第4話 警察署に行っただけで警察官からヤベー奴認定受ける不思議

 一度自宅に戻り、軽くシャワーを浴びて自室へと入る。

 バックパックに取り付けていたカメラからマイクロSDカードを取り出してPCのカードスロットに差し込む。

 そして動画をPCにコピーした後にそれをファイル転送サービスにアップロードし、磯部さんへURLとパスワードをメールで送る。

 今日の仕事はこれで終わりかな。千日行初日から濃い内容だった。

 ただ、得る物が多かったのも事実。おかげで結構な額を稼ぐことが出来た。

 このままいけば弟妹二人分の生活費と学費は余裕だ。

 明日の講義は…2限目からか。特に問題がなければいつも通りだ───

 スマートフォンが振動し、先程メールを送った磯部さんからの着信だった。

「はい。岩崎です」

『夜分済まない。跳ばし跳ばし見ているが、初っ端からヤバイモノが映っているんだが!?』

「どれのことでしょう…初っ端…女性救出ですか?」

『ああ。それもあるが、映っている化け物、アレはあんなに簡単に倒せる代物じゃないだろう!?』

「磯部さん。聖者職なら工夫次第で倒せますよ?」

『お前無茶言うな!今解析の連中も顔面蒼白で無理だと叫んでいるぞ?そもそも聖者系は力が落ちるんじゃなかった…いや岩崎だしなぁ…組事務所単騎事件や幼児誘拐組織壊滅事件のボスだもんな…覚醒前から』

「アレは部外協力者という事で終わったと思いますが?」

『部外協力者なら感謝状くらい受け取ってくれ…署長からお小言受けたんだぞ…』

「一市民として助けただけでそこまで仰々しくして欲しくなかっただけです」

 通話先から深いため息が聞こえた。

『まあ兎も角。解析しておくから朝、一度来てくれ。連絡は回しておく』

「わかりました」

 通話を切り、息を吐く。

 毎度の事ながら、面倒だ。

 いつもより早めに帰ってこれたのだ。今はゆっくり眠ろう。

 ベッドに横になると、全身の力を抜いて聖光で全身をスキャンするように内部まで浄める。

 ───やり始めた頃は1時間かかっていたのに、今では5分でできるようになった。やはり修練は大切だな。

 そんな事を思いながら眠りについた。


 ───警察署───


 当直班の二名と仮眠室で眠っていた二名をたたき起こした磯部は届いたメールをすぐに開くとURLから動画を迷わずダウンロードした。

「課長!?規定ではそんなところからのダウンロードは…」

「これは俺用のPCで回線も違う。問題無いんだよ」

 そう言いながら今日の問題事を四人に説明する。

 やらかした警官には心当たりがあり、恐らくソイツだろうと磯部はアタリをつけていた。

「…すぐにとっ捕まえますか?」

「いや、朝になってからでも良いだろう。この映像を見てからでいい」

 そう言いながらダウンロードが終わるのをじっと待つ。

「…長いな」

「そうですね…岩崎さんは今回他にどんなことをやらかしたんですかねぇ…」

「変な期待するんじゃねえよ…怖いだろうが」

 人間びっくり箱やら歩くブラックボックスと関係者間で言われている岩崎がどのような事をしたのか一同はダウンロードが完了したファイルを開き、時間の関係もあり所々飛ばしながらも3倍速で確認していった。

「っと、今…」

 等速に戻し、女性救出シーンの前に一瞬何かと戦うような部分があった所まで早戻しをし、再度その戦闘部分を見る。

「…は?」

「え?ちょ、えええっ!?」

 その映像を見ていた全員が絶句した。

 そこに居たのは小鬼と餓鬼。

 中位探索者でも特殊な武器が無ければ倒すことの出来ないモンスターだ。

「マズいぞこれは…!いや、倒した以上は問題無いんだろうが…」

「課長!?あんなに易々と倒せていることが問題なんですよ!?」

 部下の悲鳴にああ、と我に返る。

 過去、自衛隊が鬼相手にM82対物ライフルを使い、それでも重傷を負わせることが出来ずにGAU-8を引っ張り出したり、84mm無反動砲の対戦車榴弾を使用してようやく一体だけ倒せたというとんでもない記録がある。

 最近では破魔の効果が付与された武器であればそれら中、上級モンスターにダメージを与えられるとわかり確保が喫緊の課題となっていた。

 しかし目の前の映像を見る限り、武器を一切使わずに倒した。

 磯部は迷わず岩崎へと電話をした。


 電話を切り、深い深いため息を再度吐く。

「───一般人だと厳しくても、聖職系なら工夫次第だとか、無理だよなぁ?」

「無理です!アレだけの技能と破魔の技があって出来る代物ですよ!?」

 突っ込みすぎて疲れてきたとぼやきながら再生を行う。

「だよなぁ…一瞬で化け物の間合いに入るなん…は?」

 どう見ても助からないレベルの女性に岩崎が近付き、次の瞬間には欠損部分が薄い光の膜で補強され、女性の呼吸もかなり穏やかなものになった。

「いや、まて。俺は回復スキルとか専門外だg「無理ッス!」…だよなぁ」

 あり得ない光景が続いたまま映像はもの凄いスピードでダンジョンから外へ向かい移動する。

 三倍速だからと言うレベルでは無い。

「…なあ、俺等、岩崎をガチギレさせた時、止められると思うか?」

「岩崎さんが意味も無くキレることは無いと思うので、敵対は…上がやらかした時じゃないですかね」

「軍隊相手にする以上に怖いですよ?少なくとも小鬼と餓鬼二匹、うちの署の装備で勝てませんし」

 全員が沈黙する。

 協会に着いた後の騒ぎを確認する。

「ああ、これは駄目だ。受付が悪い」

「ですね。裁判云々いったとしてもアウトですね」

「………」

「どうした?」

「いえ、この重態の女性、見た記憶があるんですよねぇ…本庁かどこかで」

「は!?」

「見間違いじゃ無いのか?」

「だと良いんですけど…」

「お前に言われたら本気で心配になってきたぞ…」

 再び三倍速にしたり、シークバーを速めてるなどして先を見る。

「もぉやだこの人…小鬼雑魚扱いしてるッスよぉ…」

「落ち着け。俺も常識がバグりそうで泣きたい…横見ろ。二人とも口から何か出ているぞ」

「うわぁ…えっ?ええええっ!?」

「うっそだろ…は?呪物を浄化?あんな簡単に?」

「もう岩崎さんを外部協力員として雇いましょうよ…呪物をあんなに簡単に処理できるならどれだけ保管係が助かるか…」

「落ち着け。予算が無いんだから」

 そんなやりとりをしながらも映像は進んでいく。

 買取所で絡まれた件から暫くして、全員が画面を見て絶句する。

「お、に……?」

「ひっ!?」

「う、わ…」

「連絡しないと!」

「待て、岩崎があんな風に普通に電話できていたんだ。何かあって相手が撤退したかあったんだろう」

 動揺する四名に声は震えているが、冷静な回答をする課長。

 彼等は三倍速を等倍にし、ジッと映像を見る。

 光の壁を使って必死に押しとどめる岩崎と壊そうとする青鬼。

 そして不意に別の探索者の声。

「こいつら…」

 状況が分かっていないのか、岩崎を煽るだけで救援要請をしている様子は無い。

 そして青鬼が興奮しだし、光の壁が消滅した。

 が、

『は?』

 ボトリと、鬼の右手が落ちた。

「いや、は?」

「マジか…あぁー…」

「えっ?武器が消えた!?」

「いやそれより…煽っていた連中は…」

 そのまま二階層へ上がり、逃げ回っている探索者をカメラが捉えた。

「無事か…」

 誰かがホッとしたような声で呟いた。

 まあ、それは警察官として正しい。

 だが気持ちとしては納得できない。

 と、

「おいおいおいおい…こっち来るぞ!?」

「怖ぁぁぁぁっ!」

「おい避けろ!おおおおおおっ!?」

 青鬼がこちらに向かってくる。

 誰もがギリギリで避けるのかと思った次の瞬間、『斬る』と聞こえ、青鬼は縦に真っ二つにされて消えた。

 その瞬間、映像を見ていた五人全員が心から思った。

『何かあって彼に危害を加えなければならないというのであれば辞めよう』と。


「失礼します。私、刑事課の磯部課長と面会を約束している岩崎と申しますが…」

「はいっ!岩崎様ですね!此方へどうぞ!」

 警察署に入り、行き慣れている刑事課に着いた俺は受付に声を掛けた。

 だけなのに…何故こんなにも過剰反応されているのだろうか。

「課長!岩崎様がお見えになりました!」

「…ああ、ありがとう。ちょっとそこに腰掛けてくれ」

「大学の講義があるのでそこまで長居できませんが」

「数分で終わる。…ああ、みんなちゃんと仕事してくれ!」

 磯部さんが声を張り上げると周辺の人達がワタワタと動き出した。

「済まんな…お前さんが鬼を倒す映像を見てみんな実は人造人間じゃ無いのかとまで噂がなぁ…一瞬で広まった」

 苦い顔でそう言ってきたが、まあ、所詮は噂だ。

「それで、問題は無かったですか?」

「ああ。アイツは上に上げて沙汰が下る。あの様子だと後ろ暗いことをもう少しやっていそうだからなぁ…巡回はうちは二人一組なのに一人ってのも怪しい。情報協力感謝する」

 磯部さんはそう言って頭を下げてきた。

「いえいえ。不罪証明に関する法令を警察は破っても大丈夫なのかと思っただけですので」

「それはないと何度でも明言しよう」

「分かりました。それさえ聞ければ十分です」

 俺はそれだけを伝え、席を立った。


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