第六話

 色々とアクシデントはあったものの、山羊山やぎやま公園へのドライブは十分に楽しめたと言える。なお後で聞いた話によると、あの弓倉ゆみくら家とありはら家のボディーガードたちは、家の品位を損ねたということで地方に左遷されたらしい。


 盗撮オヤジを捕らえたことは考慮されなかったようだ。


 またハラルとルラハに対する慰謝料として、二つの家から合わせて一千万円以上の支払いを打診された。しかしそんな端金はしたかねもらっても何の足しにもならないし、後々ヨウミ家と懇意にしたいなどと言われても面倒なので、ゆめ学園に寄付するようにと受け取りを辞退したのである。


 名目は今後の学園の発展のためとした。


「レイヤ様、焼き芋屋台の紅あずまーるですが、商標の使用を申請したようです」

「有限会社全体の売り上げの三パーセントを支払うってことか」


「はい。すでに日出ひで村と契約が結ばれ、キッチンカーや屋台などに"天然温泉スパリゾート日出村で大好評!"などといったキャッチを掲げていますね」


「契約が結ばれているなら問題ないだろ」

「はい。そのキッチンカーですが……」

「うん?」


「この夢の葉学園にも出入りを申請してます」

「学生相手に商売とは……いや、そうとも言い切れないな」

「はい」


 申請が通るかどうかは別として、夢の葉学園に通う生徒は基本的に政治家や大企業、大商家の令息令嬢である。すでに全国的に有名となったスパに屋台を構えている有限会社紅あずまーるが、彼らの支持を集めることが出来ればさらに大きく躍進するだろう。


 実は天然温泉スパリゾート日出村は夢の葉学園に通う生徒たちにも、なかなかチケットが確保出来ないプレミアスパとして認識されていた。チケットが入手困難な理由は、俺の方針で金を多く支払えば優遇されるという抜け道を悉く塞いだからである。


 むろんチケットの転売対策もしっかりと考えた。一度でも転売した者には二度とチケットは売らない。いわゆる出禁である。


 また、転売チケットを購入した者もそれまでの厳重注意から一定期間の出禁とした。この世界の技術では誤魔化せても、俺たちの監視網からは逃れられないということだ。


 いくら変装や偽名などで誤魔化そうとしても、たかだか二十一世紀の技術で俺たちを騙せるわけがないのである。


 転売ヤーは生産性の欠片もない、平気で他人のふんどしで相撲を取る恥知らずだし、彼らから商品を購入する者も同罪だ。排除することに何の躊躇ためらいもなかった。


 ところで学園の食堂は非常に充実したメニューを取り揃えている。さすがは金持ちの生徒が通う学校だ。俺は基本的に栄養と体調管理の一環で、寮のキッチンでハラルとルラハが作った弁当を昼食にしている。むろん食材は宇宙船ハラルドハラルからの調達だ。


 しかし何度かは俺に好意的なクラスメイト、浅井あさいつばさたちに誘われて食堂を利用した。その際に同席したハラルとルラハにより料理が分析され、俺に必要な一日の三分の一の栄養素がしっかりと含まれていることが分かったのである。


 多少カロリーオーバーなところもあったらしいが、許容範囲内とのことだった。複数回分析して常に基準値を満たしていたので、時々なら彼らに付き合って食堂で昼食を摂るのも構わないそうだ。


 ただ、二人とも不服そうではあった。大方外出先でもないのに、俺が自分たち以外の者が作った料理を口にするのが気に入らなかったのだろう。そうならそうと言えばいいのに、可愛い奴らだ。


 その日、俺とハラルは浅井たちとランチを食堂で摂っていた。ルラハは今週、道場でドレイシー柔術の稽古をつける当番でいない。もちろん学園やクラスメイトたちには、二人が週替わりで休む理由をヨウミ家の事情と説明してある。


 なお、当然のごとくランキングトップの迦陵かりょうみなとも加わっている。普段彼は別グループで行動しているが、俺たちが集まる時にはこちらに合流してくるのだ。


 先日のドライブで悪いヤツではないと分かったし、これといった不快感は感じない。他のメンバーも同様で、特に木納きのうしおりは頬を染めるほど分かりやすい反応を示していた。


 そして彼がこちらに合流している間、他の生徒たちからはリーダーと認識されているようだ。上下関係などないのだが、面倒事を引き受けてくれるのだから文句は出ない。


 その面倒事がやってきた。


迦陵かりょう君、僕たちも仲間に入れてもらえないだろうか」


 自由民権党議員の子息、石原いしはら浩幸ひろゆきと、大日本帝国陸軍中佐の息子、奥田おくだ絢啓はるあきである。以前ハラルとルラハをダンスパーティーや晩餐会に誘い、一蹴された二人だ。彼らは食事が乗ったトレーを持ったまま、俺たちのテーブルに寄ってきていた。


 実は石原と奥田は現在、クラスの中で孤立した状態にある。石原は父親が疑惑の自由民権党議員ということで、クラスメイトたちの家から極力接触を避けるようにとの指示が出されていた。


 奥田は現役軍人の息子という立場を笠に着て、横柄に振る舞っていたが故だ。石原には同情の余地がないわけではないが、奥田は完全に自業自得である。彼に関しては上級生からも目を付けられているようだった。


 孤立した二人が仕方なくつるんでいるが、俺が不愉快であることには変わりはない。


「石原君と奥田君、君たちは僕がこのメンバーのリーダーだと思っているようだけど実際は違うからね」

「「え?」」


「今ここにいないルラハさんも含めて、全員の立場は対等だと思ってる。ああ、ハラルさんとルラハさんはレイヤ君の従者だけど、僕たちから見たら同じ仲間だからさ。それでいいかな、レイヤ君?」

「もちろん」


「だから君たちを仲間に入れるには全員の同意が必要というわけさ。もっとも、昼食を共にするなら僕は反対しないけどね。反対の人はいる?」


 そこで俺はすかさず手を挙げるのだった。

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