第五話
――まえがき――
すみません!
昨日公開したつもりで未公開のままになってました(>_<)
ですので本日はこれ含めて三回更新します!
――まえがきここまで――
劇団座長の一人息子である
何でもそのメーカーのフラッグシップモデルで完全なプロ仕様らしく、レンズも一本で軽乗用車が買えるくらいの値段なのだとか。動画も撮れるので、映画の撮影にも使われているらしい。
ただしボディーガードにシャッターは切らせない。彼らの信用はバーベキュー専用ガーデンの一件で地に落ちていたからである。翼曰くそもそも素人、というか他人に自分のカメラを触らせたくないそうだ。
「いいカメラだと、やっぱりきれいに撮れるものなのか?」
「レイヤ、高いカメラは機能も充実してるし使いこなせれば確かにそういうこともあるけど、写真は機材じゃないからね」
「そうなんですの?」
「
素人は景色などでも美しいと思った風景を何の気なしに撮影する。その画像を後で見て何を撮ったのか分からないというようなことはないだろうか。
そういう経験がある人は写真に必要な"主題"がないからだと翼が語る。主題とは文字通り写真の主役のことで、景色の中に目立つものがなければ道路標識でもいいからそこに焦点を当てるとぐっと締まってくるそうだ。
自分の目で見た時に素晴らしいと思った景色は、無意識に何らかの主題をクローズアップしているのだと教えてくれた。
「あとは基本的に縦長のものは縦に、横長のものは横に撮るって感じかな」
「縦長? 横長?」
「立っている人は縦長、でも集合写真みたいに横に広がったら横長。分かる?」
「なるほど!」
「もちろんそればかりではないけどね。他にも何でもかんでも斜めに撮ればカッコいいと思ってる人がいるけど、素人がやっても"酔う"だけだから」
「酔う?」
「違和感しか感じられないってこと」
翼に写真の話を振ると話題が尽きないということだけは、その場にいた全員が理解した。
それはさておき、夢の葉学園の制服は家族連れで賑わう
『レイヤ様、中年男性に狙われてます』
『うん?』
妙に嫌そうな感じでハラルが念話を飛ばしてきた。
女の子だけで芝桜に埋もれたような写真が撮りたいとの翼のリクエストに応えてポーズを取っていたところを、知らないオヤジが望遠レンズで狙っていると言う。いわゆる隠し撮りというやつだ。
俺がそれとなくボディーガードに伝えると、彼らはすぐさま二手に分かれて一組が背後に回ったところで残りの一組がオヤジに向かって歩き出した。
しばらく隠し撮りに夢中になっていたオヤジだったが、黒服が近づいているのを察知してそそくさとその場から離れようと
逃げようとしたところで有罪確定である。
「盗撮の疑いがあります。撮影したデータを見せて下さい」
「し、してない! 盗撮なんてしてない!」
「でしたらデータを。問題なければお詫びとしてこちらを差し上げますので」
ボディーガードの田村氏が胸ポケットから札束を覗かせた。マジかよ。
「い、いらん! そんなものいらん!」
「そうですか。しかしデータは確認させて頂きます」
「ふざけるな! 俺はプロのカメラマンだ! 撮影データを簡単に見せられるものか!」
「プロのカメラマン……動画も撮影されていたのですか?」
カメラマンというと写真を撮る人のように広く認識されているが、正しくは写真家またはフォトグラファーと呼ぶ。カメラマンとはビデオカメラマンを指すのだ。翼から受け売りの知識である。
「動画は撮ってない」
「そうですか。とにかくデータを失礼します」
ボディーガードの一人が不意にカメラを取り上げ、スイッチを入れて撮影画像の確認を始める。結果は一枚目からハラルたち四人の姿が映っていた。しかもスカートの裾ギリギリのところで、もう少しで下着が見えそうなショットばかりだったのである。
ただしハラルとルラハに関してはどんな角度から撮ろうとしても光学迷彩スーツに付加された倫理制約が働く。つまり見えそうで見えないということだ。
「これはどういうことですか?」
「あ、あんなところでポーズを取っているのだから、公園が用意したモデルだと思ったんだよ!」
「そうだとして、無断で隠し撮りしていいことにはならないと思いますが?」
「うるさい! 入場料を払っているのだから問題ないだろう!」
「田村さん、これ……」
そう言って見せられたのは、他の女性客の盗撮画像だった。しかもそこは手洗いで、個室の下の隙間から撮られたものだったのである。
「一線を越えてましたか」
「ち、違う! ちゃんと本人に許可を取ってそれらしく撮っただけだ!」
「当園は営業中の女子トイレへの男性の立ち入りはたとえ清掃業者でも禁止してますぞ」
ただならぬ雰囲気を感じた磯貝園長が駆けつけてきた。先ほどからオヤジが叫んでいたお陰で周囲に野次馬も集まっている。
「磯貝園長、兵隊さんが来てくれるそうです」
「ま、待て! 待ってくれ!」
俺たちのカートを運転していた男性職員が駆け寄ってきた。人が集まるところには陸軍の兵士が常駐しているのである。
「データは消す! もう二度と盗撮なんてしないと約束する! だから見逃してくれ!」
「このカメラとデータは証拠として没収となります」
「くっ! うがっ!」
なりふり構わず逃げ出そうとしたオヤジに、田村氏が足を引っかけて転ばせた。それを他のボディーガードが取り押さえたところで三人の兵士が到着する。
『レイヤ様、私とルラハの姿は消した方がいいと思います』
ハラルからの念話が飛んできた。
『ああ、そうだな。カメラが兵士の手に渡ったタイミングで消去してくれ』
『かしこまりました』
来たばかりの兵士たちは撮影されたデータを見ていない。だからハラルとルラハが映っていることを知らないのである。もちろん彼女たちのいた部分は、自然な形で芝桜で埋められることだろう。
「写真を趣味にするのはいいけど、盗撮はスパイ罪もあるからやめた方がいいですよ」
湊の忠告が効いたかどうかは分からないが、これでオヤジは今後の人生を棒に振ることになるだろう。しかし同情の念は湧かない。無許可でうら若い女の子の写真を撮ろうなどという輩には、同情の余地などないのである。
そうして野次馬も散開した辺りで、俺たちは帰り支度を始めるのだった。
――あとがき――
これ、実話に基づいていたりします。
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