第七章 ※章タイトル未定

第一話

 季節は巡り春がやってきた。


 俺はハラルドハラル株式会社を設立し、つま育成園からむらまつが事務所棟に居を移すことになった。


 これを知った陸軍村出張所の兵士たちが、自分たちの自腹で構わないからぜひ歓迎会を開きたいと申し出てきたのである。俺は彼らとの関係性も重要だと考えて開催を許可した。むろん俺とハラル、ルラハも参加する。


 ただ、さすがに男性への恐怖心を抱く柊果里が一人でお誕生日席というのはハードルが高いだろう。そう思って、遅ればせながら佐々木姉妹にも歓迎される側に回ってもらった。


 柊果里にしても今後は男性を怖がってばかりもいられないと考えたのか、戸惑うことなく参加を了承した次第である。会場は出張所の食堂だ。


「本日お集まりの皆さん、今日は我らがアイドル、村松柊果里さんと日出村の癒しのオアシス、佐々木れいさん、さん姉妹の歓迎会を執り行います!」


 司会進行役の兵士が声を上げると、三人が立ち上がって一礼する。


「佐々木さん姉妹が株式会社ハラルドハラルの事務棟にお勤めなのは皆さんご存じの通りですが、柊果里さんもそこで働かれることになったそうです。それではまず佐々木玲子さん、一言お願い致します!」


「ただ今ご紹介にあずかりました佐々木玲子です。大学を出てから昨年まで五年間、高尾信用金庫で働いておりましたが、ヨウミレイヤ社長よりお誘い頂きヨウミ家の資産管理を担当しておりました。その後設立された株式会社ハラルドハラルの経理部長の大任を頂きました。皆さん、よろしくお願い致します」

「経理部長ですか!」


「社員は社長と専務取締役のハラル様とルラハ様を除けば三人だけなんですけどね」

「ちなみにご結婚はされてらっしゃるんですか?」

「唐突ですね。してません」


「あはは、すみません。しかしどんな相手ならお眼鏡に適うのか興味がありますね」


 歓迎会に参加している兵士は目を輝かせ、給仕担当の兵士たちは足を止めて耳を傾ける。


「もう二十八歳になりましたので贅沢を言うつもりはありません。ただ一つ、今の仕事を続けさせてくれるのが条件でしょうか」


「なるほど。それは競争率が上がりそうですね」

「何のですか?」


 玲子さんはクスクス笑いながら司会の兵士に目を向けた。彼女はあのように言ったが、こちらの日本では女性の平均結婚年齢は三十歳手前くらいなので、二十八歳なら適齢期を過ぎたとは言えないのである。


「いやあ、軍人は収入が安定してますのでそれなりにお話はあるんですけど、なかなか良縁には恵まれないんですよ」

「知りませんでした。皆さんの理想が高いんじゃありませんか?」


「いえいえ。寄ってくるのが明らかに金目当てとか、家庭に入るというだけならまだいいんですけど、家事はしたくないから家政婦を雇って奥様気分に浸りたいとかそういう人が多くて」


「でも私も仕事を続けるつもりなので、結婚しても家事は分担になりますよ」

「それは理想に近いですね」


 周囲の兵士たちがウンウンと肯いている。お前ら給仕の仕事はどうした。


「さて、雇い主のヨウミ様の視線がキツくなってきたので、次に佐々木さん、お願いします」


 俺は何も言ってないし態度も変えてないのに、皆がこちらを見てどっと笑う。まあ、そういうノリもたまにはいいだろう。


「美玲奈です。私は三年務めたともまる建設を退職して、姉の紹介で株式会社ハラルドハラルに雇って頂きました。これでも総務部長なんですよ」

「「「「おおーっ!!」」」」


「お若いのに総務部長さんなんですね」

「先ほど姉が申しました通り、社長や専務を入れても六人だけしかいないんですけどね」


「美玲奈さんにもお聞きしますかご結婚は?」

「独身ですよ。彼氏もいません」


「どういうタイプがお好みですか?」

「嘘をつかない誠実な人ですかね。チャラ男君は苦手かな〜」

「先日の夕日芸能の記者とか?」

「あー、あれは論外です」


 彼女が心底嫌そうな表情で言ったので、会場のあちらこちらで笑いが起きた。


「では結婚相手に求めることはありますか?」

「私も姉と同じで結婚しても仕事を続けるつもりですので、それを理解してもらえないと無理ですね」


「やはり家事は分担で?」

「もちろん! でも私はお料理が好きですからご飯は毎日作ります。その代わり片付けはお願いする、みたいな分担ですね」


「なるほど。片付けって面倒ですもんね」

「そうなんですよ〜」


 美玲奈さんのおどけた口調に会場では再び笑いが起きていた。柊果里も笑っているので、何となく場に馴染んだようである。


「ありがとうございました。それでは最後になりますがむらまつさん、お願いします」


「は、はい! えっと、村松柊果里です。少し前に中学校を卒業したばかりの十五歳です」

「柊果里ちゃーん!」

「元気だったー!?」


「あ、はい! 元気でした。皆さん改めまして、私のお友達になって頂いてありがとうございました!」

「「「「うぉーっ!!」」」」

「「「「柊果里ちゃーん!!」」」」


「はいはい、静粛に静粛に! 柊果里さんも株式会社ハラルドハラルに入られたんですね」

「はい! ヨウミ様にはとてもお世話になってます」


「佐々木美玲奈さんと同じ総務部に配属と聞きました」

「そうです。早くお仕事を覚えてお役に立ちたいと思ってます」


「がんばって下さいね」

「「「「がんばれー!!」」」」

「「「「柊果里ちゃーん!!」」」」


「皆さん、やかましいです! それでは柊果里さんは理想の男性像よりも、今後どうなりたいかを聞かせてもらえますか?」


「俺のヨメー!!」

「今叫んだ人をつまみ出して下さい!」


 調子に乗った兵士が一人、退場させられた。


「柊果里さん、すみません」

「いえ……今後どうなりたいか、ですよね」

「はい」


「私は過去に色々ありまして三妻育成園に引き取られました。男性が怖くて、そのせいで学校でも孤立してました」

「ヨウミ様はその育成園に寄付をされていたと思いますが、やはり怖かったですか?」


「はい。今思うと本当に申し訳なかったです。たくさん助けて頂いたのに……だからこれから少しでもご恩をお返し出来るようにがんばろうと思います!」


「そうですか。困ったことがあったらいつでもここを訪ねてきて下さい。我々も出来る限りお力になりますから、遠慮なく頼って下さいね」

「ありがとうございます!」


「皆さんお待たせ致しました。お手元のグラスをお手に取って下さい。それでは佐々木さん姉妹と柊果里さんの前途を祝して、乾杯!」


「「「「かんぱーい!」」」」

 歓迎会が幕を開けた。

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