第2話 謂れのない罪を突きつけられた時の回答を答えよ
「お前とうとう人を襲ったのか?」
そんな不謹慎な事を探索者協会の緊急受付で言われた時の回答はどうすれば良いか。
1.ならば金輪際負傷者がいても助けはしない。
2.であれば現在進行形で回復を行っている彼女への医療スキルを全て止めよう。
3.無視をして、自分の荷物以外を全て置いてダンジョンへ戻る。
今現在暴言を浴びせている受付担当者は毎回こちらを小馬鹿にする人間だ。
なのでただの軽口だろうと無視をする。
俺は横のストレッチャーに彼女をそっと寝かせて側にあった荷物を回復班の人に渡す。
「三階層…中層に入ったところで小鬼1餓鬼2体が待ち伏せをしていました。餓鬼は人間と思しき手足を持っていたのと、かなり損壊された装備品があったため彼女以外にも被害者は居たと思われます」
「そうか…協力感謝する」
回復班がそのストレッチャーを移動しようとした時、受付の男がまた声を上げた。
「だからお前が襲ったんじゃないのか?」
「……」
───選択肢三番消えたな。一番か?
「ならば金輪際負傷者がいても助けはしない。助けを求められてもこれは協会からの指示だと宣言するぞ?」
ジロリと受付を睨むが、受付の男はあざ笑うように
「要らねぇな!弱小回復職が中層まで単独で行けるかよ!だから怪しいって言ってるんだ。それにテメェの回復スキルなんざ何の役にもたたないだろうが」
受付担当の罵詈が周辺に響く。
一番、不正解。
「───ならば今すぐ彼女への医療スキルを止めるが、責任は貴様が全て持てよ?」
「待ってくれ!」
医療班の男は慌てて止めるが、
「大丈夫ッスよ。ただのハッタリですって…やってみろよ」
担当は挑発を止めなかった。
「残念だ。スキルを与えた神よ、彼の者に掛けた一部のスキルを解し給え」
途端に、彼女の全身から出血が始まり、ガクガクと痙攣を起こした。
「────え」
受付担当は何が起きたか理解できずに呆然とし、周辺に居た探索者達がザワリとどよめく。
「責任は取れよ?このままだと5分は保たないぞ」
そう言って俺は再びダンジョンへ向かって歩き出した。
「急げ!バイタルの低下が激しい!聖職者を呼んで体力の補充を急げ!赤坂!テメェマジで責任取れるんだよな!この子が死んだら新法でお前殺人罪適応されるんだからな!?ああもう!患者の血液型はABだ!輸血も急げ!」
医療班の男が怒声をあげ、かなりのスピードでストレッチャーを移動させる。
「は、ぁ?…いや、あいつ、新人聖者で、何もできないって、先輩が…」
呆然とする受付担当を見ていた探索者達はひそひそと話し合う。
そして数分もしないうちに情報は拡散され、「ダンジョン内で重傷を負っても医療行為等は行わなくてよい」と協会が指示したのは事実か?という問い合わせによって周辺関係者は暫くの間火消しに躍起となった。
しかし当の本人は
「往路含め地形詳細が分かったからか…6分短縮で三階層か」
何事もなかったかのように三階層で採掘をしていた。
採掘をしながらの修行に適した物は何かをずっと考え続け、モンスターどもを四体倒したところで退魔スキルでもある聖光を圧縮した光球状にして周辺に漂わせれば照明兼攻防手段になると考えて実行してみたが、なかなかうまい具合には行かない。
「聖光の維持に思考が割かれるが、修練をこなせば無意識下で制御できるかも知れないか」
思考をまとめるために呟き、ふと思う。
いや、これはそこまでする必要があるか?と。
少し考える。
───光球や盾状にして漂わせておけば確かに問題無いが、余分なリソースを割かれているのでは無いだろうか。強力な敵ならばその球体を吹き飛ばさないか?
「いっその事、出力を上げ、板…いや、壁状にして並べた方が思考が割かれずに済むか」
光球を破棄し、出力を上げた光壁を背後と左右に展開。
「あとは敵がくるのを待つか」
ただ待っているだけというのも勿体ないので採掘を行う。
「ギィッ!?」
「湧き出たか…壁に両断された形だが…即死には至らないか」
───あちらにも湧いたな…ふむ。光壁を殴ってはいるが割れる様子はないし、ダメージを負っているようだな。
自分を囲っていた光壁の左右を反対側に折りたたむようイメージする。
「「ギャッッッ!」」
断末魔と共に赤い小鬼二体は光壁に挟まれ消滅した。
───攻撃力は無くても潰せばいけるという事か。
「んっ?」
直径三センチ程度の赤黒い水晶球らしき物を落としたようだ。
ただ、先程拾った物とは色が違う。
「ふむ…」
とりあえず拾わずに光壁で潰してみる。
「ィィィィィッッ!」
甲高い悲鳴が聞こえ、赤黒い色から先程拾った水晶球のような色になったので拾ってバックパックに入れた。
───また一杯になった事だし、戻るか。
バックパックを担ぎ直して三階層を後にした。
「換金を頼む」
バックパックを買取カウンターに置くと受付の女性が少し驚いた顔をする。
「はい。承りました…こんなに…三階層ですか?」
「そうだ」
「魔水晶も2つ!?透明度も高い…凄いです!」
「査定を頼む」
「承りました。877番でお待ちください」
チケットを受け取り、待合席に座る。
協会と違い、企業の合同買取所は色々行き届いている。
変に絡む者もいない平和な───「なあ、アンタ」
「………」
声を掛けられた方を見る。
「アンタ、少し前に協会で揉めていたヤツだろ?」
そこにいたのは筋骨隆々の青年だった。
「超凄腕の回復職って聞いたんだが、なあ、一緒にパーティー組まないか?」
「最大効率はどのくらいだ?今まで二階層2往復4時間でおよそ四万稼いでいるが、今日からは三階層で戦闘を始めてこのまま行けば三階層2往復5時間でおよそその倍は稼げるが…一人頭それくらい稼げるのか?」
「ぐっ!?」
青年は顔をしかめて呻く。
何を企んでいるのか分からないが、気を付けておこう。
「877番のお客様~」
早めに査定が終わったのか呼ばれたのでカウンターへと向かう。
「査定結果は鉱石及び魔石が合計34287円で、魔水晶が各33000円。合計100287円となります」
思った以上に儲かった。
「振込で頼む」
「ではこちらにサインを…確かに。こちらが明細書となります」
「確かに受け取った」
「ありがとうございました!」
よし、もう一周して今日は終わろう。
俺は買取所から出てダンジョンへと再度向かい、入ると同時に全力疾走した。
「は!?ちょっ!急げ!」
背後で何名かの慌てた声が聞こえたが、三層までのベストタイム計測のため邪魔な障害物はない方が良い。
歩法を使い音を極力消しながらモンスターの気配をギリギリで回避。そのまま一気に三階層へと止まること無く進んだ。
「…よし。更に縮めることができた」
三層到着と同時に襲いかかってきた餓鬼の顔面に圧縮聖光付与の跳び蹴りをかましてゴール。相手は消滅する。
む?少し小さいが水晶球を落としたな。
───しかしこれは嫌な予感がする…聞いていた情報と乖離が激しい。ただのモンスターが出ずに魔性の類が出る。これは何かの前触れか?
と、先程採掘していた辺りで空間が歪んだ。
「聖光…光壁、出力全開!」
その歪みを囲むように今できる最大出力の光壁を展開した。
瞬間、三層全体に響くほどの音と衝撃がその光壁から発せられた。
───これは、マズイ。
嫌な汗が出る。
その囲われた光壁の中にいたのは青鬼。確か瞋恚、憎しみや怒り、そして悪意を意味する鬼だ。幸いな事に武器が長柄物…刺股なため光壁に挟まれて動かせず怒りにまかせて壁を殴っている。
───このまま数時間耐えていればジリジリとダメージを受けた鬼は何とかできる…なんて楽観的な考えはもたない方が良い。逃げるにしても階層を越えた途端に光壁が消えて武器を手にした鬼は追ってくるだろう。考えろ、今ある全てを挙げて現状打破できる術を…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます