第六話

様も私たちの仲間になりましたのね」


 は部屋から出てきた俺たちを見て、言葉で伝える前に状況を察してくれた。


「さすがに複雑だよな?」

「あら、そんなことありませんわ。和子様なら大歓迎だと言いませんでしたか?」

「聞いた気がする」


「それより和子様」

「はい?」

「覚悟なさいましね」

「はい?」


「レイヤは激しいですわよ。初めてでも容赦ありませんから」

「えっ……?」

「お、おい美祢葉……」


 何はともあれこれで和子様も俺の恋人となったわけだ。陛下も思ったより気さくだったし、これなら和子様との仲もゆっくり時間をかけて育んでいけばいい。緩いことを考えていたその日の夜、恋人同士になった初日に俺は彼女の初めてを頂いてしまった。


 ハラルたちに嵌められたんだよ。節操ないとでも何とでも言ってくれ。


 翌日の早朝、恐竜の卵は無事に孵化ふかを終えていた。最後まで見届けていた陛下の目は赤かったが、それとは裏腹に満面の笑みである。


 約束通り卵の殻とシルバー(恐竜)やテーゼ(恐竜)から抜け落ちた鱗を何枚か渡すと、さらに喜んでもらえた。その勢いで様との交際のお許しを願うと陛下はこう言われた。


「正式な婚約の発表は和子が学園を卒園してからとなります。それまでは間違いを起こさないで下さいね」

「お、お父様!?」


「学生のうちに妊娠などということになれば大問題になります。私たちはそういう立場なのですよ」

「はい……」


「しっかりとその辺りに気をつけなさいということです。後は何も言いません」

「お父様?」


「ヨウミさん、頼みましたよ」

「はい!」


「元気のいい返事ですね。複雑な父親の気持ちも少しは汲んで頂けるとありがたいのですが」


 交際することも当面は公表しないので、マスコミなどには十分に気をつけるようにとのことだった。しかしそっちは俺の得意分野だ。嗅ぎつけられそうになってもいくらでも阻止する手立てはあるし、ジェームズを動かしてもいいだろう。



◆◇◆◇



佐々木ささきさん、色々と任せてしまってすみません」

「い、いえ! こんなに色々とやらせて頂いて毎日が楽しいです!」


「それはよかった。ところで一人では辛くないですか? 必要ならもう一人か二人雇いますよ」


「仕事の量自体は問題ないんですけど、建築関係には疎いので苦労はあります。でもハラル様やルラハ様が助けて下さいますので大丈夫です」

「そうですか。あとは一人で寂しいとかはありませんか?」


「私は元々人付き合いがあまり得意な方ではありませんので、返って一人の方が気が楽と言いますか」

「なるほど、分かりました。では増員はしばらく考えないことにしましょう」


 ところがそこで佐々木さんが何かを思いついたような表情を見せた。


「どうかしましたか?」

「あの、こんなことを申し上げた直後なんですが、実は私の妹が職を探していたのを思い出しまして」


「妹さんが?」

「はい。以前は建設会社の事務をやってたんです」


 妹の名前は佐々木。二つ年下の二十五歳で、彼女もセクハラの被害に遭い仕方なく三年勤めた中堅の建設会社、ともまる建設を退職したそうだ。


「では妹さんが希望されるなら面接に呼んでもらえますか? 経験や知識によりますが、基本的に佐々木さん……玲子れいこさんと同じ待遇を考えてます」

「ありがとうございます! 美玲奈も私のことを羨ましがっていたので喜んで面接に来ると思います」


「人付き合いが苦手でも妹さんなら安心ですね」

「すみません」


 その翌日、早速美玲奈さんが面接に訪れた。玲子さんとは対照的に雰囲気は垢抜けていたが、話してみるとさすがは姉妹と思えるほど真面目そうである。


「お姉さんからお聞きになっているかも知れませんが、当面は公園予定地の休憩所建設に関わる全てをお任せしたいと思ってます」

「はい」


「もちろん分からないことはこちらのハラルとルラハがフォローしますので安心して下さい」


「ありがとうございます。あの……」

「はい?」


「本当に姉と同じ条件で雇って頂けるのですか?」


「ええ。ただ今後どんどん忙しくなる可能性がありますのであらかじめご了承下さい」

「そこは問題ありません」


「お住まいはここの二階を使いますか? それともどこか借り上げますか?」

「姉がおりますので二階を使わせて頂ければと思ってます」


「ではお部屋はお姉さんの隣を使って下さい」

「え? 姉と同室ではないんですか?」


「同室をご希望ならそのようにしますが、空いているので別々で構いませんよ。この地は陸軍の出張所もありますので、女性の独り住まいでも危険はないと言ってもいいでしょう」


 軍に頼るまでもなく、偵察型ドローンを配置しているので不審者対策は万全なのである。


「それと日出ひで村は近いですが、この辺りにはコンビニのソーロンしかありませんので買い物には不便だと思います。ですので高尾駅周辺や立川辺りに出やすいように軽乗用車を一台用意します。こちらはお姉さんと共用にして下さい」

「そんなことまで!?」


「車は休日などに私用で使って頂いても構いません。ガソリンは入光いりみつ石油と契約してありますから、メンバーカードかアプリを提示すれば支払いは不要です」

「えっ!?」


「他のガソリンスタンドを利用した場合は、後日になりますが給料と一緒に清算しますので領収書を提出して下さい」


「何だか信じられません」

「そうですか?」


「ここまで至れり尽くせりとは思ってませんでした」

「ヨウミ家は使用人……佐々木さん姉妹は従業員ですが家族同然の扱いをします。不思議なことではないんですよ」


共丸ともまる建設とは大違いです」


「あははは。引っ越しの手続きはこちらでやりますので、荷造りを始めて頂いて都合のいい日を連絡して下さい」

「本当に何から何までありがとうございます」


 一週間後、佐々木が事務所棟の二階に引っ越してきたのだった。

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