第十六話

――まえがき――

砂糖マシマシです(*^_^*)

――まえがきここまで――



 ゆめ学園の校舎の屋上は小川が流れる庭園のように整備され、常時生徒に開放されている。野鳥などの飛来防止のため天井まで細かい網目の柵で囲われているが、閉塞感は全くない。


 放課後は植物を観察するクラブ活動中の者やカップル、仲良しグループの生徒たちも訪れており、お陰で俺たちも目立たずに済んでいた。とは言えだ――


「これだけ人がいますと気後れしそうですわね」


 普段は何事にもあまり動じることのないが頬を染めている。俺は素直に可愛らしいと思った。


「で、二人でしたい話って?」

「その、ええと……」

「そこ、座ろうか」

「え? そ、そうですわね。座りましょう」


 膝に乗せた手をぎゅっと握り、うつむき加減の彼女から甘い上品な香りが漂ってくる。ハラルもルラハもいつも積極的に絡んでくるので、女の子のこういった仕草はとても新鮮に感じられた。


「あの……そのですね……」

「もうすぐ中間試験が始まるね」


「そ、そうですわね」

「勉強会、楽しかった?」


「もちろんですわ! まさか帝国陸軍の猪塚いのづか陸将補様が自ら教鞭を取って下さるとは思いもよりませんでしたし」

「そっか、それはよかった」


「レイヤさんは不思議な方ですのね」

「そう?」


「あれだけの力がありながら……ごめんなさい、失言でした」

「心配しなくてもいいよ。俺たちの会話は誰にも聞こえてないから」


「えっ!? あ……そのくらいで驚くようではこれからレイヤさんとお付き合いさせて頂くなんて叶いませんわね」

「ん?」


「私、たった今覚悟を決めましたわ」

「お、おう」


「レイヤさん、私と婚約して下さいませ」

「え? 婚約?」


「はい。ハラルさんにはご了承頂きました。彼女からルラハさんにも伝えて頂き了承を得ております」

「そうなの?」


 てっきりお付き合いだけかと思ってた。そう言えば偵察型ドローンからの情報を俺に知らせる時に、ハラルが何か含んでいたように感じたけどこのことだったのか。あのドールめ、わざと知らせなかったな。


「ハラルさんはご自身もレイヤさんのお嫁さんになるとのことですが、正妻の座は私に譲って下さるとのことでした」

「はい?」


「私が妊娠するまではハラルさんもルラハさんもきちんと避妊されるので機会は平等にと……機会とは何の機会でしょう。妊娠の機会だとすると話の辻褄が合いませんわよね」


 ここがすぐに結びつかないのは、知識はあってもまだまだ偏っているということだろう。俺が妊娠するための行為の機会だと耳元で囁くと、真っ赤になって両手で顔を覆って身悶えていた。


 うん、やっぱり可愛いじゃないか。


「そ、そういうことは結婚してからですわよ!」

「婚約は確定なんだ?」

「レイヤさんは嫌ですの?」


「嫌ではないよ。ただ、どうして俺と婚約したいのかは聞いておきたいかな」

「私、その……れ、レイヤさんを好きになってしまいましたの」


「そっか、ありがとう。嬉しいよ」

「へ? 疑いませんの?」

「何を?」


「私と婚約して、父がレイヤさんとの契約を有利にしようとしているとか……」

「そうなの?」


「ち、違いますわ! 父にはきっちり申し上げてあります! 私とレイヤさんが婚約しても契約と混同するのは絶対に許しませんと!」


「安心したよ。政略結婚みたいなのは俺は好まないからね。もし契約金の代わりに娘を差し出すということならお断りするつもりだった」

「では……!」


「ただまあ、いきなり婚約って言われてもピンとこないし、ひとまずは婚約を前提にして付き合うというのはどうかな?」

「そ、そうですわね。それで構いませんわ」


「じゃ、これからは俺のことをレイヤって呼び捨てにしてくれて構わない。俺もって呼び捨てにしていいかな?」

「レイヤさん……レイヤ……呼び捨て……きゃっ! 何だか恋人っぽいですわね! もちろん構いませんわ。お互いそう呼び合いましょう」


 そこで美祢葉が俺の袖口をキュッとつまんだ。


「あの……レイヤさ……レイヤ?」

「うん?」


「こ、恋人同士になったら、き、キスをしなければなりませんのよね?」

「は?」


「す、するなら早くして下さいまし! 私ドキドキで胸が張り裂けそうですわ!」


 さらに真っ赤になってギュッと目を閉じた彼女が可愛くてたまらない。恋人同士になったらキスか。箱入り娘というわけではないのだろうが、やはり色々と知識に偏りがありそうだ。もっとも指摘して恥をかかせる必要もないだろう。


 俺は彼女の頭をそっと抱き寄せ、額に軽く唇を当てた。ゆっくりと瞼を開いたがキョトンとしている。


「あの……レイヤ……?」

「うん?」


「その……キスは……?」

「おでこにしたでしょ?」


「えっ!? それが恋人同士のキスですの!?」


「キスにも色々あるってこと。今日はと付き合い始めの初日だからね。だから美祢葉も俺のおでこかほっぺにキスしてくれる?」


「わ、わわわ、分かりましたわ! め、目を閉じて下さい!」

「ん」


 甘い香りが鼻腔をくすぐり、俺は頬に柔らかい感触を味わった。これはなかなかにドキドキするな。すぐにでも彼女を抱きしめて押し倒したい衝動に駆られたがどうにか理性で抑えた。


 何と言っても相手は十五歳の少女だ。せめて十八歳で成人するまではこれ以上進むのはマズいだろう。


 その後少し雑談を交わしてから俺たちは誰もいない教室に戻り、夕陽が照らす中で自然と抱き合い唇を重ねるのだった。



――あとがき――

成人するまでってのはどこいった!?

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