第八話
「皆、軍学は陸軍科を専攻してるんだよね?」
「そうだね。レイヤ君、それがどうかしたのかい?」
「八王子市の高尾に大日本帝国陸軍
「存じておりますわ。主にあの有名な天然温泉スパリゾート日出村の警備を目的としている施設ですわよね」
「そう。そこには来客が宿泊可能な部屋がいくつもあるんだ」
「それがどうした……ま、まさか、そこに泊まれるとか言うんじゃ……!?」
「そう言えばレイヤさんは陸軍の
「家柄の関係もあってね。立場は対等だって言ってもらえてるんだ」
実際にはこちらの方がずっと上だと言っても過言ではないだろう。
「だから頼んだら何とかなるんじゃないかと思ってさ。軍の施設だから絶対に大丈夫とは言い切れないんだけど」
「もちろんだよ! むしろオーケーになる方が不思議なくらいさ。ぜひ頼んでみてほしい!」
満場一致だったのでその日の夜のうちに陸将補に打診すると、すぐにオーケーとの返事が得られた。週末は来客用の部屋を使うことがほとんどないため、禁止区域に立ち入りさえしなければ、案内の兵士が同行するが施設内の見学も許可すると言う。
ただし滅多にないだろうが、緊急時は即刻退去もあり得ると念を押された。こればかりは致し方ない。
なお、俺が土地の所有者であることは絶対に漏らさないように通達も出してもらう。施設内には何人かの顔見知りがいるので厳守するようにお願いした。
「オーケーもらえたよ」
「えっ!? 昨日の今日で!?」
「すごい……」
翌日、食堂でランチしながら、俺はメンバーに陸軍日出村出張所での勉強会合宿が実現することになったと告げた。またスパの営業終了後になるが、風呂はそちらを利用出来ると伝えると、もう食事どころではないほどに皆喜んだ。
「本当ですの!? 本当にあの天然温泉スパリゾート日出村を利用出来ますの!?」
「午後十時から十二時の二時間だけだけどね。ただ入浴施設以外は営業していないから、食事は出来ないしお土産とかも買えないけど」
「構うものか!! ああ、僕は何という幸運に恵まれているんだ!!」
「レイヤさん、どんな手を使われましたの?」
「猪塚陸将補閣下がスパの顧問に口を利いてくれたみたいなんだ」
その顧問とは俺のことだ。つまりこれは俺の独断である。
当日は総支配人の
「皆はスパのこと、どれくらい知ってるんだ?」
「そうだね。水着着用で男女関係なしに入れるスパエリアと、純粋に温泉を楽しむエリアがあることかな」
「温泉エリアは全裸で絶対にタオルを湯に浸けてはいけないとお聞きしておりますわ」
「あはは、そこまで厳密ではないよ」
「あら、レイヤさんは利用されたことがおありなのですか?」
俺をレイヤさんと呼ぶのは
「い、いや、聞いたことがあるだけだよ」
「あと、毎月十五日は軍の貸し切りですよね」
「そうなんだ。あそこを毎月利用出来るなんて、兵隊さんが羨ましいよ」
大手都市銀行頭取の次男坊、
その銀行が村に何らかの報復をしようとするなら、立ち直れないほどの損害を与えると言っておいたのをそのまま役場が伝えたら、後日銀行側から丁重な謝罪がなされたらしい。ハラルによると陸将補と陸軍が動いたようだ。
何をしたかはあえて聞かないことにした。
「あれ、
「焼き芋屋台の紅あずまーるがあそこに屋台を出したのをご存じですか?」
「あ、ああ、聞いているよ」
「私の父は有限会社紅あずまーるの役員なんです」
「「「「ええっ!?」」」」
「この学園への乗り入れも私がいるからで……あ、申請通ったみたいなので、間もなく告知されると思いますよ」
「それで貸し切りのことも知ってたのか」
「はい」
もっとも今は毎月十五日の貸し切りを一年間停止としたため、スパの休館日となっている。屋台もそれに合わせて休んでいるが、彼女はまだそのことを知らされていないのだろう。
なお、コンビニエンスストアのソーロンだけは休館日も営業を続けていた。寮に住むスパの従業員や日出村出張所の軍人、村民も利用するようで多少客足は減っても採算割れにはならないらしい。
「週末の勉強会がとても楽しみになってきたよ」
「
「わ、分かっているさ! でも楽しみなのは皆も一緒だよね?」
軍の施設に一泊出来て施設内を案内までしてもらえる。加えて営業終了後とはいえ、チケットの入手が非常に困難な天然温泉スパリゾート日出村まで利用出来るのだ。テンション爆上げで、勉強が手につかないのではないかと心配になってくる。
それでも彼らが喜んでくれるのなら良しとしようではないか。ところがこの決定がちょっとした波乱を引き起こすことになろうとは、この時の俺には知る由もなかった。
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