第六章 エピローグ

 俺は山田やまだりょう、週刊夕日芸能の記者だ。こう言っちゃなんだが中学、高校、大学時代はとにかく女にモテた。ルックスは学年イチとか校内イチとか言われて女が途切れたことはない。


 大学を卒業して夕日新聞社に入社したが、実はそのモテが災いして六股かけてた女たちに騒がれ、子会社である夕日芸能に飛ばされたってわけだ。ま、クビにならなかったのは夕日新聞の専務ババアの相手をしてやったからなんだけどな。


 で、今は主に芸能人のゴシップを取材しているが、俺たちの標的になるのは大抵が簡単にハニートラップにかかる脇の甘い連中である。


 女優や女性アイドルなんかは男遊びの現場を押さえてしまえば簡単にいい思いができる。俺のルックスに向こうからモーションかけてくるなんてこともザラだ。オマケに事務所が交渉に応じれば、の半分が歩合として夕日新聞社から支払われるのだ。


 これほどウマい仕事は他にないだろう。そんなやり甲斐のある職場で、俺のチームはトップセールスを誇っていた。イイ女とヤレて金も貰えるんだからやる気にならない。


 素人の女だってチョロいもんだぜ。俺たちが最近有名になってきたの記者を名乗り、俳優やアイドルに会わせてやれるかも知れないと言うと簡単に股を開く。もちろん約束なんてしないから一回楽しんだら終わりだ。


 そんな時、親会社の夕日新聞が出禁を食らったとかで、八王子市の高尾に造られた恐竜の飼育施設の取材に行けなんて命令が下された。何でも戦車で壁を撃つとか。


 何を言ってるのかさっぱり分からなかったが、あの有名な天然温泉スパリゾート日出村の近くだそうじゃねえか。つまり観光気分で浮かれた女が来てる可能性が高いというわけだ。そういうのはとにかくチョロい。


 あそこは取材は出来ないらしいが取材対象はスパじゃないし、言われた仕事は適当に片付けておけばいいだろう。


 そうして俺といつもの仲間二人の三人チームで現場に向かったのだが驚いた。近くのコンビニに飲み物を買いに行こうとしたら、目を疑うようなきれいなネエちゃんを見つけてしまったのだ。


 年の頃は二十歳か十代後半、髪は金髪で緩くウェーブがかかり、腰が妙にエロくくびれたアイドルも顔負けの美少女である。あんな女には二度とお目にかかれねえかも知れない。ここは多少強引にでもモノにしちまおう。


 とは言っても最初は優しくだな。名刺を取り出してっと。


「お姉さん、こんにちは!」

「はい?」


「オレたち、こういうモン」


「週刊夕日芸能……取材の方ですか?」

「そうそう、それ!」


「私に何かご用でしょうか?」

「とりあえず名前教えてくれる?」


「何故見ず知らずの貴方に名乗らなければいけないのですか?」


「いいじゃんいいじゃん、こっちは名刺出して素性を明かしたんだし」

「……ハラルと申します」


「ハラルちゃんね。もしかして外国生まれの人?」

「ご用を仰って下さい」


「つれないなあ。ハラルちゃんはこの近くに恐竜の飼育施設が出来たのって知ってる?」

「存じております」


「オレたちはその取材で来たんだけとさあ」

「はあ……」


「ハッキリ言って恐竜になんてあんま興味ないわけよ」

「でしたらお帰りになったらよろしいのでは?」


「いやいや、一応仕事だからそういうわけにもいかなくてさ」

「ご用を仰って下さい」


「でね、俺たちってホントは芸能人がメインターゲットなわけ。ジェニーズとかさ。カッコいいよね」

「…………」


「そんなキラキラな彼らに会いたいとか思ったことない?」

「ありません」


「そっか。じゃ渋めの俳優とかが好みなのかな?」

「ご用を仰って下さい」


「まあまあそう言わずに。ちょっと俺たちに付き合ってくれれば、好きな芸能人に会わせてあげられるかも知れないよ」


「ご用は貴方たちに付き合えということですか?」

「ま、そんなところ。いい思いもさせてあげるからどう?」


 ところがそこで視界が真っ暗になった。そして次に目を覚ました時にはすでにネエちゃんの姿はなく、俺たちはその場に倒れていたのである。周りに誰もいないってことは、あれからそんなに時間が経ってないってことだろう。


 何だったんだよ。


 仕方ねえ。コンビニに行くか。あのネエちゃんにはまた会ったら何があったのか聞けばいいだろう。


 ところがだ。まだまだ俺には幸運の女神がついていたらしい。コンビニに入ろうとしたところで、さっきのネエちゃんには少しばかり劣るがかなりの上玉に出会ったのである。


 白地に薄いベージュのチェック柄ブラウスと、ピンクの膝丈プリーツスカートて感じの事務員みたいな制服を着ている。胸にはスカートと同色のリボンだ。役場の職員か何かだろうか。そんなの関係ねえ。


「お姉さん、こんにちは」

「こ、こんにちは」


「オレたち、こういうモン」

「週刊夕日芸能……週刊誌の方が私に何か?」


「お姉さんはこの辺の人?」

「そうですが?」

「じゃ恐竜施設が出来たのは知ってるよね?」

「はあ。まあ」


「俺たちその取材に来たんだけどさ」

「でしたら施設はあちら……」


「いや、迷ったんじゃないから。それよりお姉さん、ちょっと時間ない? もしかしてお昼の買い物?」

「そうですけど……もしかしてナンパですか?」


「おっ! 話が早いね! どう? これから少し遊ばない? 俺たちと知り合っておけばアイドルとか俳優とかと会えるかも知れないよ」


 お姉さんは無言でスマホを取り出した。よし、職場に戻りが遅れるって連絡でもするんだろう。


「もしもし、佐々木です。はい。今ソーロンの前にいるんですけど、週刊夕日芸能の人からナンパされて困ってます。来て頂けますか?」

「ちょ、おい!」


「はい、はい。お待ちしてます」

「どこに電話して……」


「陸軍の日出村出張所です。兵士の方がすぐに駆けつけて下さるそうです。この辺りは軍令により勧誘行為が禁止されていますが看板見ませんでした?」


 出張所の方に目を向けると、十人くらいの兵士が全力で走ってくるのが見える。ヤベぇ、何でこんな普通のネエちゃんが兵士を呼べるんだよ。意味分かんねえ。


「逃げない方がいいですよ。逃げたら射殺されるかも知れませんので」

「しゃ、射殺!? いや、ちょっと待てって」


「美玲奈さんにちょっかいを出しているのは貴様たちか!?」

「い、いえ、あの……」


「美玲奈さん、お怪我はありませんか?」

「はい。心配して下さりありがとうございます」


「よかった。もう一度聞く! 美玲奈さんにちょっかいを出しているのは貴様たちか!?」

「お、俺たちは道を聞いていただけで……」


「ウソです。先ほどハッキリとナンパだって言ってました」

「そうですか」


「あ、俺たちはこういう者で、ここには取材に……」

「言い訳は取調室で聞く! 大人しく付いてこい!」


 どうしてこうなったぁ!!

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