第6話 道を歩いているだけで襲撃を受ける程度の治安

「はい。岩崎です」

『スマン!あの警官を取り逃がしたと連絡があった!もし見つけたら殺さずに取り押さえてくれ!』

「複数人数連れてその警官に襲いかかられている最中なのですが、どうすれば良いんでしょうか」

『今急いで応援を寄越す!頼むから其奴らを殺さないでくれ!二、三本の骨折は構わない!』

「了解」

 ───普通、心配する方逆かと思うんだが…

 ため息交じりにスマートフォンをしまい、取り囲んでいる連中に声を掛ける。

「今、二、三本の骨折は構わないと許可を得た。見たところ、下級から中級探索者と、その道の三下か。金一封くらいは」

 いやぁ、無理だろうな・・・

 と言うよりも此方が巻き込まれているのに何故か此方を捕まえようと動くからなぁ…

「テメェ…」

 三下が今にも襲いかかってきそうな形相で睨んでくる。

 ただ、一つ疑問がある。

 うちの家族に対して絶対に手を出さないし、そんな事あったら落とし前付けるんで勘弁して欲しいって前に妹が巻き込まれた時に言っていたんだが…

「岩崎に近付くなって連合からも言われていると大下の親父さんは言っていたが…まあ、こんな物か」

「…えっ?」

 ほんの十数秒前まで凄んでいた声では無く、少し高めの気が抜けた声がした。

 ただ、三下が何か言う前に犯罪警官が声を張り上げた。

「捕まえてボコれ。昨日結構稼いだみたいだから番号も割らすぞ」

 そう言いながら自身は三下の横までさがる。

 悲しいほど小物感…そして四人が俺の周りを囲んだ。

 一人が俺を背後から抑えこむように掴む。

 うん。正当防衛は成立するよな?流石に。

「急げ、奴らが来る前に連れて行ガッ!?」

 余裕そうなので脱力による拘束外しで逃れてそのまま投げた。

「わざわざ捕まった上で軽く投げただけなんだがなぁ…本当に戦闘職か?まあ、体幹を鍛えて獣の突撃を瞬時に捌けるくらいにならないと中級にいけないぞ?」

「ッ、ぜってぇぶっ殺す!」

 仲間を馬鹿にされたと感じたのか、リーダーっぽい男がナイフを取り出した。

 これで銃刀法違反および脅迫罪適応か。暴行罪はまだだな。

「待てっ!」

 何故か三下が止めようとするが、男は興奮しているのか無視したままナイフを構える。

「武器を、刃物を出した以上は、覚悟は出来ているな?」

 倒れたまま呻いている男以外は巻き込まれるのを恐れてか、少し距離を取っている。

「粋がってんじゃねぇよ外れ職が!」

 ナイフを小刻みに動かし隙あらば急所を狙っている───と言う風だが、ただそれっぽく動かしているだけで返しもぎこちない挙げ句、握りが少し甘い。

「正当防衛は既に成立、あとは過剰防衛にならないよう気を付けながら…」

 手の甲を見せた瞬間に迷わず拳で打ち貫く。

「ひぐっ!?」

 ナイフが他に飛ばないように気を付けながらやっているので問題は無いが…スナップをきかせて甲を打ち貫いたから…折れてるだろうな。

「ぅぐっっ…いでぇぇぇぇっ!」

 叫びながら手を押さえて踞る男が邪魔になり、少し横にずれた。と、

「パワーブロウ!」

 斜め後ろから戦士職ナックル系スキル名を叫びながら突っ込んできた男がいたが、

「…お疲れさん」

「は?あっ!?」

 拳に触れず手首を取って勢いそのままに向きを変えてもう一人の方向へと投げた。

「来んな!おっふ!!」

 巻き込まれた挙げ句スキルが暴発し、二人は動かなくなった。

 ───いや、死んでないよな?うん。死んではいないな。

「…あとは犯罪警官と三下だけだが?」

「んの野郎…」

 犯罪警官が銃を取り出した。

 しかもM360J…警察さん、管理してないのかな?

「ほう、銃を出したか。覚悟できてるんだろうな?」

「大口叩くな!テメェは絶対ぶっ殺す!」

 躊躇いなく引き金を引き俺の胸目掛けて弾丸が発射される。が、銃を構えた時点で薄くを展開していたため、見事に跳弾し、犯罪警官の右太股に被弾した。

 いやぁ、不思議だなぁ…それにしても他の人に当たらなくて良かった良かった。

「…は?、なん、で?痛い、痛い…」

 その場に倒れて足を押さえて呻く男から銃を足で押さえ取り、三下の方を見る。

「で?お前はどうする?」

「あ、え、俺は…」

「何処の組だろうと愚連隊だろうと全員にキッチリ言って聞かせたそうなんだが、此方としては攻撃された以上は報復は必須なんだ。家族に手が伸びる前に族滅する。それがうちの新しい家訓だからな」

 そんな全盛期の鎌倉武士のような家訓は今付けた。

 いややったらアウトなので威嚇だが。

「ひっっ!?」

 腰を抜かしてへたり込んだ三下を見ながらどうしようかと思案していると、

 キィィィィィィィィィッッッ!

 パトカーが数台猛スピードで突っ込んできたと思ったら急ブレーキを掛けて横付けしてきた。

「加害者は無事か!?」

 助手席のドアを蹴破らんばかりの勢いで磯部課長が開けて出てきた。

「いや、第一声がそれってどうなんですか…あと、その犯罪警官、銃撃ってきましたが、どうなっているんです?」

 踏んでいる物をパッと上げてみせる。

「…スマン。これは言い訳のしようも無い此方の落ち度だ」

 もの凄い苦い顔で銃を拾い上げ、犯罪警官をチラリと見て…更に苦い顔をした。

「撃たれたので防御した結果、跳弾で負傷したようですよ」

 言いながら俺は肩の方を指さす。

「…ああ、あとで頼む」

 言いたいことを理解したのか磯部課長は頷いた。

「あと、そこで怯えている三下とっ捕まえて組かグループ割り出してください。話を聞きに行くので」

「ああ、分かった」

 次々と襲撃者達を捕まえてパトカーに詰め込んでいくのをジッと見つめる。

「これで一段落と思いますか?」

「なにか、あるのか?」

「いえ、昨日今日とトラブルが続いているので…何か起きるのでは無いかと」

 俺の台詞に磯部課長は心底嫌そうな顔をした。

「勘弁してくれ…映画の世界でも早々起きないぞ…」

「賞状とかは要りませんが、金一封やチケットの類は期待しておきます」

「逃走犯を捕まえたんだ。期待していてくれ」

 ニヤリと笑う磯部課長に「前回はもらえませんでしたが」と返すと、

「あの時は賞状とセットだったからだ」

 と言われため息を吐いた。


 ───警察署───


「おい、今日の乱闘騒ぎの動画が届いたぞ」

 磯部の台詞に帰ろうとしていた全員がバッと振り向いた。

「プロジェクター持って来ます!」

「スクリーンも!」

 バタバタと慌ただしく機材を取りに向かう部下達を見て毒されているなぁ、と思いつつ、自分も毒されていると気付かされる。

 今回の件では問題のの他に四人の警察関係者が処分を言い渡された。協会の方もすぐに3名ほど厳しい処分が下されるだろうという話だが…

 ダウンロードした動画に何が記録されているのか、それによっては上も、他も、本気で動くだろう。

『あの一人軍隊を本気にさせるなよ?アイツが動くと俺等が崩壊する』

 つい今し方署長室に呼ばれて念押しされた言葉が蘇る。

 違反行為も職業判定による違法判定も無い破戒僧のような聖者。

 昨日から今日に掛けて馬鹿みたいな事に巻き込まれていながらも映像を見る限り無傷。

 ダンジョンの外では一部の場所以外ではその能力は半減する。

 そんな中、銃を弾くような能力とは…ああ、あの光の壁か。

 納得しつつ動画を全画面にし、部下達が機材を持ってくるのを待った。


「いや、いやいやいや…映画の世界だろ!」

「聖者職って実は戦闘職?」

「課長、やはり彼を技術指導員として不定期でも!」

「あの片手投げは合気か?」

 …まあ、既にうちの課は彼をスクリーンやテレビの中の人間扱いか…

 動画を見終わり騒ぐ課の人間に小さくため息を吐いてプロジェクターと接続しているケーブルを抜いた。


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