第四章 学園と海賊

第一話

「ねえルラハ、これなんかどう?」

「いいですね。こっちも見て下さい」


「あら、レイヤ様が好きそう」

「じゃ、これにしてみます?」

「そうね、そうしましょう」


「俺が好きそうって何だ?」

「レイヤ様、見て下さい。可愛いでしょう?」

「お、おう……」


 ハラルとルラハが俺の傍に寄ってきて、短いスカートをふわりと浮かせながらくるっと回って見せた。


 光学迷彩スーツの衣装は腕を曲げて出来るシワ、腰をひねって出来るよれ、風になびいてはためく動きなどがごく自然に再現される。それでも微妙に下着が見えないのは、倫理制約が付加されているからだ。


 なお、制約は解除も可能だったりする。


「セーラー服という女子学生の制服なんですよ」


 紺色のプリーツスカートに赤いスカーフは最もオーソドックスなタイプらしい。博物館の画像で見た覚えはあるが、実物は確かに可愛いし二人によく似合っている。今夜はこの姿で相手をしてもらおう。


「レイヤ様のえっち!」


「俺が好きそうだって言ってたじゃないか」

「そうですけどぉ」

「楽しみにしておくよ」


「私、水色にしましょうか? ハラルと同じよりも違った方がよくありません?」


 ルラハの襟とスカートが水色に変わる。スカーフはレモンイエローだ。うん、可愛い。


「その姿で外に出るなよ」

「「どうしてですか?」」

「俺以外の男を刺激するなってこと」

「「きゃはっ!」」


 前後から二人に抱きつかれて我慢出来なくなり、真っ昼間からたっぷり楽しんでしまった。もちろんセーラー服とやらを脱がせるなんて野暮はしない。脱いだのは俺だけだ。いや、脱がされたと言う方が正しい。


 光学迷彩スーツは衣類の着脱さえも再現出来る。いざという時に光学迷彩スーツと覚らせない機能だ。


「外に出るなと言われましたが、この世界の学校というのも気になりますね」


 十分に満足してベッドの縁に並んで座ると、ハラルがそんなことを言い出した。


「データとしてなら残ってるだろ?」

「この時代のものは文献だけですし、ここは私たちのいた地球とは違うパラレルワールドですから」


「体験してみたいってか。やめとけ。今さら学園モノに転向したと思われる」

「誰にですか?」

「誰だっていいだろ」


「うーん、短期ならどうです?」

「そんなに学校に行ってみたいのか?」

「「はいっ!!」」


「だけど道場での稽古はどうするんだよ?」

「そこは私とルラハが一週間交代で見ることにします」

「今も常に二人で稽古をつけているわけではありませんので」


 さすがに入学式とその翌日は自主練にして二人共登校するそうだ。


 というわけでたまには二人の要望を叶えてもいいだろうと考え、四月の新学期が始まるところで一学期だけの短期留学生として、新宿区にある私立ゆめ学園に通うことになった。


 ハラルとルラハは十八歳(自称)なので年齢的には三年生が近いが、ドイツからの留学ということで一年生のクラスに入る。もちろん書類やその他の手続きに関してはハラルのハッキングによるものだ。


 ただ、俺も一緒に彼女たちと同い年設定で通うというのは解せん。


「いいではありませんか。高校一年生のうちに苗床候補を見つけるのもアリかと思いますよ」


「苗床って……一学期しか通わないからな」

「分かってます」


 俺が天然温泉スパリゾート日出ひで村の顧問であることは分からないようになっている。夢の葉学園は軍の幹部や大企業、政治家などの子息令嬢が通う超がつく名門私立なので、登下校時の安全性を保つ意味合いから全寮制だ。当然俺たちも寮に入ることになる。


 村と軍には旅行で不在にするとでも伝えておけばいいだろう。保険として猪塚いのづか陸将補にだけは伝えておくことにするか。


 そうして迎えた入学式――


「今年は異例ではありますが、同盟国のドイツより短期留学生をお迎えすることになりました。お三方はすでに十八歳ですが、我が帝国の文化を学びたいとのことで、一年生のクラスに入って頂きます。まずはヨウミレイヤさん、ご挨拶をお願いします」


 校長の祝辞の後、壇上で俺たちが紹介された。夢の葉学園の制服は男子が白の学ラン、女子は白地のスカートの裾に二本の水色のラインが入ったセーラー服である。白くて眩しい。


 ハラル、オーソドックスなセーラー服はどこへいった。まあ、これはこれで可愛いからアリではある。


「私は出身国こそドイツですが、ヨウミ家は皆さんと同じ日本人の家系です。一学期だけの短い期間ですが、仲良くして頂けるとありがたいです」


 講堂に集められた一年生の生徒は約百人。他に在校生約二百人の代表が二年生と三年生を合わせて十人ほどだ。後方に新入生の父兄が並び、教師陣は全て壇上にいる。


 なお、この学園の生徒の多くが将来の大日本帝国陸軍または海軍の士官候補だった。つまり彼らは大企業や政治家などによる、軍への極太のパイプ役を担う予定ということである。


「続きましてハラルさん、ルラハさん、ご挨拶をお願いします」


「ご紹介にあずかりましたハラルと申します」

「ハラルと双子の妹のルラハです。姉共々よろしくお願いします」


「私たちは先にご挨拶致しましたヨウミレイヤ様の従者です。レイヤ様に何かご要望がおありの際には、まず私たちを通して頂きますようお願い致します」


『ハラル?』

『面倒なことは私たちにお任せ下さい』


 聞いてなかったことを言ったハラルに念話を送ると、涼しい顔でそんな返事が返ってきた。


 そんな二人を見た生徒たちばかりか父兄からも溜め息が漏れていた。ハラルとルラハの容姿は年配の校長さえ頬を赤らめるほどだったようだ。


 入学式が終わると三つのクラスに割り振られた新入生は各々の教室に向かった。俺たち三人もそれぞれに分かれるのかと思ったら、ハラルたちは従者ということで同じクラスとなっていた。


 教室での席も俺の右側にハラル、左側にルラハと横並びである。列は最後尾だ。


 ところで夢の葉学園の全校生徒はおよそ三百人で、各学年ともほぼ均等の人数だった。ただし男女比率に関しては男子七に対して女子は三である。生徒の多くが軍の士官候補生であることから妥当な割合と言えるだろう。


 なお、姉妹校に夢の葉学園というのがあり、そちらは女系の皇族も通う生粋のお嬢様学校だそうだ。学園祭や合同合宿など、そこそこの交流があるらしい。


 もっとも俺たちの留学期間中にそれらの予定はない。ないよな、ハラル。


『毎年六月に行われている合同合宿があります』

『あるのかよ』

『えへへ。苗床探しましょう。皇族なんていいと思いませんか?』

『思わねえよ!』


 送った念話に表情を変えることなく、ハラルはこちらに視線を向けさえもしなかった。

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