第45話 退治される鬼が悪人とは限らず、唯一とは限らない。


「…これは、流石京都と言うべきか」

 下層からさらに進み、深層域に行くと火前坊かぜんぼう、元興寺の鬼、油坊、頼豪鼠…仏教耐性の高い妖怪達が待ち受けていた。

「これは下手をすると陰陽道にも耐性があるか…」

 まあ、俺には関係ないのだが…

『偽式:ホーリーレイン』

 体内の気を術式に流し込み、聖属性の気弾の雨を降らせる。

 東京でなら色々実験的に出来るが、ここではそうも行かない。そして目の前にいるこの妖怪達はこんな攻撃を受けながらもこちらへ向かってくる。

「十字砲火は如何かな?『偽式:聖剣の咆吼』」

 聖光で剣を作り上げ術式を発動させると、その剣よりホーリーレインのような聖属性の気弾が広範囲で発せられた。

 ただ、殲滅まで1分近く掛かった。

「コストパフォーマンスが悪いな…」

 全員倒し終え、色々落ちている物を拾いながらぼやく。

 かなり後方でこちらを見ている2人に対して告げる形だが。

 おっと、鬼が来た…んっ?

「お前、何者だ?」

 そこにいたのは俺とほぼ同じ大きさの美男子…の鬼だった。

「観光客だ」

 そう即答すると鬼は顔をゆがめ、一瞬で間合いに入ってきた。

 その右手は迷い無く心臓を狙って繰り出されていた。

 通常の防御は不可。

 当然だ。鬼の力なのだから掴まれたり防御しようものならとんでもない事になるだろう。

 まあ、人が反応できない動きであり鬼の剛力であるだけなんだが。

 力の向きを変える…なんて無理なこと出来るわけもなく素直に光壁で三角柱の柱を形成する。

 ザザザザッッ

 人差し指と中指の間が勢いよく光柱の鋭角部に突っ込み、手の甲辺りまで裂けた。

「があああっ!?卑怯者め!」

 右手を押さえて凄い形相で睨み付けてくるが、

「いやお前がいきなり襲いかかってきただろうが」

 俺としては手を縦に切っても良かったんだがな。

「ぐっ!?」

 後ろに飛び退き、右腕を押さえ呻く鬼。

「…まあ、良い。最近の修行の成果を試す機会でもあるか」

 柱を消して体内の気、人気を循環させる。

「人気如きで鬼に勝てると?その思い上がり…叩き潰してくれよう!」

 即座に回復させた右腕を構えて再び踏み込んできた。

 震脚。

「な、っ!?」

 人気を足に廻し、鬼の踏み込んできた足目掛けて放つ。

 ただ、相手の勢いは変わらない。

 そしてこの震脚、俺は人気を震脚で踏み込むように叩きつけたわけだが、踏んではいない。コンマ数秒後実撃、本来の踏み込みをもって震脚は完成する。

 要は気で底上げコーティングされたシークレットブーツみたいなものだ。

 足による疑似二重のナンチャラだ。

 その実足が到達する前に拳が鬼に到達する。

 一撃。

 どこぞのMrなカラテ家が使った一撃必殺の突き。

 ただし対妖怪仕様。

 拳が到達した瞬間、上体の人気を拳一点に集中させる。

 グジャャッ

 肉を打つ音以上に骨を折り砕く音が周りに響く。

 そして鬼の悲鳴がその音をかき消すように響いた。

「ああああああああああああっっっ!?なん、だ…なんだお前は!今の攻撃、あっ、アレはなんだ!?」

「観光客だと言ったはずだぞ?やった攻撃は震脚と仙人覇煌拳、とでも言おうか…本来の技とは力の差があるからな…」

 さて、そう話している間にもコイツは回復させようと必死だ。

 俺は光壁で鬼の周辺を囲う。

「!?」

「逃がしはしない。鬼に横道はないが、逃げはするからな」

「……」

 忌々しげに顔を歪める鬼をジッと見つめる。

「お前に罪科はなくても、その存在に罪がある。心の機微と常識を学ばなかったが故の悲劇だな。酒呑童子」

「お前…俺のことが!」

「その数十人の呪詛と女性らの情念。貴族らの悪行の擦り付け…その姿を成しているようだな」

 酒呑童子は目を見開いてこちらを見る。

「せめてその邪体、聖の名に於いて屠るのが慈悲か」

 人気と聖光を巡らせる。

「!?本当に人か!?」

「人だ」

 体が耐えきれるギリギリまで力を巡らせ、構える。

「死ぬほど痛いぞ。生きたければ耐えろ」

 そう言い残し、酒呑童子目掛け一足飛びで踏み込んだ。

「ガアアアアッ!」

 酒呑童子は吼え、跳びかかろうとするが遅い。

 ドオォォンンッ

 先程の震脚とは比べものにならない踏み込み。

 同時にその箇所から聖光が地を這い空へと駆ける。

 聖光により動きを封じられた酒呑童子はギッと俺を睨むだけだが、俺の動きは止まらない。

 地を踏み反作用が足へと流れ、腰、肩、肘、拳へと流す。

 右手は長槍を突き出すよう捻りながら力を誘導し、気と聖光を伴い酒呑童子の核へ叩き込む。

 粗方の呪詛はその一撃で浄化消滅したものの、こびりついたそれらはそう簡単には剥がせない。が…この攻撃の本質は浸透勁。

「神仙心意、表裏を裁く。お前が真に魔道へ堕ちていなければその外殻のみが破れ、堕ちていれば諸共爆発四散するだろう」

 構えたまま一歩後ろへと下がる。

 酒呑童子は動かない。が、微かに声にならない悲鳴を上げている。

 それはそうだろう。浸透勁と聖光が体内を駆け巡っているのだから。

 体内から聖光で焼かれているようなものであり、皮膚を内側から剥いでいるような物だ。

「ほーらがんばれがんばれ」

「そのっ!馬鹿にするような…言い方ッ!やめてもらえません!?」

 おっ、まだ余裕あるな。ただ、言葉遣いが変わってきたか?

「酒呑童子はあと何体いるんだろうな…公的に1体だが、そう名付けられた鬼はそこそこいるからなぁ」

「雑談…に、応じる…余裕は…」

「ああ、スマン。独り言だ」

「があっ!?」

 気が抜けてダメージが入ったようだ。

「言い忘れてた。もし爆発四散せずに呪縛から解放された後の話だが3つの選択肢がある。

 一つ、鬼人としてこのまま人と接しないよう鬼として暮らす。

 一つ、俺に退治され、大人しく冥府へ行き裁かれる。

 一つ、俺の式神になる。

 この三つだが、はじめのやつは何かあればここから出て山陰辺りにいる犬神を頼れ。

 次のものは鬼としてではなく人として冥府で裁かれる程度だ。

 そして最後は特にメリットは特に無いな。早々飽きないことと旨いモノが食える程度か」

『飽きさせないどころかこの人色々無茶苦茶ですよー』

『この人平然と秦広王や閻魔王と談笑するような人ですよー』

「煩いよお前達」

「は?…っ゛う!?」

 盲腸の人を笑わそうとしているような状態かな?知らんけど。

 待つこと数分、鬼の体にひびが入っていくと、バラバラと崩れ落ちた。

 そしてそこには浄衣を着た美青年が立っていた。

「お前元は寺子だろうが」

『解放されたわけですから良いではありませんか』

 余程鬼の姿と共に寺を連想させるものがいやだったのだろうな。

「で、どうする?」

『無論、最後の式神となるでお頼み申します』

「…そうか。まあ、プライベートルームで先輩方とわちゃわちゃ遊んでいろ」

 俺は酒呑童子と契約を交わし彼をルームに入れた。

 おお…砕けた鬼の体が全て金塊になってる。

 とりあえず全てをマジックバッグで取り、さっき倒した奴等の魔水晶やアイテムもマジックバッグへ。

 時間を見る。

 まだもう少し余裕はあるが…戻るか。

 さて、酒呑童子との戦闘を見て逃げたあの二人には何分で追いつけるかな?


 彼女らを追い越したのは4分後だった。

 二人とも「早く応援を!」など慌てた様子だったので「お先に」と声を掛けて走り去「ちょ!?待って待って!」ぇえー?

 俺は2人に振り返る。

「なんだ?」

「アンタあれを倒したの!?」

「ああ。元より妖怪だから階層関係なく移動出来るから退治した。東京行きの予定時間があるんだ。失礼する」

 そう言い残し再び走り出す。

 後ろで何か言っているが些細なことだ。

 お土産と此奴らの弁当を買わねば…



「此奴ら質より量か…まあ良い」

 大はしゃぎであれこれ食べたい物を言うので片っ端から購入しルームにぶち込む。

 そして家へのお土産を買おうとしていると…

「あのっ!」

「ん?」

 女性から声を掛けられた。

「お久しぶりですっ!」

「ああ、久我瑞穂さん…でしたね」

 火車にひき逃げされた被害者の。

「はいっ!こちらにはあのお仕事でですか?」

 あのお仕事(意味深)…いや仕事………の後始末とも言えるか。うん。

「まあ、そうですね。今回である程度片付きました」

「そうですか…あの!もし宜しければ近くでお茶でも…」

「40分ほど時間はありますので…そうですね」

「駅ビル内に良いお店があります!」

 彼女はそう言って俺の手を取り案内を始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る