第47話 God's in his heaven. All's right with the world

 現在新宿ダンジョン最深部でひたすら小鬼や餓鬼を吹き飛ばしていた。

「カウントがあればカンストしているか?」

『313ですねー』

 廣瀬氏…カウントしていたのか。

 光壁を展開しているもののこれまでのダンジョン侵攻以上に危険な状態である。

 小鬼や餓鬼だけならまだしも…その奥にいる鬼や妖怪の類…っ!?

 光壁及び障壁追加展開っ!

 ダァァァンッッ

 辺りに大きな音が響き渡る。

 それは小鬼や餓鬼を巻き込みながら光壁にぶち当たった。

「おいおいおいおい…龍よりも衝撃が酷いってなんだ…あぁ、岩鉱か」

 直径数メートルの岩鉱を投げたのは鬼ではなく、一つ目の巨人だった。

 これは、手札を一つ切るか…

「聖光ゥゥゥッ獅咬拳ンッッ!!」

 4度の循環を行いそれを放つ。

 2頭の獅子が跳びだし、光壁内の小鬼や餓鬼達を駆逐し始めた。

「岩鉱は…回収できないか」

 所有権はあの巨人が持っているのだろうな…

 ため息を吐きながら岩鉱の横を回って奥へと向かうと…獅子達が乱戦していた。

 一つ目の巨人の皮膚は獅子達の牙や爪を通さず、巨人は巨人で獅子達を捕まえることが出来ずイライラしているようだった。

 ならば俺のすることは───

『偽式:ホーリーレイン』

 体内の気を術式に流し込み、聖属性の気弾の雨を降らせる…まではいつものパターンだが、ここで術式に一手間加える。

 通常であれば普通の雨粒のような気弾ではあるが、今回はそれを針のように尖らせるのはどうだろうか。

 術式が発動している中、それを書き換える。

『偽式:聖針弾雨せいしんだんう

 術式を書き換えた直後、一つ目の巨人が悲鳴をあげた。

「うわぁ…これは」

 一つ目の巨人の全身にビッシリと針が突き刺さり、更に獅子達がその針を押して傷を広げ、それを突破口にして爪や牙を突き立てていく。

 ───俺はアイテム類の回収でもしておくか…



 散らばっているアイテムを拾っている間に獅子達が一つ目の巨人を倒していた。

 岩鉱も普通に回収できたのでマジックバッグで周辺の物ごと一気に取り込んだ。

 ───少なくとも、この一つ目の巨人は日本の妖怪ではないな…この小鬼、日本以外の小鬼もいるな。

「ここは…少し異常だな」

 殺意が高過ぎる。現状の自衛隊含め公表されている戦力から考えても無理だ。

 そもそもこの先には恐らくあの即死系の妖怪もいるだろう。

 やはり潰せるダンジョンは潰しておかないとマズイとは思うが…それは俺の役目しごとではない。

 例え状況がどうなるとしてもそれぞれが最善どころか次善すら尽くさなかった結果がコレなんだよなぁ…

 せめて生活圏の確保を含め考えなければならないか…いや、いっその事異世界転移や宇宙への脱出も視野に入れるか…

 そんな事を考えながら獅子達の方を向くと…何か咥えていた。

『ちょ!?もうちょっと優しく!優しく甘噛みでお願いしますから!ああああ!振らないでぇ!?』

「…喋る、棍棒?」

 鑑定をしようとして止め、マジックバッグに放り込んで更にマジックバッグをプライベートルームへ放り込む。

『確認しますね~』

『ちょ!?なに!?何ここ!何か人…オーガ!?』

『棍棒なのに喋るなんて…非現実的ですね』

『鬼を目の前にして幽霊が非現実を語るか!愉快すぎるぞ!』

 ───世は全て事も無し

 プライベートルームをそっと閉じる。

 獅子達が「どうしたの?」と俺の側に寄ってくる。

「何でも無い。さて、進むとするか」

 頭を撫でて奥へと歩を進めた。


 最深部の最奥、かなり開けた所に到着する。

 具体的には野球場4つ分位の広さだ。

 そして眼前には即死級の連中のみが10体待ち構えていた。

「いやなんで邪神級の奴が居る?」

「ほう?」

 ソレはニヤリと笑う。

「そこそこやるようだが…神にも匹敵す「ッシ!」があああっ!?」

 俺が放った光壁による横一閃が10体にぶち当たり、4体ほどを斬り裂いた。

「ぐおおおおっ!?貴様何をする!」

「敵と対峙すれば問答無用で殲滅する。当然では?」

「ぐっ…一理ある。しかし貴様、その力はなんだ!」

「一般スキルの応用だ。いくぞ『偽式:聖針弾雨』」

 聖針の雨が降り注ぐ。

 ただし先程とは違い豪雨であり、その落下速度は地を削る程度は力を籠めた。

 おかげで更に2体は倒したようだ。

 これで6体。残りは4体だが…獅子達が2体対峙できるとしてもまだ多いか…

 と、ボーナスタイムはここまでのようだ。

 敵が動き出した。

 一瞬にして俺の眼前まで───来る事はなく2体ほど細切れになり消滅した。

「精神干渉、死の邪眼、呪毒…物理も失敗か。程度も低い代物だけに…がっかりだ」

 残り2体。俺は目の前に立つ邪神級の悪魔と対峙する。

「倒せると思っているのか?」

「恐らく無理だろうな。だが、撤退させる事は出来る」

「何?」

「ひたすら殴り倒せば問題は無い」

「な」

 手の毛細血管が切れるかというレベルで気と聖光を集中させ、その悪魔を殴った。

 しかし相手は吹き飛びもせずニヤリと笑った。

「この程度───」

 放出。

「があああっっ!?」

 ゴバンといい音がし、悪魔が吹き飛んだ。

「思った以上に防御力が無かったか…まあ倒せないようだが」

「そう簡単に倒されてたまるか!…っ!」

 悪魔はヨロヨロと起き上がり俺を睨む。

 確かに、そう簡単に倒せそうにない。

 ならばどうするか。

 気を体内で回しながらも表面に出さず、薄く聖光でコーティングをする。

「舐めるなぁぁぁっ!」

 その悪魔から突風が吹き、周辺の聖光が剥ぎ取られたのが分かる。

「……」

 考えろ。

 聖光と人気のみの現状で限界がある。

 連戦続きで結構ギリギリなんだが…倒す事が出来ない時点で『詰み』だ。

 出すのなら全力で。

 あの時の戦闘を思い出せ。

 出し惜しみをせず剣を取り出す。

「は?おまっ!何故それを持っている!?」

 まあ、倶利迦羅剣なんだが…こいつはダンジョン内では厳しい存在だ。

 理由は簡単。コイツを含め神気は人が使えるようなモノでは無い。

 変換器であり、増幅器でもある。

 変換器というのは大気中の気を神気に変換したりする代物だ。

 要は人気すらも神気に変換できる…が、現状だとかなりキツい。

 人気と神気の変換率が地獄だったりする。

 ダンジョン外であれば大気も併せて変換できるのでかなり楽だ。

 しかしここはダンジョンで、更にはかなり消耗しているんだよなぁ…

 気合いを入れて倶利迦羅剣に力を注ぎ込む。

「いや…何処にそれだけの力がある?」

 悪魔が顔を引きつらせる。

 力を更に注ぎ込む。

 悪魔の顔色が変わる中、限界まで注ぎ込み変換された神気が周辺の空間を歪める。

「っ!」

 一気に距離を詰めてきた悪魔。だが…

 ガァァァンッ

 勢いよく悪魔が光壁にぶち当たった。

 そしてそれに合わせて倶利迦羅剣でサクッと悪魔を刺す。

 斬るのではなく刺す。だ。

「…きさ、ま」

「……」

 悪魔がこちらを睨み付けるが俺は何も言わず剣の力を解放する。

 直後、神気が剣を中心に吹き荒れ、悪魔の体を蹂躙し、声を出す事無く悪魔は消滅した。

「……はぁ、疲れた」

 俺はその場に膝を着く。

 獅子達は既に倒し終わったらしく、一頭はアイテムを集め、一頭は俺の側にやってきた。

「済まんな、少し休ませてくれ」

 獅子の頭を撫でながらそう言い───剣を振るった。

「馬鹿な…」

「常在戦場だ。阿呆」

 死んだと見せかけて異相に隠れ俺が隙を見せる瞬間を狙っていたのであろう悪魔は逆袈裟に斬られた状態で姿を現す。

 獅子が悪魔の腕に牙を突き立て、引き倒す。

 悪魔はどうやらそれに抵抗する力すら無いようだった。

 四方を祓い結界を張り、悪魔の周辺を光壁で囲む。

「は、はははははははははっ!」

 大笑する悪魔に再度剣を突き立てる。

 ただし、うっすらと見えるコアに。

「は───」

 まさかそこまで自身が消耗していると気付かなかったのか突き立てられた悪魔は何が起きたか分かっていない表情のまま今度こそ完全に消滅した。

 獅子達が心配そうに俺の側を守るように身を寄せる。

「大丈夫だ。済まないがアイテムの回収を頼む」

 俺の言葉に獅子達は小さく吠えて回収に走った。

 悪魔が遺した代物は見た事の無い異形の像と鈍色の大杯だった。

 大杯に関してはすぐにプライベートルームへ放り込んだが、異形の像には触れずに鑑定をする。

「……邪神像、か…中は空と。何かに使えるか?」

 とりあえずこの邪神像もプライベートルームへと放り込んだ。


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