゾート
「私はようやく先週チケットが取れたので行ってきました」
「プライベートでですか?」
「はい。あそこは取材を一切受け付けないとのことですから」
「なるほど。どんな感じでした?」
「施設はきれいで従業員も生き生きとしていて、それだけでも気持ちがよかったです。もちろんいくつもあるお風呂も広くて素晴らしかったですよ」
「私も行きたくてチケット取りがんばってるんですけどねー」
「転売チケットが使えないのは言うに及ばず、政府や軍の関係者ですら優遇しないという一貫した方針が人気の要因の一つになっているかも知れませんね。根気しかありませんのでがんばって下さい」
「やっぱりそうですかぁ」
「一日に入場出来る人数が決まっているので人で溢れかえっているということもなく、本当にゆったりと寛ぐことが出来ました」
「なるほど、ますます行きたくなりました。そんな天然温泉スパリゾート日出村ですが、すぐ近くに恐竜の飼育施設が造られたんです」
「ええっ!? 恐竜ですか!?」
打ち合わせなどで知っているはずなのに、ゲストはわざと驚いた表情を見せている。まあ、その方が面白いのかも知れない。
「大丈夫なんですかね?」
「施設側は安全面に関して全く問題ないと言っているそうですが、本日はその施設の壁の強度試験が行われることになってます」
「強度試験?」
「戦車で壁を砲撃するとのことです」
「すでに恐竜がいるんですよね? そんなことをして壁が壊れたら恐竜が逃げ出して大変なことになるんじゃないですか?」
「そのために軍があらかじめタングステン合金板で壁を補強して、万が一にも逃げ出さないように対策を取ってます」
「タングステン合金板ですか。厚さは?」
「合計で一メートルだそうです」
「合計とは?」
「厚さ十センチの板を十枚重ねてのことですね」
「なるほど」
「合金板の設置工事の模様につきましては本日夜の特集で詳しくお伝えします」
「分かりました」
「では現場を呼んでみましょう。現場の
アナウンサーとゲストの会話から画面が切り替わる。スタジオの様子はワイプとなり、俺には見慣れた光景が映し出された。
「はーい、ご覧下さい。先ほど陸軍の戦車がトレーラーで運ばれてきました」
「どんな戦車ですか?」
「軍の方の説明によりますと、最新の
「現場の雰囲気はどうですか?」
「上空からの映像をご覧下さい」
ドローンから映された現場の全体像に切り替わる。六台の装甲車の真ん中に戦車が配置され、テレビカメラや取材陣たちが忙しなく動いている様子が見えた。
「このように装甲車が数台待機しています。我々はその装甲車の陰から見せて頂いているのですが、万が一の時はすぐに装甲車に逃げ込むようにとの指示を受けています」
「万が一というのは恐竜が逃げ出した時のことですね?」
「現場はそのように認識しています」
「施設のオーナーさんや軍の関係者からお話は聞けましたか?」
「オーナーさんへの取材は許可されませんでした。軍からも取材時の注意事項などの説明はありましたが、個別の質問には答えて頂けませんでした」
「まあ、本来はこのような試験は非公開で行われるものですからね。仕方ないでしょう」
「軍の説明では今回使われるのは新たに開発された徹甲弾とのことです」
「徹甲弾とはどのような兵器なのでしょう?」
「貫通を目的とした砲弾です」
「だ、大丈夫なんですか!?」
「オーナーさんからの提案で採用されたそうです。詳しい仕様は機密とのことでしたが、かなり強力な砲弾だと言われました」
「タングステン合金板はそれに耐えると?」
「はい。ですが施設のオーナーさんは本来なら補強など不要で、壁には傷もつかないと言われているそうです」
「根拠は何ですか?」
「機密だそうです」
「なるほど……」
会話中もドローンが施設のあちこちを飛び回り、時折恐竜の姿も捉えていた。アナウンサーがもっと恐竜に近づけないかと要求していたが、高度三十メートル以下には下がらないように制限を設けていたのでズームアップで対応したようだ。
映っていたのは俺の名づけたテーゼだった。
「あ! 試験が始まるようです!」
メイン画面にテレビカメラからの映像、ワイプでテーゼを捉えているドローンの映像に切り替わる。壁に弾かれた徹甲弾がどこに飛ぶか分からないから試験の様子はドローンで映せと伝えてもらったのに、カメラマンは装甲車の隙間から戦車と壁を狙っていた。
言うことを聞かないなら俺がどうこうする必要はないだろう。
間もなく戦車の主砲が固定され真っ直ぐに的を向く。するとそれまで周囲を護っていた兵士たちはさすがに跳弾の危険性を知っており、各々が装甲車の後ろに退避していた。
「これが最後の警告だ! 万が一跳ね返った徹甲弾が直撃すれば命がないどころか死体すら粉々になるぞ! 三十秒以内に装甲車の後ろに隠れよ!」
しかし
三十秒が一分を過ぎてもカメラマンたちが避難しないのを見て、陸将補は砲撃の命令を下した。
それから間もなく
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