第63話 クリスマスプレゼントとして…


 宗教行事であっても祝い事であれば祝う。それが現代日本人だ。

 残念ながらホワイトクリスマスにはならないようだが、街はある程度活気に溢れている。

 まあ、雪害や台風に激弱な都市に住んでいる身としては…何も言うまい。

 例年通りクリスマスを祝いイベントやらセールやら色々行っているようだが、年々僅かではあるが縮小傾向にあるようだ。

 全体的に疲弊していると言ってしまえばそれまでだが、現在食料の供給バランスが崩れつつある。

 去年からその傾向が見られていたが、いよいよ…という段階間際らしい。

 それも先々週起きた複数箇所の大規模土砂崩壊で状況が一気に悪化した。

 静留の所はまだ着手して間もないだけにこの事態には間に合わない。

 そしてすでに野菜や米類の価格が高騰し、品切れも発生している。

「この状態を予測しろというのが無理だろ…」

「予測していた貴方が言う台詞ですか?」

 静留に無茶苦茶呆れられた。

 いや、同時並行で代替案を急がせたのは俺だけど、あれも言ってしまえば応急処置策だぞ?

「…現在そちらの不動産の別部署、農業法人が去年から行っている村づくり計画でしたか?そちらで用意されている畑とや水田で都市一つ分は補えますよね?」

「初年度だが年18トン程度の米収穫量だったな。しかし都市だと全然足りんだろ」

 一人あたりの米消費量が年間55~60キロと計算すると…全然足りない。

 5トンは備蓄米として俺のプライベートルームに放り込んでいるが、精々自分の所のグループ会社と関係各社に気持ち配る程度が限界だ。

「…お米、試験的に二期作して成功したんですよね?野菜も各種植えられていましたし…結羽人さんを生き神様だと農業指導で雇われていたお爺ちゃんお婆ちゃん達が口々に言ってましたよ?」

「実際、うちの関係者の食の確保がメインの事業だからな。福利厚生の側面もあるし、結果その地域の御老人達が少し潤った程度だ」

 行く度に拝むのは勘弁して欲しい。切実に思う。

「それに虫や害獣、天災も一切無いそうですが?」

「静留が言っただろう?村づくり計画と。昔と同じように自然や大地の恵みに感謝し、神々に感謝し豊作を祈念しているんだよ。

 俺は出向いたときに供え物をしてそれを後押ししているだけに過ぎん。天候は…どうなんだろうな?」

 まあ山奥に引き籠もっていた精霊達が供え物欲しさに集まっているし、俺もそれを見越して多めに持っていったり、鎮守社に力を流し込み土地守の精霊を活性化させて守ってもらっているが…うん。

「天候すら自由なんですか…あと田畑がとても素晴らしくなったと」

「田の神がこぞって手助けするからな…報酬は先払いで渡したし」

「………それをできる人間があと4~5人いれば日本の食糧事情は解決ですね」

 ジト目でこちらを見たあと大きなため息を吐く静留。

「それを静留が担うんだよ」

「重すぎますからね!?」

「俺のは表に出せない方法だ。何よりも限定的だし行うとしてあと1ヶ所程度だな」

 来年は20トンいけると言っていたが、余り土地に無理をさせたくない…なんて言ったら爺さん方、手持ちの田畑使うと言いだしたな…まあ、お年寄りが元気になることは良い事だ。

 農業に興味のある生き疲れた3~40代6人で構成された部署だったが…凄いことになっているな。

 まあ、本人達は作物を作るよろこびに目覚めているし、一人は見える人間だったから精霊達とも仲良くやっている。

 完全移住するんだと全員言い切ったからなぁ…まあ、会社的には問題無いから何も言うまい。


 因みにその村の廃校となった小学校とボロボロだった体育館を会社で買取りリフォームし会社の社宅及びコミュニティスペースとしても一部開放している。

 そして体育館を静留の所に渡して野菜工場をやってもらっているから彼女は知っているんだが、まあ…1年で地元の人間と仲良くなれたのは大きい。

 静留頑張れ、目標5ヶ所の工場だぞ?あと3ヶ所は自力で見付けてくれ。


 さて本題。

 家族で過ごす1日計画の他にプレゼントを準備しているわけだが、佑那はアッサリ決まった。

 ダンジョン深層で手に入れた不意打ちを避けるアイテム。


【暗夜の首飾り】レア:古の貴族が高名な術者に依頼し作らせた首飾り。

 一定以上のダメージを天運・知覚・直感の3種の方法で回避する。それでも無理な場合は首飾りが身代わりとなり2度だけダメージを肩代わりする。(2/2)


 ───勿体ないような気がしないでも無いが、まあ構うまい。

 少なくとも知覚と直感が増せば奴のことだ。狙撃くらいは避けるだろう。

 さて問題は友紀だ。

 解呪含め命に関するものはプレゼント云々関係なくタイムリミットギリギリまで探すとして、喜んでくれそうな物を考えなければ…

 ダンジョンに潜り、深層階を彷徨う。

「ひょ、人間だ人間がおるぞ」

 何か嗄れた声がした。

「───なんだサトリか」

「お主、全く驚いておらぬが…成る程、何度も遭っていると」

 山猿のような姿をしたソレは岩陰から姿を現すとこちらへと歩いてきた。

「ああ。俺は今弟のプレゼント調達に忙しい。戦うのなら相手になるが?」

「今はお前さんの弟への愛で胸焼けしておるから要らんよ…しかし反抗期も無くお前さんにべったりで家事を良く熟す弟…嫁の間違いじゃ無いのか?」

 勝手にこちらの思考を読み語りかけてくるソイツに俺は肩をすくめる。

「弟が親戚の子等だったら全力でおとしに掛かる程度には嫁にしたいな」

「……家族という一線と求められているわけではないという自制心で抑えきれているお主が凄いと言うべきなのか…それとも魔性の子過ぎんか?女性であれば傾国の美女になれそうだ」

「そうなる前に止めるさ」

「うわぁ…」

 何故かソイツにどん引きされた。

「ふむぅ…その弟御がお主のことを思っておるのならなんじゃったか…最近はぬいぐるみという物が流行っておるのではないか?お主を模したぬいぐるみを作ってやれば良いではないか」

 ぬいぐるみが流行った時代っていつだ?いや、今も流行っていないわけでは無い…のか?分からん。が、

「………その手があったか」

「なんじゃ本当に気付いておらんかったのか」

 呆れた顔をするソイツに俺は頷き、マジックバッグから酒一升と盃を取り出し其奴に手渡す。

「感謝する日ノ本の天狗殿。これは礼だ」

「何故、俺がサトリでは無いと?」

「サトリは人の思考を読む度に感情を前面に出す。それに最表層の思考しか読めない。天狗殿のように表層部は読めない」

「───参った。始めの時点で既に分かっておられたか!その眼の力なしに見抜くとは天晴れ!久しぶりの酒まで貰っては名が廃る。コイツを持っていけ!」

 そう言って天狗は懐から手錫杖を取り出し、俺に差し出した。

「毒あるモノ、獣や魔を退ける。野外で難に遭わぬようその子に持たせてやれ」

 そう言って酒と手錫杖を交換し、ソイツは意気揚々と帰っていった。


【天狗の手錫杖】レア:天狗の手錫杖。

 所有者を基点に半径5メートル以内の毒性のあるモノ、獣、下級の魔物を弾く効果がある。山で鳴らせば酒と引き替えに天狗が協力する。


 まぁたトンデモナイモノを貰ってしまったよ…

 俺、人よりも人以外からの方が良いモノ貰っている気がするんだが…気のせいか?

 そんな事よりぬいぐるみだ。

 最短2日でできるかだが…ダメ元で聞いてみよう。


 クリスマスイブに荷物が二つ届いた。

 俺をキャラクター化したぬいぐるみと俺の抱き枕。

 後者は要らんだろ…と思ったが、友紀は両方とも凄く嬉しそうに抱きしめていた。

 佑那に首飾りを渡し説明すると最初はどん引きしていたものの、どうやら知覚範囲が広まったようで滅茶苦茶感謝された。

 今回天狗と会って思ったことは、俺は友紀のことになると視野狭窄に陥りやすいということだ。

 今回のことでそれは自覚していた以上だと分かったわけで、友紀の体のことも含めてもう一度見直すことにしよう。


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