第七話
ジェームズ・テイラー、元アメリカ海軍のネイビーシールズ所属で、現在は大日本帝国陸軍の特務機関に所属する調査のエキスパートである。そんな彼は大の日本人女性好きで、個人的なアルバイトの報酬として毎回女性を要求していた。
そこは
「いつもの通り金は振り込んでおいた。女は秋葉原のメイド喫茶○◇に行って受付でこの札を出せ」
「商売女カ?」
「その店は表向きは健全だ。主に政治家や軍のトップのもてなしに使われる。女は金に困った素人だから安心しろ」
「そうカ。だが女はいイ」
「うん? ああ、俺も日本人女性は好きだぞ」
「違ウ。女はもういらないという意味ダ」
「ジェームズ、どういう風の吹き回しだ?」
「今回から女は必要なイ」
「どうしちまったんだよ、お前……? 好きな女でも出来たか?」
「関係なイ。仕事はちゃんとやル」
「あ、ああ、そうか。頼んだ」
部屋からジェームズが出ていくと、男は扉の向こう側に潜んでいた配下を呼んだ。
「ヤツの身辺を探れ」
「女の存在ですね?」
「アイツは役に立つが色々と知り過ぎてもいる。今のうちに弱みを握っておいた方がいいだろう」
「あんな仕事をしていて女に
「わざわざバレるような言動は気になるがな。罠かも知れんから十分に気をつけろよ」
二人が光学迷彩で姿を隠した偵察型ドローンの存在に気づくことはなかった。
◆◇◆◇
「お帰りなさい、ジェームズ」
「ただいま、
靴を脱いで玄関から上がったところで、括れた腰を抱き寄せて長い睫毛の下に開かれた潤んだ栗色の大きな瞳を見つめる。それから一呼吸おき、ジェームズは艶めかしい桜色に透き通る唇に自分の唇を重ねた。
室内で靴を脱ぐ文化は彼の地元にはない。彼が生まれたコロラド州は大日本帝国の植民地とはされなかったのである。ただし州境を接する七つの州は全て植民地なので、多くの日本文化が取り入れられている。
なお、植民地となった州はユタ県、カンザス県というように州から県に改めさせられていた。
二人が住んでいるのは立川市にある四階建てマンションの三階の一室である。六畳二間にリビングダイニングの2LDKで、元々優羽が住んでいたところにジェームズが転がり込んだ。
むろん優羽が住んでいた、というのはジェームズに対するでっち上げである。しかし彼は微塵も疑うことなく、少し甘い香りの漂うこの部屋を非常に気に入っているようだった。
優羽の作った最高に美味い夕食を摂り、本当は一緒に入りたいが狭くて叶わないので一人で風呂に入る。シャワーだけではなく浴槽に湯をためて浸かるという日本の文化は素晴らしいと思った。
「アェーッ!」
変な声が出る。
戸倉議員の依頼は、敵対する政治家のスキャンダルを探ってほしいという内容だった。実にくだらない。そんなもの私立探偵でも雇って調べさせればいくらでも出てくるだろう。どう考えても特務機関の自分に依頼するべき仕事ではない。
最近はようやく慣れてきた念話でヨウミレイヤに愚痴るように言うと、政治家の見栄だろうから
しかもそれは今回だけではない。依頼を受けたことを知らせると、ほぼ必ずヒントをくれるのである。
毎回調査すべきポイントはいくつか挙がってくるが、どれかには必ず引っかかるのだ。仕事がこれほど楽に進むことなど今まで一度もなかった。
『ジェームズ、戸倉議員はお前の身辺を調べようとしているぞ』
彼は先ほどのヨウミレイヤとの念話を思い出す。
『ターゲットは優羽カ?』
『覚られるようなことを言ったのか?』
『今後は報酬に女はいらないと言っタ』
『わざとだな?』
『そうダ。あの男は前から私のことを色々と嗅ぎ回っていたからナ』
『どうするつもりだ? 優羽が危険に晒されるかも知れないぞ』
『ヨウミレイヤ、優羽を守ってくれないカ?』
『彼女はお前にやったんだ。守りたきゃ自分で守れ』
『しかシ……』
『意地悪ではなく物理的に不可能だと言っている』
『そうカ』
優羽の素性は知らないが、ヨウミレイヤの許にいたことは間違いない。それでも彼女が処女だったのは、彼にはハラルとルラハという美少女姉妹がいたからだろう。
「どうかしたの?」
ベッドに入って激しく互いを求め合い、回数では優羽に負けたものの何とかやり切ったところで、彼女が胸に顎を当てながら上目遣いに聞いてきた。
「今日のクライアントが俺と君のことを探っているらしイ」
「私のことも?」
「女関係ダ」
「まあ! 私以外にも女がいるの!?」
「違う、誤解ダ! 俺には優羽しかいなイ!」
「本当?」
「本当だとモ!」
さすがに誘拐されたり殺されたりということはないだろうが、存在が知られれば脅迫に使われる可能性は十分に考えられる。だが逆に言うと探ってきた者を捕らえることが出来れば、スパイ容疑で軍に突き出すとこちらが脅す側に回ることも可能なのだ。
突き出す先の
自分の知らないところで優羽のことが探られるくらいなら、最初から網を張って主導権を握った方が安全だと彼は考えた。そのために一時的にでも彼女が危険に晒さされるのは本意ではないが、ヨウミレイヤに保護を断られた以上は慎重にならざるを得ない。
「優羽、聞いてほしい」
ジェームズは彼女の肩を掴んでそっと体を離し、真剣な表情で静かに囁いた。
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