第十七話

「レイヤ様、苗床の獲得、おめでとうございます!」

「苗床言うな!」


 寮に戻った俺はハラルとルラハに拘束され、日出ひで村の居住用ポッドに連れ込まれてさんざん焦らされながらあれやこれやをされた。


 いつもより数段激しかったように感じたが、何か理由でもあるのだろうか。まあ、その分興奮したし楽しめたけど。


「それにしても驚きました。レイヤ様がさんを相手にあんな風になられるなんて」

「自分でもびっくりしてるよ」


「私たち、ちょっと嫉妬してしまいましたよ」

「仕向けたのはそっちだろ」

「そうなんですけどぉ」


「ところで大丈夫なのか?」

「はい。唾液を交換して下さったお陰でより精細に分析出来ました」


「キスって言えよ」

「キ・ス! して下さったお陰で遺伝子構造的に私たちのいた地球の女性との違いは見受けられないことが分かりました。美祢葉さんとの間に子供を作っても問題ありません」

「そ、そうか」


「ですがレイヤ様」

「うん?」


「しばらくはちゃんと避妊された方がよろしいかと。美祢葉さんの母胎はまだ未成熟です。経口避妊薬を精製しておきますね」


 宇宙船ハラルドハラルで精製される経口避妊薬は、一錠で一カ月は妊娠しなくなるという。錠剤の大きさは小指の爪の半分ほどだそうだ。


「いらねえよ! そういうことは結婚してからだとさ」

「うふふ。我慢出来ますかねえ?」

「性欲なら二人がいるから平気だって」


「いえ、美祢葉さんの方ですよ」

「あ?」


「レイヤ様が毎晩私たちとしてると知ったら……」

「おい、絶対に煽るなよ」


「遅かったかも知れません」

「は!?」


「聞かれたので答えてしまいました」

「おいっ!」


 あのキスはハラルのせいだったのか。まあ、それ以上を要求されなかったのだから大丈夫だろう。彼女もハラルたちに嫉妬している様子は見られなかったし、俺が気をつけていればいいだけだ。


 しかし頬にキスされただけで反応した俺である。何かの拍子にたがが外れてしまわないように本気で注意しよう。


「どれくらいでチップを?」

「正式に結婚が決まってからでいいよ」


「美祢葉さんの身の安全を考えると、もっと早くてもいいと思いますが」

「何か危険な兆候でもあるのか?」


「そういうわけではありません。ただ彼女は日本最大手のありはら海運の社長令嬢ですから、いつ誰に狙われないとも限りませんので」

「それにチップを埋め込めば裏切ることは出来なくなります」


「ルラハ、チップに感情までコントロールする機能はないはずだぞ?」


「はい。ですから裏切ったらボンッて爆発すると言っておけば……」

「そういう脅しはやめなさい」


 爆発する機能などない。


「身の安全かあ。しかしまだ早過ぎる気がするんだよなあ」

「彼女はすでに強烈な私たちの攻撃を目の当たりにしてますので、猪塚いのづか陸将補と同様にしてもらえるのではありませんか?」


 実は陸将補にもチップを埋め込んだ。ただしこれは本人が望んだことで、色々とを聞いてもらったお礼に俺たちの秘密を少しばかり話したら、念話に異常なほど興味を示したのである。


 念話を使うためには脳にチップを埋め込まなければならないと言ったところ、是非にと頼まれたのだ。あのご老体、好奇心が旺盛過ぎるだろう。


 ついでに偵察型ドローンを一機貸し与えたら大喜びで、すぐに使いこなすようになっていた。特に海中の潜水艦の動きに夢中になっているようだ。これが陸将補に与えた大きなメリットの内容である。


 もちろんチップを使った全ての行動は俺たちの監視下にあることも説明済みだ。


「確かに大丈夫だとは思うけど……」

「彼女には光学迷彩スーツも与えますよね?」


「まあ、俺の妻になるんだから秘密は全て明かすつもりだよ」


「でしたら出来る限り早く訓練を始めましょう」

「うーん、どうするかなあ」


「珍しく煮え切りませんね。光学迷彩スーツやエアバレットガンの扱いは早くからシミュレーターで慣れた方がいいのではないでしょうか」

「そんなもんか?」


「十八歳で成人して学園を卒業する頃までには完全に使いこなせる程になってもらいませんと」

「何でそんなに急ぐ必要があるんだよ?」


「だってレイヤ様、すぐに子供を作りそうですから」

「ルラハ、俺ってそんなに節操ないように見えるか?」


「普段私たちにしていることを思えば、節操あるように言われるレイヤ様の方が理解に苦しみます」

「おい!」


 確かに呼吸するように二人の胸や尻を触ったりスカートをめくったりはしてるけど。うん、節操ないな。


「ですが結婚したらしばらくはさんだけを可愛がってあげて下さい」

「うん?」


「私たちにも感情がありますから複雑ですけど、生身と違ってコントロール出来ますので」

「しかし結婚はまだ先の話だろ」


「とにかくチップは早いに越したことがありません」

「分かったよ。中間試験が終わったらここに連れてこよう」


 それから間もなく、ゆめ学園では中間試験が行われ、俺とハラル、ルラハは三人とも学年の五位から十位の中に収まった。とは言えこれはわざと回答の一部にミスを記載した結果である。


 年齢も十八歳の設定だし、全問正解で三人でトップを独占してもよかったのだが、それではあまりにも大人げないと一位から五位は譲ることにしたのである。


 結果、トップに躍り出たのは俺の彼女となった在原美祢葉、二位はなんと木納きのうしおりで、このクラスの生徒が十位以内に五人も入る快挙を成し遂げたのである。もっとも俺たち三人はズルしたようなものだから、他のクラスには申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 一方で担任の伊秩いぢち瞳花まなか教諭はボーナス査定がよくなると大喜びだ。そんなこと生徒に言ってもいいのかね。


 ともあれ中間試験が終わったその週末、俺は美祢葉を自宅へと誘ったのである。

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