第五話

 大騒ぎとなった歓迎会を収めるため、司会の琴美ことみがとんでもないことを言い出した。


「ここにルラハさん争奪、大格闘技大会の開催を宣言します! 重田しげた村長、許可して頂けますね?」

「うむ。許可しよう!」

「待て待て、ルラハの意思はどうなる!?」


「優勝者に与えられるのはルラハさんとの対戦権です。もちろんルラハさんには勝っても負けても交際する義務はありません」

「つまりお断りオーケーってことか?」


日出ひで村を盛り上げるために対戦には参加してほしいですけど」


 なるほど、そういうことか。娯楽の少ない村を活気づけるにはいいかも知れない。


「「「「えーっ!」」」」

「「「「何だよ、それー!」」」」


「男共は黙りなさい! ルラハさん、どうでしょう」


『レイヤ様、どうしましょう』

『いいんじゃないか。遊んでやれよ』

『レイヤ様がそう仰るなら』


 念話を飛ばしてきたルラハに軽く微笑んで返した。


「望まない交際の義務がないなら構いません」

「ということは、望む場合もあると?」

「さあ、どうでしょう」


「野郎共ぉ聞いたかぁー! チャンスはあるぞー!」

「「「「うぉーっ!!」」」」


 琴美さん、口調変わってません?


「参加費は一人五千円だぁ!」

「「「「えーっ!?」」」」

「「「「金取るのかよー!!」」」」


「会場の設営費やら何やらがタダなわけないだろ! そんなセコいこと言うヤツはルラハさんに嫌われるぞーっ!!」

「「「「琴美ちゃんが一番セコいぞー!」」」」

「「「「ぎゃはははっ!」」」」


「ハラルちゃんは参加してくれないのー?」

「おいおい、ハラルは俺の彼女だって……」


『レイヤ様、面白そうです。私も参加してはいけませんか?』

『アイツらの考えていることは分かってる。合法的にお前の体に触れることだろうよ』


『レイヤ様以外の男性に触れさせるものですか。一撃で仕留めて見せます』

『こ、殺すなよ』

『分かっております』


「では私も参加します」

「ハラルさん、本当ですか!?」


「「「「おぉーっ!!」」」」

「「「「やったぜー!!」」」」

「レイヤは参加しないのかよ!?」

「は?」


「「「「そうだそうだ!」」」」

「俺が参加したらお前らに勝ち目はないぞ」

「「「「逃げるのかー!?」」」」


 ただの村人相手に重力シールドは必要ない。俺にとってはそれこそ赤子の手を捻るようなものだ。


『うふふ、レイヤ様も私の争奪戦に参加して下さい』

『はー……村を盛り上げるためってか』


『私たちの力を見せつけるよい機会だと思います』

『仕方ないな。ハラル、ルラハも、今夜はサービスしろよ』


『『お任せを』』


「分かった。俺も参加しよう」

「レイヤもいいんですか!?」


「参加費は払わないし、逆にギャラ取るぞ」

「では優勝者に賞金を出しましょう」


「いや、優勝者にではなく俺にだなぁ……」

「お前らに勝ち目はない、ではありませんでしたか?」

「うん?」


「優勝賞金とは名ばかり、優勝するレイヤへのギャラということですよ」


 琴美め、そこを突いてきやがったか。


「皆さーん、聞いた通りです! 優勝者にはなんと賞金が出ます!」

「「「「うぉーっ!!」」」」

「「「「いくらー!?」」」」


「五万円です!」

「「「「えーっ!」」」」

「「「「やっす!」」」」


「バカ言わないで下さい。参加費が一人五千円で、百人参加しても集まるのは五十万円ですよ。そこからハラルさんとルラハさんの争奪戦それぞれの優勝者二人に五万円ずつですから十万円です。設営費を考えたら大盤振る舞いじゃないですか!」


「「「「琴美ちゃーん!」」」」

「はいはーい!?」


「「「「セコすぎーっ!!」」」」

「「「「ぎゃはははっ!」」」」


「本気で独身税払わせますからね!」


「「「「琴美ちゃん、可愛い!!」」」」

「「「「琴美ちゃーん、結婚してぇっ!!」」」」

「しませんっ!!」

「「「「ぎゃはははっ!」」」」


 何はともあれ、ハラルとルラハの争奪戦というイベントの開催が決定した。初めは口の軽い来人らいとを恨んだが、早く村に溶け込めるきっかけになったので結果的にはよかったと思う。


「本当にすみません」


 長い乾杯から解放されたところで、俺たち三人に琴美がこっそりと頭を下げてきた。


「どうした?」

「まさかあんなことになるなんて……」

「おいおい、ノリノリだったじゃないか」


「そうなんですけどぉ……ハラルさんとルラハさんを巻き込んでしまう形になって……」

「俺も巻き込まれたけどな」

「うー……」


「冗談だ。まあ、俺たちも村に受け入れてもらえるいい機会だと思ってるから安心してくれ」

「それで、本当のところはどうなんです?」

「何が?」


「こんな小さな村ですけど、男たちの中には素手で熊を倒せる人もいるんですよ」

「それは大変だ」


「ですよね。いくらお二人、いえ三人ですか。格闘技で強くても実戦で熊を相手にするような相手には敵わないのではないかと……」

「手加減は難しいかもな」


「そうですね。彼らのあの様子では皆全力でくると思いますし」

「念のために救護はしっかりとしてくれ」


「も、もちろんです! もし三人に怪我を負わせるようなことがあれば村としてしっかりと保障します」


「ん? 三人? 熊を倒せるのが三人いるのか?」

「え? はい?」


 ハラルとルラハはレイヤと琴美の会話が噛み合っていないことに気づいていたが、二人ともあえてツッコまずに成り行きに任せることにした。


 ところがこの争奪戦が思わぬ事態を招くのである。

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