第5話 大学で何故か方々からヘイトを稼いでいる件

「……」

 警察署から真っ直ぐ大学に来たが、周りの視線が何故か冷たい。

 仲間内で固まっている場合はそんな視線はないが、一人の時はだいたいこんな調子だ。

 全員というわけでは無いし、現在は全体の10%もないが、噂は伝播する。

 かなりロクデモナイ噂が流れているのだろう。

 まあ、高校の頃から身に覚えのない噂が蔓延していたんだ。今更だな。

 講義室に入りテキストとノートを出して予習を始める。

 10分経過しても担当講師は来ない。

 それ以前に受講生が誰も入出していない。

 ───これは、休講か?

 掲示板にはそのような記載は一切なく、連絡は一切なかった。

 息を吐き、荷物をまとめ総務課へと向かう。

「済みませんが、2号棟2-1講義室の講義は本日休講でしょうか」

 受付カウンターに居た事務員に声を掛けるとすぐに端末操作をし、確認してくれた。

「いえ、本日は急遽5号棟3-2講義室へと変更されています」

「…掲示板に記載もなく、連絡も回ってきていませんが…」

 そう言うと事務員は驚いたような顔をした。

「えっ!?…グループに連絡済みとなっていますが…」

「此方を確認ください」

 講義内グループを見せ、確かにないことを確認してもらう。

「…確かに、ないですね…」

「申し訳ありませんが、複数の目で確認して戴いても」

 少し面倒な話ではあるが、念のためと言うことで隣にいた職員にも確認を取って貰う。

「…確かに。私も確認致しました」

「ありがとうございます。いつもの講義室で予習をしていましたが、誰も来ないので休講かと思っていました。急いで向かいます」

 一礼して講義室へと向かった。


「失礼します」

「20分遅刻だ。欠課扱いだから出て行きなさい」

 入室した瞬間に講師が俺にそう言い放った。

 先週30分過ぎて入ってきた受講生には何も言わなかったが…まあ、事前に申し送りしていたんだろう。

「講義室の変更連絡の掲示及び連絡が回っていませんでしたが?自分は通常使用する講義室で10分ほど待機し、総務課で此方の不備は無い旨確認して戴きました」

「…チッ、座れ」

 あからさまな舌打ちをし、授業を再開した。

 ───講義が終わり、不機嫌な顔を隠しもせずに講師は出ていった。

 俺が入っておよそ70分、5回は当てられた。問題を当てるような講義では無いにもかかわらずだ。

 これで欠課扱いされていたら笑えるな。一応メモしておこう。

「結羽人さん!?」

 講義室から出た所に静留が驚いたような顔で駆け寄ってきた。

「えっ?なんでここに?」

「俺にだけ事前連絡無しで講義室を変えられたっぽい」

「…は?」

「声低いし目が少し怖くなっているぞ?」

「あっ、ご免なさい」

 友達が攻撃された時に怒りっぽくなる癖、早く修正した方が良いと思うが…

「変な噂が広がっているみたいだな…」

「まただよ!私の方で何度も訂正したけど聞いてくれないし」

「2割くらいは政人辺りのやらかしが俺に置き換わっているんだろうな…」

 低く見積もって。

「あ、あの二人のことなんだけど」

「昨日の件か?」

「うん。アレのお父様が後日改めてお詫びに伺うと」

「いらん。特に此方に被害は…寝具以外被害は無いからな」

 昨日は結局シーツ含め退かしたまま寝ていたしなぁ…

「で、両人は?」

「アレは暫くは自宅謹慎みたいです。真子さんは…分かりません。彼女は特に問題というわけではありませんから」

「家族にも話してはいないだろうなぁ…まあソレはそれで良いんだが」

「よくありませんっ!」

「落ち着け。周りが見ている」

「…失礼しました。しかし」

「俺は少なくとも弟と妹が大学卒業するまでは面倒を見るつもりだし、あの二人の帰る場所を守る。あと8~9年は色恋は考えたくない」

「…では、その時私がフリーだった場合、結婚を前提とした交際を申し込んでも?」

「家族が許さないだろ?」

「ですからフリーだった場合です!」

「分かった分かった。静留は兎も角、俺は妹が大学を卒業する歳までは結婚含め色恋事はノータッチを貫くよ」

「言質取りましたからね!?録音もしましたからね!?」

「…どうしてそんなに必死なんだ…」

 呆れながらもこんな馬鹿騒ぎが出来ていることにありがたさを感じていた。


 講義が始まる時間となったので館内で立ち話というのも…と言うことで学食へと向かった。

 そこそこ人がいる状態の食堂内で揃ってテーブルに着く。

「あの後はやはりダンジョンですか?」

「ああ、昨日は少し連続して騒ぎがあってな…夜中から警官に絡まれて面倒だった。今朝も警察署に行って話を聞いた後に大学に来た」

「また何があったのですか?」

「重傷者の搬送をしたら俺が襲った扱いされ、鬼と出会したから近くにいた探索者に応援要請をするか逃げるように言ったら相手がそれを無視。結果襲われて逃げ回った挙げ句俺のせいにしてきた。で、殺人未遂容疑で捕まりそうになった」

「……」

 静留の口元が引きつっている。

「言っておくが、不罪証明と行動記録を提出した結果此方に問題が無いことは証明されたからな?」

「…結羽人さん、お祓いに行きません?」

「それくらいでどうにかなるんだったらとっくに幸せになっている」

 互いにため息を吐き、顔を見合わせて苦笑する。

「───ですが、その不幸のおかげで私は助かったのですから、あまり強く言えませんね」

「あー…あの誘拐未遂事件か。刑事課の磯部課長が会う度に言ってくるよ」

「私だけでは無く幼児誘拐を行っていた組織…でしたか」

「ああ。被害者は全員一応無事だったが…静留が攫われたおかげで組織の場所が分かって壊滅できたからなぁ」

「壊滅させた張本人が何を言っているんですか」

「血気盛んだったなぁ…」

 ───いや、本当に無茶すぎたんだよなぁ…全員武器持っていたし。

「数年しか経っていませんよ?高校生でしたし」

「警察から嫌な信頼があったおかげで通報したらすぐに警官隊が駆けつけたのも凄かったな」

「えっ?あれって事前に呼んでいたのでは無かったのですか!?」

「ああ。電話したら「頼むから犯人を殺すなよ!?フリじゃ無いからな!?10分以内に行くから!」って念押しされた」

 電話切った瞬間に全力で扉目掛けて貼山靠ぶちかましたんだよな…

「───扉が吹き飛んでおよそ7分で構成員20名あまりが死屍累々の状態でしたから…」

「平均2撃だったか…人質取られたのと移動に時間が掛かったくらいだしな」

「結羽人さん、毎回思いますが、トンデモナイですね…あと、扉は2枚破壊しましたよね?」

「褒め言葉と思っておくよ」

「お父様も「覚醒前でこれか!?」と頭抱えていました」

「捕まっていても冷静だった君に言われてもなぁ…」

「来ると信じていましたから」

「そう言った信頼にはできる限り答えたいが、現実は非情だからな?」

 本当に、昨日のように助けられなかった人もいるのだから。

 そういえば、搬送した人は助かったのだろうか。まあ、あとは医療班の頑張り次第だから俺の知る所では無いか。

 小さく息を吐き、静留を見る。

「───政人の件、親から何か言われたか?」

「えっ?」

「いや、何となくな…」

「言われました。「言いたくはないが、発情魔に大切な娘を穢される前に切っておいて良かった」と」

 仮にも友人の息子だろうに、そこまで評価が低いのか…

「お父様はアレのことを色々と調べていましたから、調査資料を見た時のあの顔は…凄かったです」

 政人のヤツ、バレたら拙いことまでバレて、親同士で共有されてないか?

「暫く、どころではない気がするんだが?自宅謹慎」

「半年くらいでは無いですか?矯正されれば2~3ヶ月かと」

 静留。それは暫くとは言わないぞ…政人に留年の可能性が出てきたな…合掌。


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