第3話 足止めをしているのに誰も救援要請をしない場合の的確な回答を答えよ
───どうしたら良いか。どうすべきか。考える。考えろ。
現状はなんとか光壁で動けないようにしているが、恐らくそう長くは保たないだろう。
確実に格上。防御力もこちらの攻撃が一切通じない程度には高いだろう。
狭い場所で戦えば長柄物は使いづらいだろうが、こちらも避ける場所が限られる。
そもそも攻撃が通らない時点で詰んでいる。
それをどう通すか…
光壁がたわんできた。撤退にせよなんにせよ遅滞戦術をしなければならず、現在外部にこの鬼を倒せるクラスの探索者がいなければ大惨事となる。
「居たぞ!」
不意に背後から声がした。
「救援要請をしろ!青鬼が居る!」
背後の人間にそのまま声を上げるが、
「はあ?お前、何様?ただお前がピンチなだけだろ?そんな事より、今の状況だとマズイよなぁ?」
背後の奴が何やらわざとらしい猫なで声を出す。
「妖魔は階層関係ないぞ!?救援要請が出せないのなら逃げろ!」
「何言ってるんだ?モンスターが階層跨げないのは常識だろ?」
ああ、こいつらは分かっていないのか。
「逃げろ!もう保たない!この鬼の特徴は、多人数を真っ先に狙うところだ!」
光壁のたわみが酷くなる。
複数人数の人間が来たので興奮したため、今まで以上の力で暴れ始めたのだ。
既に青鬼は俺ではなく奴等に狙いを定めている。
ギシッ、ギ───
ああ、これはもう駄目だ。
「逃げろ!!」
俺は叫ぶと同時に長柄物が動くであろう方向へ体を移動させ、光壁を薄く斜めに展開した。
「オオオオオオオオッ!!」
大音声と共に鬼が階境界へと突撃し、右手がずれ落ちる。
しかし、鬼は止まらずそのまま二階層へと登ってしまった。
そして聞こえる悲鳴。
何人組かは知らないが、逃げ回っているようなので全滅はしていないだろう。
落ちていた右手と刺股に向けて聖光を使う。
ジュゥ、と何かが焼けるような音がし、右手がグズグズに崩れ落ちる。
───本体から離れた場合は耐性がかなり落ちるのか?そして刺股の色が黒から銀色になっているが…浄化されたのか?
そんな事を思いながら刺股を持ち上げる。
持てはするが、武器としてはとてもじゃないが扱えないだろう。
「むぅ…個人用のボックスがあっても良いだろうに、と言うのはエゴか」
無い物ねだりを緊張をほぐすために言うなんてまだまだ青いな…
苦笑しながら意識を切り替え───ようとしたら刺股が消えた。
「…ほぅ?」
何か取り込めたような感覚がある。
武器は奪った。最悪の状況から最悪一歩前程度には進展した。
「ハンデがありすぎる」
ため息を吐き、青鬼を追うために階層を上がった。
階を上るとそこは運動会でした。
ただし競技は鬼ごっこ一競技のみ。捕まればオシマイ。
「助けて!」
誰かが俺に叫ぶ。
「支援要請出したならもうすぐ来るだろ?そうでなくても階層またげば問題無いと聞いたが?」
俺はそう言いながら対策を考える。
職業上の問題で最も得意だった武器が持てない。
持てないのであれば全身凶器と化せば良いという考えの基色々武術を学び、対策を練った。
ただ、人外の化け物を相手にするには一手足りない。
無手暗殺術であってもあそこまで通常攻撃の通じないあいてではな…
青鬼の右手を見る。
綺麗に切り落とされている。
───昔、弟とゲームしていた時に、無手の暗殺術使うキャラクターが居たなぁ…
まったく場違いにもそんな事が思い出された。
手刀で真空刃を操り敵を倒す。
一団が方向転換し、俺の方へと向かって走ってきた。
光壁を薄く、鋭く、刀のように。
展開は一瞬だけの最大出力。
手刀とその僅か先に───
「斬る」
手刀が光の軌跡を描く。
「ガ…?」
青鬼は何が起きたのか理解できないまま霧散し、かき消えてしまった。
いやできるとは思って集中したが、ここまで出来るのもなぁ…
───救援要請をしても誰もしない場合は囮にして逃げる。もしくは仕方がないので倒す。が正解だな…
「───で?貴様等はどうする?」
息を吐き、ジロリと連中を見る。
「ぅっそだろ…ナイフも剣も何も効かなかったのに、手刀?」
「手ェ光ってたッスよ…」
「アニキ、アイツ絶対人を二、三人殺した事あるって!そんな目ぇしてますもん!」
口々にそう言いながら後ろに下がっていき…逃げ出した。
まあ、だろうな。と。
青鬼が古代のトンボ玉落したな…問題無さそうだ。拾っておこう。
再び三層へと戻って採掘をし、買取所に着いたのは二時間後の事だった。
「殺人未遂容疑?」
買取所を出たところで警官に呼び止められ、突然訳の分からない事を言ってきた。
周囲の探索者は遠巻きにこちらを伺っており、中には動画撮影している者も居る。
しかも不思議な事に呼び止めた制服警察官は一人で、車も何もない。
「ええ。協会より一件、そして先程探索者より一件ありましてね…」
少し軽薄そうな笑みを浮かべた警官が大声でそう言ってくる。
「不思議な事を言いますね」
「と、言いますと?」
「職業聖者が犯罪行為を行った場合、その一切のスキルを封印される事は?」
「ええ。勿論知っていますが」
「悪意を持って他者に攻撃を加えた場合等かなり厳しい条件である事も?」
「ええ、もちろん!」
自信満々に頷く。
協会発行の身分証明書を提示する。
「───確かに、聖者とありますね。ですが」
「聖光」
周辺に淡い光が現れる。
「っ!?」
「これでご理解いただけましたか?それとも、逮捕しますか?ただし、周りを見て分かるかと思いますが…とんでもない事になりますよ?先程、協会職員が迂闊にも救援活動を行わずとも良いと宣言しましたし…同じように聖者・聖女に対して与えられた[不罪証明に関する法令]を警察が破るという宣言と捉えられる可能性もありますが」
「っ、のっ!」
俺の胸ぐらを掴み掛かる。
「刑事課の磯部さんはお元気ですか?」
「…は?」
突然言われたその言葉に制服警官が固まる。
「刑事課の磯部課長は、この事をご存じで?以前似たような問題があった時に、何かあれば必ず俺に回ってくるはずだから…と言っていたのですが」
「………ぇ?」
顔面蒼白の警官にもう一度言う。
「先程お伺いしましたが、念のためもう一度お名前を伺っても?」
「ぅ、うあああああああっっ!」
突然警官が大声を上げると走って逃げて言ってしまった。
「………はぁ」
ため息を吐き、スマートフォンを取り出して電話を掛ける。
僅かな呼び出し音の後、相手が電話に出た。
『何があった!?どこぞの組織の襲撃か!?』
大声で怒鳴るような中年男性の声に俺は苦笑しながら話す。
「磯部さん、岩崎です。夜分遅く済みません…今、制服警官が来て二件の殺人未遂容疑で逮捕すると言われたのですが?」
『っ!?待て待て!そんな話は来てないぞ!?お前に対して何かあれば24時間関係なく連絡が来るはずだ!正当防衛で始末してないよな!?』
始末って…
「不罪証明に関する法令を無視して掴み掛かってきましたが…磯部さんの名前を出すと大声を上げて逃げて言ってしまいましたのでニセ者って線は薄いかなぁと」
そう言うと深い深いため息が聞こえた。
『…お前の事だ。証拠映像はあるだろうな』
「ええ。あとで今日一日分送りますのでよろしくお願いします」
『はぁ……わかった。済まんな…』
「いえ、困った時はお互い様ですから」
『お前、今まで困った事無いだろうが…今回のも確認だろ?』
「助かってますよ。面倒が少なくて」
『お前に本気で動かれたらたまらんわ!今から署に行くから頼んだぞ』
それだけ言われ、通話が切れた。
スマートフォンをしまい、未だにざわめいている探索者に
「今の件に関しては警察が適切に対処するとの事だ」
そう言ったら「おう!」と元気よく返された。
一部変な輩はいるが、ほとんどは実に気の良い労働者達だ。
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