第十三話

――まえがき――

リアル多忙とお伝えしましたが、台風の影響で一日だけ空いたので更新します。

明日からはまた多忙になりますので、次回更新までしばらくお待ち下さい。

――ここまで――




 子供たちがテーマパークから帰ってきた夜はバーベキュー大会を催した。さすがにつま園長親娘は疲れた顔をしていたが、子供たちはまだまだ元気いっぱいだ。


 なお、今回テーマパークに同行した兵士たちも参加するので、場所はうちの前ではなく軍の村出張所の一角で行うこととなった。そのためどうしても任務で持ち場を離れられない者を除いた兵士も参加となり、辺りは大騒ぎである。


 もちろん、佐々木姉妹もお呼ばれしていた。


「あのねあのね、男の子と女の子のネズミさんがね、すっごく可愛かったのーっ!」

「海賊船に乗って探検したんだぜ!」

「ホテルのご飯、すっごく美味しかった!」


 次から次へと子供たちから報告が入る。海賊と聞いてヒヤリとしたが、ハラルから念話でテーマパークのアトラクションだと聞かされてホッとしたよ。楽しめたようで何よりだ。


 俺を含めた居残り組も、偵察型ドローンからの映像で彼らがはしゃいでいた様子は分かっていた。それでも体験した本人たちから聞かされる生の声は貴重と言えるだろう。


 大人に警戒心を抱くは基本的に女性兵士が傍についてくれていた。彼女たちは私服姿だったので、端から見れば妙齢のお姉さんである。それが代わる代わるごく自然に柊果里に寄り添い、自分たちも楽しんでいる姿を見せることで打ち解けたようだ。


 少なくとも女性兵士と話す彼女の表情には屈託がない。


「さすがは被災地などでも避難民に寄り添う兵士たちと感心させられました」


 ルラハが映像では分かりにくい遠足中の様子を教えてくれた。


「確かに育成園の子供たちはある意味避難民かも知れないな。それはそうと、あれは何をしてるんだ?」


 見ると佐々木さん姉妹の前に男性兵士たちが並んで手を突き出し、何やらごちゃごちゃと叫んでいる。


「佐々木さんたちに交際を申し込んでいるようです」

「は?」

「二人とも美人ですからね。お姉さんのれいさんはお淑やかな清楚系らしいです」

「らしいって?」


「出張所の男性兵士たちの評価です。妹のさんは活動的で健康そうとのことですよ」

「ふーん。二人は嫌がってないか?」


「楽しんでいるように見えますね。二十七歳と二十五歳ですから結婚していてもおかしくない年齢ですし、軍人なら将来も安泰でしょうから」


 戦争に駆り出されなければという枕詞はつくが、この大日本帝国ではその通りなのだろう。


「しかし色々揃えたのにすぐに寿退社されるのは困るぞ」

「レイヤ様、二人ともその辺は考えているようで、もし結婚するとしても最低三年は働き続けるつもりのようです」


「ルラハは何か相談でもされたのか?」


「相談と言いますか、決意を聞かされたんです。結婚したら家に入れという相手は論外だそうで、出来ればずっとここで働きたいと言ってました」

「まあ、待遇はいいはずだからな」


「お給料だけではなく、この辺りの環境も気に入っているようですよ」

「そうなの?」


「公園も造られる予定ですし近くにもあります。買い物も不便と言うほどではなく、いずれはレイヤ様から土地をお借りして、この地に家を建てたいと言ってました」


「恐竜がいるのにか?」

「そこはレイヤ様の施設なので心配はしていないそうです」


「仕事を続けてくれるならいいぞ。許可すると伝えておいてくれ。場所は応相談だな」

「かしこまりました、マイマスター」


 交際申し込みの男性兵士たちが揃ってうな垂れているのが見えた。どうやら二人のお眼鏡にはかなわなかったらしい。


 そんなことを考えていると、を伴ってやってきた。依麻が抱っこしてと両手を伸ばしてきたので、そのまま抱き上げて膝の上に乗せる。


「レイヤお兄ちゃん!」

「おう依麻、食べてるか?」

「うん! 美味しかったぁ!」


「まだまだ食べていいんだぞ」


「うん、あのね」

「どうした?」

「レイヤお兄ちゃん、ありがとう!」


 頬にキスされた。


「遊園地も楽しかったぁ!」

「そうかそうか、よかったな」


「今度はレイヤお兄ちゃんも一緒に行こう!」

「そうだな。また来年かな」

「えー、明日行こうよぉ」


「あっはっは! チケットが取れないからがまんしてくれ」

「ぶー。じゃ来年は絶対だよ!」

「おう、約束だ」


「約束破ったらレイヤお兄ちゃんのお嫁さんになってあげないからね!」

「それは困る。絶対に約束は守ろう」


「やったーっ! レイヤお兄ちゃん、大好き!」

「俺も大好きだぞ、依麻」


 ハラルとルラハ、それに柊果里まで苦笑いはやめなさい。


「柊果里は何か用があったんじゃないのか?」

「はい、ヨウミ様にお願いがあります」

「聞こうか」


「課題のクリアを認めて頂けましたので、中学を卒業したら私はこちらで働かせて頂けると思っています」

「うん。よくがんばったね。約束だからいいよ」


「ありがとうございます。それで、私もドレイシー柔術を習わせて頂きたいのです」

「あー、女性兵士から聞いたのか?」


「はい。わかばやしはるか様から詳しく教えて頂きました」


 柊果里はセクハラどころか暴行未遂の被害者だ。身を護る術を欲することに何ら不思議はない。


「うーん、ハラルとルラハはどう思う?」

「構わないと思います。ですが柊果里さん」

「はい」


「鍛錬は厳しいですよ。それなりに鍛えた女性兵士たちでさえ、始めは根を上げるほどです」

「覚悟の上です!」


「でしたら卒業までの間、雨や雪が激しい日を除いて毎日二時間のランニング。外に出られない日はメニューを渡しますのでトレーニングを欠かさないで下さい。出来ますか?」

「やります!」


 今のうちから基礎体力をつけさせようというわけだな。しかし柊果里の柔らかい雰囲気は魅力の一つだから、出来ればムキムキにはしないでほしい。


『レイヤ様、柊果里さんも苗床になさいますか?』


 ハラルがろくでもない念話を飛ばしてきた。一体どれだけ増やせっちゅうねん。


『今は大人に対する警戒心を克服する方が先だろう。柊果里が望んだらその時に考えるよ』


 バーベキューの方に戻っていく二人の少女を見送りながら、決して柊果里を娶ることを否定しない念話を返した俺だった。

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