第七話
その日、日本海は快晴で海も凪いでいた。
能登半島沖、大日本帝国のEEZ(排他的経済水域)にK国の駆逐艦が侵入したのを警戒監視中の海軍のP-1哨戒機が確認した。
五千トンクラスの警備救難艦とゴムボート、漁船らしき小型船、そして駆逐艦である。
こちらの地球では現在、K国は○国の属国で日本の敵性国家という位置づけだ。よって漁船はもちろん、軍艦のEEZ侵入は即座に敵対行為と見なされる。
もちろん大日本帝国海軍は彼らの接近を早い段階で捕捉しており、すでに『たいげい』型潜水艦の二番艦
表立っての行動は相手も敵対行為と見なし攻撃してくる可能性がある。そうなれば○国との戦争に発展しかねない。故に発見は平素の警戒監視中だった哨戒機によるものと示唆する必要があった。
なお、最悪撃沈することになった場合でも、潜水艦による攻撃であればK国に対してしらを切り通すことが可能だ。何故ならK国の対潜哨戒能力は高いとは言えなかったからである。
能登半島沖、K国の駆逐艦までおよそ五千メートルの水深約百メートルに息を潜める白鯨艦内――
「アイツら人んちの漁場で何やってんだ?」
「魚釣りってわけでもないでしょう。スパイでも送り込むつもりじゃないですかね」
「護衛艦引き連れてか?」
「なら回収かも知れません」
「それならあり得るな」
白鯨のソナーマンはK国の駆逐艦と警備救難艦、漁船を捉え、すでに音紋解析を終わらせていた。それにより漁船はただの漁船ではなく、巧妙に偽装された小型のミサイル艦だったことが判明する。
「全長約六十メートル。漁船にしては大きいと思いましたが……」
「遠洋に出る船ならあり得ない大きさでもないな」
「沈めますか?」
「いや、P-1の判断を待とう」
高度百五十メートルを維持しながら飛行する哨戒機内部――
「救助活動か? 怪しいな。いずれにしても写真を撮っておけ」
「はい」
哨戒機にはパイロット二名と機上整備員、戦術航空士など十一人が搭乗している。
「白鯨から情報です。漁船は漁船にあらず」
「何だと!?」
「K国に配備された○国製の小型ミサイル艦とのことです」
「駆逐艦より火器管制レーダー照射を確認。緊急離隔します!」
パイロットが叫んだ時には、すでに哨戒機は急上昇を始めていた。
「K国駆逐艦に無線で呼びかけろ!」
「先ほどから呼びかけてますが応答がありません!」
「無視するつもりか。各員戦闘態勢! 白鯨にレーダー照射を受けたと伝えろ!」
「はっ!!」
◆◇◆◇
時はほんの少し戻ってK国駆逐艦操舵室――
「小日本の小バエに嗅ぎつけられたか」
「撃ち落としますか?」
「まあ待て。ここはEEZ内だから撃ち落としたらこちらの立場がマズくなる」
そこで駆逐艦の艦長はニヤリと笑みを浮かべた。
「火器管制レーダーを当ててやれ」
「それも問題になるんじゃ……?」
「なーに、こちらは自国の遭難船に対する救助作戦を実行していた。そこに日本の哨戒機が高度百五十メートル上空、五百メートルまで接近し威嚇飛行をした」
「つまり我々は遭難船舶救助のために探索レーダーだけを運用していた、ということにするのですね?」
「艦長、哨戒機から無線が入ってます。国際VHF、UHF緊急周波数、VHF緊急周波数の三波です!」
「ご丁寧なことだが放っておけ。現場の通信環境が悪く無線が聞き取れなかったということにすればいい」
「この快晴で通信環境が悪い、ですか」
「俺には
「艦長! 哨戒機が至急応答しなければレーダー照射を攻撃の意図ありとみなし撃沈すると言ってきています!」
「対空戦闘用意! 哨戒機の高高度からの攻撃は厄介だが見えているならどうということはない。火器管制レーダー再度照射!」
「か、艦長! ぴ、
「何だと!?」
「魚雷か!?」
「いえ、一回のみです」
「とすると近くに潜水艦……!?」
「哨戒機、遠ざかります!」
探針音は白鯨が放ったものだ。駆逐艦が哨戒機に照射した火器管制レーダーに対するお返しというわけである。
「クソッ! 両舷全速! 哨戒機が離隔したということは魚雷が来るぞ! 回避行動を取れ!」
「
「警備救難艦と漁船の分も含めて三発だ! こちらから合図を出す! これよりジャマーで通信不能になるから見逃さず合図でエンジンを切れと伝えろ!」
「艦長! 速度を落として下さい! これでは敵潜の位置が掴めません!」
「バカを言うな! そんなことをしたら……」
「ぎょ、魚雷から探針音! 距離二千!」
「なっ!? 面舵いっぱい! 囮魚雷発射用意!」
K国の艦艇に白鯨が放った
◆◇◆◇
魚雷発射直前の白鯨艦内――
「艦長、P-1からです。火器管制レーダーの照射継続を確認。攻撃の意図ありと見なし緊急離隔する。敵艦艇を撃沈されたし」
「こっちは攻撃してませんよってポーズか。遭難船の救助に駆けつけたというK国の軍艦が我が国のEEZに無許可で侵入。筋書きはろくでもない原因をでっち上げて沈没ってところかな」
「本当に救助なら我が国に打診があるはずですからね」
艦長はそこでニヤリと笑みを浮かべた。
「P-1からの要請により、これより我々はK国駆逐艦及び警備救難艦、並びにミサイル艦を撃沈する。駆逐艦には二発、警備救難艦とミサイル艦にはそれぞれ一発をお見舞いしてやれ!」
「距離五千、雷速四十ノット、航走四分! 一八式魚雷発射用意!」
「一番から四番、ホーミングプログラム入力完了!」
「よし、一番から四番、発射管注水」
「一番から四番、発射管注水!」
艦長の指令を水雷長が復唱した。白鯨の魚雷発射管は全部で六門。そのうちすでに魚雷が装填された四門に注水が開始される。
「魚雷発射管注水完了!」
「距離二千まで有線誘導! 一番から四番、
「一番から四番、一八式魚雷発射!」
K国の駆逐艦を始めとする三隻は
大日本帝国がこの海域を封鎖したのはそれからわずか一時間後のことで、生存者は救助されたが決して帰国を許されることはない。何故なら全員拷問により命を落とすことになるからだ。
数日後、K国は生存者の即時引き渡しと駆逐艦、警備救難艦、漁船の撃沈に激しく抗議。賠償金を要求してくるのだった。
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