第三話

 恐竜飼育施設付近のフードコート計画はソーロンからも了承が得られた。双方のコンビニからそれぞれ電子レンジが三台ずつ、カップ麺などにお湯を注ぐための電気ポットは二台ずつ提供される。ポットへの給水はコンビニのアルバイトが時間を決めて担当することになった。


 他はレジ横に設置されているコンビニコーヒーメーカーも置きたいとのこと。しかし会計の手間やSサイズを購入してMサイズを注ぐような不正客の監視も手間がかかるので、飲み物は自販機に任せることになった。もちろん観光地価格ではなく通常価格だ。


 フードコートの利用に関しては色々と意見が出たが、有料という方針はソーロン側も賛成だった。


 最初の一時間は百円。延長は三十分ごとだが、延長する度に料金が倍になる。つまり延長一回目は二百円、再度の延長は四百円、次が八百円という感じだ。これで客が無駄に居座るのを防げるだろう。


 不正の監視はドールを置くまでもなく出張所の陸軍兵士が無償で買って出てくれた。ありがたい。ただ、それではあまりにも申し訳ないので、スパの優待券を月に三枚渡すことにした。ケチ臭いように見えるかも知れないが、優待券は乱発しない方針なのである。


「これがテーブルです」


 ハラルがフードコートに置くテーブルの試作品を見せてくれた。


「このドーム型の天辺にあるコイン投入口にお金を入れるとドームが開いて椅子が出てきます」


 ドームにはミカンのような切れ目があり、パカッと開いたドーム部分はテーブルの下にスライドしていく。それと同時に折り畳まれていた椅子が六脚出てくる仕組みだ。なお椅子の脚数はコイン投入時に選択出来るようになっている。


「うん、いいんじゃないか?」

「強度も十分です。体重二百キロの人が座っても潰れません」

「かなり頑丈なんだね」


「利用終了の十分前に一度アナウンスが流れ、五分前になるとパラソルの柄のこの部分が赤く点滅し、さらに時間を知らせるアナウンスが流れます。時間になっても延長料金を投入せずに居座った場合はこのようにブザーが鳴ります」


 かなり大きな音で、これなら兵士が駆けつけるよりも周りの客から白い目で見られそうだ。嫌なシステムだが、不正利用する客に甘い顔は必要はないだろう。


 数日後にソーロンとエイトイレブンの責任者に見せたところ大絶賛された。他の店舗でも利用したいので売ってほしいと言われたほどだ。もちろん断った。


「これを三十台造ってくれる?」

「承知致しました」


 フードコートのオープンはエイトイレブンの開店に合わせることにした。先にテーブルを設置してもよかったのだが、案を出したのがエイトイレブンの本部長だったからである。


 それから約一カ月半後の七月一日、エイトイレブン恐竜飼育施設前店とフードコートがオープンした。フードコートの広さはおよそ三百坪で、簡易的な柵で囲まれている。


 オープンから三日間はソーロンとエイトイレブンで税込み千五百円以上の買い物をすると、フードコートが一時間無料で利用出来るコインがもらえるキャンペーンを実施した。


 実はこのコイン、フードコートを無料で利用出来るだけではない。スパのペア優待券が当たる抽選付きで、結果はフードコートを利用すればその場で分かるようになっているのだ。


 空くじじゃないぞ。本当にランダムだが一時間に一回は当たりが出るようにしてある。当たったらパラソルが点滅してファンファーレが鳴るので、宣伝効果も抜群というわけだ。


「料金体系に不満がある客も多いようですが、軍の兵士のお陰で表立って文句を言う人はいませんね」

「あれだとゴミの放置も出来そうにないな」

「分別まで監視されてますから」


 ハラルとルラハと共に偵察用ドローンからの映像を見ながら、俺はフードコートの様子を窺っていた。恐竜飼育施設には今日も多くの客が訪れている。基本的には恐竜を見たら終わりだが、フードコートが出来たお陰でコンビニを利用する者も明らかに多かった。


『レイヤさん、レイヤさん!』

 様からの念話だ。


『どうしました?』

『フードコート、オープンしたんですね! おめでとうございます!』

『ありがとうございます』


『ところで今年の夏休みですが』

『ああ、もうすぐでしたか』


『もう! レイヤさんは私と会いたくないんですか!?』

『そんなわけないじゃないですか。てかしょっちゅう来てるクセに』


 もそうだが和子様も週に三日はポッドに乗って泊まりに来ていた。二人で示し合わせたように例えば月水金が和子様で、火木土が美祢葉という具合にである。


 でもって週に一日は二人とも来ない日があって、どうやらハラルとルラハのために空けているようなのだ。そしてその日は小瓶一本で三十回はお代わり可能になる精力回復剤を無理矢理飲まされる。てか俺、休みなくない?


 もちろんそれが嫌というわけではない。


『そう言えばさんはどうされてます?』

『どう、とは? 元気にはしてますよ』

『ドレイシー柔術を習ってるんですよね?』


『ああ、そのことですか。最初の一カ月くらいはヘロヘロになってましたけど、こっちに来る前にハラルに出された課題をちゃんとこなしていたようで、今は基礎体力も女性兵士並みになったと聞いてます』


『私も習いたいなぁ〜。夏休み期間中とかどうでしょう?』

『多分道場の周りの砂場を走らされて終わりになりますよ』


『ムキムキになっちゃいますね』

『俺は柔らかい和子様がいいな〜』


『くっ! そう言われると習えないじゃないですか』

『いいんですよ。和子様は護られる方で』


『うふふ。護ってくれますか?』

『もちろんです、お姫様』


 テーゼ(俺が名づけた恐竜)にも乗りたいとのことだったので、早朝の飼育施設開園前なら構わないとして念話は終了した。


 和子様、夏休みはずっと入り浸るつもりらしい。美祢葉も来るだろうし、つま育成園の子供たちもまた招待したい。


 うん、やっぱり俺には休みはないようだ。夏休みってなんだろう。

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