弟と妹の家を黙々と守っていたら勘違いされている件について

御片深奨

第1話 NTR(?)を目の当たりにした俺の心境を400字以内に書け

 この話は7年前の秋だったか。


 その頃俺は二十歳になったばかりだったが、両親がバラバラに失踪したため大学に通いながらダンジョンに入って採掘やモンスター討伐をして日銭を稼ぎ弟と妹の生活を必死に守っていた。

 まあ、必死にと言っても1日5万円程稼げる割の良いモノだけに月10日潜れば3人家族は余裕で暮らせて貯えまでできる。

 とは言え、毎日講義を受けて家に帰って夕飯を作り、夜からバックパック担いでダンジョンに潜り、魔石や鉱石を採取しながら襲ってくるモンスターを討伐するのはなかなかの重労働だ。

 戦闘にはまったく向かないと言われている【聖者】スキルだが、そもそも聖者とは何かと考えればひじりであり行者、修行者だ。

 功徳を得ることを目的にしているわけではない。それは修行や行いが結果として徳となっただけで根本は修行者。

 なので俺はこの夜間の日銭稼ぎを修行に見立ててみよう。

 なあに巷では千日行なんてあるんだから合間合間でやっている俺は妹が成人になる8年後までに千回入って稼げば万事オッケーだ。

 そんな事を思いながら俺は忙しい生活を続けていた。

 幸いな事に中学の頃からの友人3人も学科は違うが同じ大学に入学し、仲良くしてくれる。

 うちの現状を分かってくれていて時折食事を作ってくれたりもする。

 ちなみに、その三人のうち、二人は女性だ。

 妹がいるので俺としては女友達はありがたい。思春期の女性は色々あるらしいからな。

 で、だ。

 ここまで長い前振りだったが、ここから問題だ。

 講義が休講になって自宅に戻ってきた時、俺の部屋で盛っている友人と周りから俺の彼女と呼ばれていた女性の姿を見た俺の心境を四百字以内にまとめて欲しい。

 そんな事言われても分からないよなぁ。ちょっと前情報を出そう。

 まず、俺と女友達Nは同じ講義だったたのと、友人と周りから俺の彼女と呼ばれていた女友達Oは午後からの講義だったとのことで朝からうちに遊びに来ていた。

 で、俺とNは一緒に大学へ行ったが、友人とOは昼までゲームするといって残った。


 分からない?箇条書きでヒントを出そうか。


1.周りから俺の彼女と呼ばれているこの女友達O。そもそも俺の彼女ではない。

2.現在、キッチンではもう一人の女友達Nが何も知らずに料理を作っている。

3.友人男性は先々月料理をしている女友達Nに婚前交渉をしようとして失敗。関係解消された。

4.友人男性と料理をしている女友達Nは共に所謂いいとこのお坊ちゃん、嬢ちゃんと呼ばれているようなお金持ちの子息子女で女友達Oは普通の家庭だ。

5.そして俺はどちらかというと綺麗好き。

6.天気予報では午前は晴れるが、午後からは曇りのち雨。降水確率午後30%~50%


 さあ、答えは分かったか?

 だいたい当たっていると思うが、正解は───

 俺のベッド、この時間から洗濯とかするの?マジ?外曇りよ?そういった事は二人でホテルなりに行ってくれ。特に友人男性よ。お前の親父さん、女性問題で一度お袋さんにチョッキンされそうになって全力土下座7時間耐久してるの見てただろ。下手するとお前同じ目に遭うぞ?

 あと、うちの弟と妹に変な影響でないようにしてくれよマジで。頼むから。

 が正解だ。

「お二人とも遅いですね…」

 料理を終え、皿に盛り付けまで終わった女友達N、中条静留は少し険しい顔で俺の部屋の方を見る。

「何なんだろうなぁ」

 多分察しているんだろうなぁと思いながら俺は盛り付けられた料理をテーブルにセットしていく。

「少し見てきますね」

「やめておいた方が良いと思うぞ」

 一応、そう言って消極的に止めるが、その十数秒後。

 ガチャッ

 扉は開かれ、怒声が飛んだ。



「信じられないっ!まさか人の家で、人の部屋のベッドで、朝から事に及んで…」

「マジでスマン。色々抑えが効かなくて」

「あは、はははは…」

 ガチギレしながらも料理が勿体ないから食べるように言う静留はなかなかオカンだった。

 本人スタイル抜群な大和撫子美女だが。

「いやお前本当に…した以上は責任取れよ?」

 俺の台詞に友人の肩が跳ねた。

 ああうん。遊びで簡単に女性に手を出したのかぁ…友人に。

「既に連絡済みなので責任取る以外不可ですけどね」

「えっ!?」

 何処にという言葉は要らない。そして友人の顔面が蒼白になる。

 そしてお隣の女友達O、小川真子の顔色も悪くなる。

 泣きそうな目でこっちを見るな。

 俺は今から部屋の換気や最悪室内干ししないといけないんだからマジで時間が無い。

「早く食べてくれ。お前達は午後の講義があるだろうが」

 俺の一言に「えっ?」って女性陣が声を上げる。

 なに?なんなのさ?

「えっと、真子さんは…」

「全体的に勘違いされているが、彼女じゃないぞ?そういった事は一度もしていないし、キスもしていない。付き合い自体三人ともまったく同じだぞ?」

「!?」

 いや真子よ。何故ショックを受ける?事実だろうが。

「セーフ!」

「いや政人。お前アウトだろ」

 もし万が一恋人関係だったら最悪の状態だったんだぞ?

「!?」

「高校の頃俺が三股云々の噂が出て刺されかけた件、お前だろうが」

「っ!?」

 この友人、出会い系アプリで俺の名前を騙って大学生二人とOLを口説き落としていた。

 そして修羅場となって…何故か俺に被害が来た。

 一応俺自身が呼ばれて本人達に会うと「「この人ではありません!」」と疑いは晴れたが、変な噂は暫く残った。

「いい加減その我慢の利かない性格は抑えたらどうだ?」

 ちょっと上から目線になったかも知れないが、俺被害者だからな?

 お盛んだった二人は無言で俯いてしまった。

 うん。静留はやっぱり料理上手だ。

「弟さん、友紀くんには完全に負けていますけどね…」

 俺の呟きを隣で聞き取った静留が苦笑する。

 と、静留のスマホに着信が入った。

 相手は政人の家となっている。

 あー……

「残念ながら二人は午後の講義無理だな」

「恐らく私も無理でしょうね…説明が必要でしょうし」

 静留は深いため息を吐き通話ボタンをタップした。



 一台の車が三人を乗せて発進した。

 まあまあ大事になっているなぁ、と他人事のように思いながら家の中へと戻る。

 俺は午後講義がないから午後空いてしまったなぁ。

 今日を基点日にして千日行、やるかな。

 決めたら即行動。

 軽く干して外気にさらしていた寝具を部屋の中に広げておく。そして入室禁止の貼り紙を扉に貼って鍵を閉める。

 夕飯の準備をして置き手紙と緊急時のお金をいつものように封筒に入れて友紀の勉強机の上に置く。

 そしてバックパックを背負って準備はできた。

 さて、今日はいつもの倍は入れるんだ。これからのダンジョン採掘、討伐行為は修行なんだから無理はしないが多少の限界突破はしてみよう。



 順調に二周目を終え、魔石等を換金する。

 一周平均1万6千円か。いつも通りだな。

「岩崎様」

 買取カウンターの事務員に声を掛けられた。

「何か」

「あ、いえ、かなりのペースでしたのでお体の方は大丈夫でしょうか」

「いつも通りです。問題ありません」

「あ、はい」

 さて、次の階層まで行ってみるか…目指せ三階層一周2時間だな。

 自身に癒しの波動を使いながらダンジョンの中を駆ける。

 一階層はほぼ無視して主戦場となっている二階層へと15分で到達した。

「通常より15分早いか…修行にもなるし効率も良い。よし、次の階層まで走るか」

 軽く息を整え、再度走る。

「───二階層到着より25分。あと5分は縮められそうだな」

 僅かに乱れた息を整えながら周辺を見る。

 階を降りた瞬間からモンスター達が待ち構えていた。

 体長各1m程度。

 姿形から餓鬼2体、小鬼1体か…餓鬼に至ってはそれぞれの手に恐らく人の手足を持っている。

「……」

 まずは冷静になろう。

 大前提として、人は通常手段では妖怪に勝つことはできない。

 ダンジョン内にいるモンスターと呼ばれるモノ達はその大半が獣であり、絶滅した生物の残滓だ。断じて妖怪変化、魔性の類ではない。

 しかし目の前には魔性が三体。

「これも試練か」

 聖光を意識して周辺にではなく自身の手足に凝縮する。

「征くぞ」

 踏み込みと同時に慣性と体内のうねりをそのまま拳へと乗せて棍棒を振り上げていた小鬼へと突き放つ。

 ボンッ、と破裂音がし、小鬼が霧散した。

 そのままの勢いで餓鬼の側面に回り、蹴りを当て、そのまま踏み込んでもう一体の餓鬼に同じ要領で突きを放った。

 ドッ、ボンッ

 蹴りは不発だったが、餓鬼の眉間に当てた突きは致命傷だったようだ。

「フッ!」

 踏みつけている餓鬼の喉を聖光の効力が残っているもう片足で踏み抜いてトドメを刺す。

 魔性のものに対してはやはり破邪の力が重要。しかし通常の聖光ではほぼ無理か…凝縮しても通常法では致命傷を与えられないと言うのは危ういな。

 小鬼が落とした水晶球をバックパックに入れ、戦闘の反省をしながら周辺を確認して他に遺体がないか確認をする。

 少し離れた採掘ポイントに無残な遺体と遺留物。そして瀕死の女性がいた。

「…仕方あるまい。スキルを与えた者よ、眼前にいる痛ましき者に救いの手を」

 スキル:祈りを女性に重ね掛けし、更に癒しの波動を掛ける。

 遺留品を左肩に担ぎ、女性を横抱きにして俺は細心の注意を払いながらダンジョン脱出を急いだ。



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