第46話 依頼拒否と、呑み仲間(強制)爆誕
京都遠征を終え、東京に戻ってきて1週間あまり。
マイルームで暇を持て余している2名と仕事中毒者にはそれぞれタブレットやノートパソコンを買い与えると…とんでもない事になった。
暇人2名は動画投稿サイトを見て盛り上がり、仕事中毒者は仕分けたアイテムのリストを作成後、カテゴリー分けやダンジョンモンスターや妖怪についてのレポートを作り始めた。
あとは食事を少し多めに作り3人に融通したり外で買ったモノを放り込むなど…完全に3人を養っている状態となっていた。
1人は雇っている状態だが、廣瀬氏は俺に関係しそうな株のチェックやアイテム類の売買価格のチャートまで作り始めている挙げ句、マギトロンや魔水晶片等の変動と数日先の予測までしているんだが…しかも現状100%的中している。怖っ…
ああ、大学のこの放置感が身に染みる。
あまり人に構われることなくコツコツ黙々作業をするのが良いんだよ。
人とのコミュニケーションなんて最低限で頼む。
講義を受けながら予習含め4往復目の講義箇所をノートに書き込む。
書き込むほうが覚えるというが、タブレットに書き込むよりノートに書き込む方が覚えられると思うのは古い人間なのだろうか…
「では、今回の部分のレポートはしっかりと英語で出してもらうぞ」
講師の台詞に生徒が悲鳴をあげる。
「何なら手書きでもいいぞ?ん?」
生徒の悲鳴に講師がニヤニヤと笑みを浮かべる。
ノートを提出物専用ファイルに綴じ、表紙に必要事項を記載する。
講義終了のチャイムが鳴り生徒は講義室を出ていく。
「こちらを」
講師にファイルを提出する。
「ん?なんだ?」
「提出物です」
「は?」
講師は慌ててファイルを開き確認する。
「お前…講義を受けずに書いていたのか?」
「講義内容はこちらに」
別のノートを見せる。
「………」
いや、なぜそんな化け物を見るような目で見る?
調べ物が必要なもの以外課題は終わっている。
さて、とっとと課題を終わらせて夕飯準備をしようか…
「岩崎くーん」
誰かが大声で俺の名を呼ぶ。
振り向くと松本と山瀬がこちらに向かってきた。
「どんな組み合わせだ?」
「えへへ…借金仲間!」
「その言い方はどうかと…」
ドヤ顔で言う松本に山瀬が控えめなツッコミを入れる。
「まあ、それは兎も角。岩崎くんどこ行くの?」
「レポートを仕上げるために図書館だが」
「一緒に行っても良い?」
「構わんが、調べ物か?」
「うん」
「2人揃ってと言うのがな…何かあったのか?」
「あったと言うか、会ったと言うか…」
「うーん…岩崎くんに聞いた方が早いのかなぁ…」
言い淀む2人に俺は首を傾げる。
2人の表情から焦りはないが、手に余る何かと出会したといった感じか。
「悪い妖怪などではなく、神の類か?」
「神様、なのかなぁ…」
「あ、でもそうじゃないかなぁ…頭巾被ったお爺ちゃんで、高下駄履いていたし」
「天狗ではないって言ってたよね」
2人の話を聞いて脳裏に浮かんだ人物がひとり。
「役行者ではないのか?」
「「えっ?」」
誰それといった顔をされた。
そこそこ有名だったと思うんだが…まあ良い。
「役行者は西暦600年代中頃から701年まで活躍したとされる修験道の開祖と言われたり仙人と言われたりする人物だ」
「へー」
「修験道ですか…山伏や天狗ってその修験道ですよね?」
「天狗の源流は中国だが、名称と渡来後の変遷は…そうだな」
実際はもう少しややこしいが…まあ、良いだろう。
「でもそんな昔の人なら生きてないでしょ」
「仙人とか天狗とか人ではないものになって生きているって事じゃないのかなぁ」
そこまで興味の無い松本と学習意欲のある山瀬。
本当に凸凹コンビだな。
「でも、何か違う気がします」
ふむ?
「清らかなる者との繋ぎを頼みたいってだけ言って消えたんですよ」
ああ、これは…
「二人とも、ちょっと時間はあるかな?」
「「えっ?」」
「恐らくそれは神の分霊だ。ただ、清らかなる者というのが分からない…だから繋がれた縁をたぐり寄せてみようと思う」
2人の顔が強張っている。
いや、神的にはへりくだっているんだぞ?
通常であればいかに力を失おうとも位のかなり低い者に頭を下げる事もお願いすることもしない。
そんな存在に分霊を介してでも「頼む」なんて…そこそこ急ぐ案件だ。
「ポンコツ講師の所行くぞ。講堂借りてもらいそこでご降臨願う」
「「ポンコツ…ああ」」
納得してもらったようで何より。
「勿論良いとも!すぐに大講堂を申請するよ!」
講師は軽く請け合って連絡をし、すぐに場所の確保が完了した。
「君は凄いねぇ…神様を呼び寄せたりとか」
「一度呼ぶのに時価百万近い魔水晶使いますけどね」
しかも通常の魔水晶ではなく浄化済みのみだが。
講師含め全員の表情が固まった。
「いや、どんだけ…」
「岩崎君の財力…」
「違う違う。岩崎君自前で取っているから」
「「ぇえ?」」
松本のフォローも意味は無かった。
講堂に入り、準備を始める。
前回のことも踏まえ、二重に結界を張る。
そして聖光で中を疑似聖域化にし、いつもの手順で降臨を促す。
するとゆっくりと言われたとおりの老人…ではないナニカが見えた。
『───うむ。よくぞ手繰り寄せた。事解之男命である』
事解之男命?…いや、違うな。
「名を詐称するとはどういう事だ龍神。詐称は神々の中でも重罪のハズだが?」
『はははは!見事我が偽装を見破った!』
それは呵々大笑する。
『事前に許しを得ておる。お主のような浄眼の者を探しておったのだ。それで依頼なのだが───』
「論外だ。神仙界へ帰れ」
『むうっ!?融通の利かぬヤツよ!』
「こちらが幅を持たせると文句を言い、都合の悪いときだけ融通だ何だという…それに仙の位を越えた程度で神のフリか?」
『!?』
ビクリと体を震わせこちらを睨む老人。
「そもそも神界ではなく神仙界にいるんだ。この世界に姿を現すことが出来るのに態々別に現れた。川を追われそうだから助けろと言いたいだけだろうが」
「「えっ?」」
「龍が川を追われる?」
『貴様、ただでは済まんぞ?無論そこの女子らに印を付けてある』
その台詞に松本達がビクリと体を震わせた。
『それを辿り…』
「黙れ。造化三神の前でも同じようなことが言えるのか?」
『!!?』
老人の顔色が変わる。
「天の理、神の理を介した上で冥府の十王とも交流をしている。この意味が分からないわけでもあるまい?」
『貴様…理外の者か!』
「道理の分からぬ者は対処しても良いとつい先日言われたぞ?」
本当につい最近。具体的には昨日言われた。
新宿のダンジョンに遠征した帰りに神霊…どころか生身の人間のようなナニカに普通に捕まった。
と言うか絡まれた。
第一声が「あっ、帰還者発見!一緒に飲もうか!」だった。
その後3時間ほど話をしながら呑んでいた、
無論俺が奢ったよ。
ただ、名告りはしなかったし俺も聞かない。なので公で会っても初対面だ。
「造化三神の名に於いて道理の分からぬ者は処罰して構わない。大丈夫大丈夫君なら出来る出来る。道理に基づき自説に筋を通しつつも臨機応変に出来るのであれば問題無いから」
「スタンスを変えずとも良いと…そう捉えても?」
「勿論。君の信念は理解しているつもりだ。家族最優先で構わないよ」
そう言って其奴はちょっとお高めな恵比寿ロゴのビールを飲む。
「そこを封じられた場合は例え神でも全力で抗う予定だったが…」
「いや怖いな!?…君のような人間が減っているのは悲しいことだよ」
俺はポテトサラダを注文し、来るまでの間にと酎ハイを飲む。
「…神々もだいぶ衰弱し、耄碌しているようで」
「日本はまだマシな方じゃないかな。他は神々で戦っていた挙げ句共倒れとかね…」
「それは日本も対して変わらないだろうが…済みませんがカレー粉はありますか?」
出されたポテトサラダを二つに別けてカレー粉をお願いすると店員はニヤリと笑い了承した。
「え?なんでカレー粉?…いやそれを言われると痛いね。神と人との分断と進化を天秤に掛けてギリギリ人の進化が勝った結果さ」
店員がカレー粉と福神漬けをそれぞれ小皿に入れて持ってきた。
「パーフェクトだ」
「感謝の極み」
「えっ!?何理解し合ってるのかな!?」
───思い出すのはここまでにしておこう。
『おのれ、おのれぇぇぇっ!』
「神の名を騙り依頼しようとしたり彼女らを人質にタダ働きをさせようとするその性根、果たしてそれは邪龍か、蛟か…」
『貴様ぁぁぁぁっ!』
怒りで変化が解け始めるも結界や光壁に阻まれ身動きが取れない其奴を睨む。
「さて全てを失うか、消滅か、
俺は保管している剣を取り出した。
『っ!!?貴様…っ!?それは人が持って良い物ではないぞ!?それに何故聖者が武器を持てる!?』
「これは武器ではなく仏具だからだが?不動明王倶利迦羅剣…さて、お前は倶哩迦羅龍王より上か?」
八相の構えで其奴を斬る心積もりをする。
『詫びる!騙りも、脅した件も、人質としようとしたことも!』
「思っていないことを言うな。全て見通しているぞ。では、死ぬがよい」
踏み込みと同時に縦に斬り裂く。倶利迦羅剣は結界を切り裂くことなくそれを斬り裂いた。
『なぁ、ぜ…』
「本体にまでダメージが行ったようだな…当たり前だ。この剣の意味を忘れたか?」
龍の形になりかけていた老人の形が崩れ、消滅した。
「───さて」
結界を解除しようとして手を止め、中の聖光を完全に止める。
と、
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!』
「やはり隠れていたか…鬼と同等だな」
言いながら俺は光壁を解除する。
すると全長4~50センチの小さな龍が体を崩しながら俺目掛けて突進してきたが…
ガァァァンッ
俺が光壁の外に設置した障壁にぶち当たった。
『お…お…ぉぉ…』
呻きながらズルズルと落ちていく小龍を無視し結界を完全解除する。
「今後俺達の前に出てきた場合斬り捨てる」
そう言い放つと小龍はフラフラと浮かび上がり、消滅した。
「ええっと?」
「これで問題は無くなった」
「えっと、あれは、良かったのですか?」
「ああ。普通に依頼であれば問題は無かったが、ああなっては駄目だ。ただ、さっき言ったように今ここにいる全員はあれに襲われることはない」
怯える二人にそう声を掛けると漸く安心したような顔をする。
「……とうとうドラゴンキラーになったのか…」
講師の台詞に思わず顔をしかめた。
───何度目のドラゴンキラーなのか分からないが、まあ…うん。
「逃がしたので、ではないですね」
殺してはいないのだから。
そう言いきって祭壇含め全てを収納し、ため息を吐いた。
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