第50話 人難の相<女難=女難は人外も対象


 ───俺はこれに対してどう対応すれば良い?

 森と自然の妖精ヴィーラと風の妖精シルフ。

 何故この両名が俺に抱きついているのか…

「そもそもお前等のテリトリーは日本ではないだろう」

「彼女は兎も角、私は風を司る者よ?問題無いわ」

「わっ、たくしだって!木々があれば問題無いですぅ!」

 キャアキャア騒ぐ両名に対し俺はため息を吐く。

「───なんで揃ってダンジョン最下層に封印されていたんだ?」

「えっ?私は名前をくれた人がソレの中に封じて以降何が何だか」

「私は…えっと、騙されて封印されました…」

 両方騙されているじゃないか…

「まあいい。自然のある所で解放するから…暫くは俺のプライベートルームに居ておいてくれ」

「プライベートルーム?」

 首をかしげるシルフに現状を簡単に説明し、スキルやそういった能力のことを伝えると、

「あのぅ…とは別の能力という事ですか?」

「…何?」

 堰き止められている?

「どういう事だ?」

 背後から襲いかかってきた鬼を回転足刀蹴りで吹き飛ば…抹殺しながら問う。

「ぇえええっ!?今オグルを一撃で…」

「で?どういう事なんだ?」

「えっとですね、私は自然の妖精と言うよりも精霊なので不自然な力を感知し、正すのに長けているんです。貴方は力を抑えこまれている、というよりも堰き止められて…」

「解放は可能か?」

「えっ?」

 俺の台詞にキョトンとした顔で首をかしげるヴィーラ。

「解放は、可能か?」

「ええ、可能ですが…今ですか?」

「いや、自宅に戻ってからだな。流石にここで倒れた時の安全が担保できないし、万全の状態で臨みたい」

「何を想定しての万全なの…」

 シルフの台詞は聞かなかったことにする。



 さて、自宅に戻りいつもより眠り、朝食もしっかりと作った。

 あとは友紀達が学校行っている間に何とか出来れば問題無いが───

[兄さん]

 プランを組んでいたら友紀が不安げな顔でやってきた。

「んっ?どうした?」

[えっと、あのね?怖い夢見たの…兄さんが居なくなっちゃう]

「…夢ではどうしていなくなった?」

[分かんない…でも、佑那が僕を兄さんの部屋に絶対に入れてくれなくて、どこかに電話していて…]

 ああ、泣きそうな顔をして…

「爆弾がどうとか、部屋の中に被害がどうとか…」

「落ち着け。夢の事で正夢の可能性があったとしても教えてくれた以上、対策は取れる。分かるな?」

[……うん]

 友紀は小さく頷く。

「今日は夕方まで家に居る。戻って来たら真っ先に部屋を開けて確認してくれ」

[…うん]

「さあ、学校に行っておいで」

[兄さん、行ってきます]

「行ってらっしゃい…佑那。しっかり送ってあげろよ?」

「普通逆ですよね!?…行ってきます!」

 家人2人が登校する。

「……ふむ。採算度外視と、堰き止められたモノを段階的に解除するという方法を採った方が良いか」

 プランニングを大幅修正するか。

「…この人、予知夢の可能性をガン無視してる!?」

「圧倒的自信!?」

「ここは私の最安全策を推しますよ~」

 戦慄しているヴィーラとシルフといつの間にか安全策を献策してくる廣瀬氏。

「…廣瀬氏の安全策とは?」

「体表に上級回復薬を掛け、光壁で包む方法です。更に口にも上級回復薬を含んでおけば頭パーンとなった瞬間に回復できる可能性が高いですし」

 体が耐えきれずに爆発四散する可能性か。

 俺が考えていた最悪の想定の一歩手前のモノだな。

「廣瀬氏。もう一つあるだろ」

「やっぱり分かっちゃいましたかぁ…爆発四散で周辺一帯まで影響を及ぼす可能性ですが、弟様の話を聞いて破棄しました~」

 だろうな。

「上級回復薬はどれだけある?」

「改合わせて5本ですよ」

「……胸から上を1つのブロックにして上級回復薬で浸すか」

「おー…心臓と頭部が無事であれば何とか出来るという強い意志を感じますね」

「最悪の最悪を想定しての遺書も準備完了している。さあ、始めようか」

 俺は部屋に入り、全裸になると体との隙間2㎜ほど空け聖光で包む。

 血液は出ていくだけと設定し、空気は出入り自由と設定する…前に上級回復薬で満たす。

 そして口にも上級回復薬を含む。

「では、ゆっくりと止めているモノを解除します」

 ヴィーラがそう言って…待て。お前俺の下半身をガン見してて制御が疎かになってないか?

 ナニカが俺の中に流れ込んでくる。

 これは、記憶…というよりも外部記憶か。

 しかも、異世界召喚されたときの…っ!?

 ドクンと体の内側から力が湧き上がるのが分かる。が、これはマズイ。

 身の丈に合わない力が一気に入り込んでくる。

 体がひび割れる…!

 回復薬が強制的に癒やしていく。

「結羽人さーん、光壁の設定ですが回復薬を受け入れるに設定されていますかー?」

 廣瀬氏がそう聞いてきたので頷く。

「最悪中級改もドンドンぶち込んでいきますよ」

 イイ笑顔の廣瀬氏。

「ヴィーラさんに渡せばジャカスカ掛けられますから良いですねぇ!」

 うっわイイ笑顔だ。

 現状厄介なのは力を籠めると爆発四散しかねない状態だという事だ。

 気合いは不可。力の循環も不可。

 力の逃がしどころもな───待てよ?

 思い出せ。俺は向こうではどう物を取りだしていた?

 魔力を腰辺りに集中させて拡張していたな…試してみるか。

 力を腰の左側に集中させる。

 ビシッ、パキッ

「っ!」

「左の骨盤辺りが破裂しましたけど!?」

「ッ、回復する、気にするな」

 口に含んでいた上級回復薬を飲み下し、そう言いながらもそのまま集中させる。

 ドンドンそこにまとまっていき、肉体的には何度か破裂しては回復を繰り返す。

 そして中級回復薬を容赦なくぶちまけていく。

「合計億単位突破しました~」

 体感で2~3時間経過した頃、廣瀬氏が嬉しそうにアナウンスしていく。

「…激痛の中そんな楽しそうに言われてもなぁ…」

「そんな激痛の中平然と話をしている貴方の方が怖いんですけど…」

 いや、普通に気を失いそうなほど痛いぞ?

 ───んっ?よし。

「オープン、上級回復薬ハイ・ポーション5本」

 俺の腰辺りに上級回復薬が5本現れる。

「「わわわわっっ!」」

 ヴィーラとシルフが慌ててそれらを回収し、まずは1本開封して俺に振り掛けた。

「えっ!?これさっきの上級回復薬よりも凄いんですけど!?」

「うわぁ…気持ち悪い…」

 どん引きな2人だが…まあ、理屈の違う代物だから仕方ない。

 今使った回復薬は言わば魔力による対象物強制正常化薬だ。

 正常だった頃の状態に無理矢理修復する。

 ダメージ箇所に掛ければその周辺組織や本体が覚えている『正常だった状態』を魔力で創り出して補強するためその部分が生えたように見える。

 この世界の上級回復薬はこれらとはジャンルが違うが…今はどうでも良い。

 力の暴走もこのストレージに流し込むので問題無く圧が下がっている。

「あわわわわ……一気に開いてしまいます!」

「なにっ!?」

 ヴィーラの悲鳴と共に右肩の方から左腰、ストレージのある部分目掛けて全てを砕くような力の激流が流れた。

「~~~~~~!!!!」

 粉砕され、再構成されるという状態が何度も繰り返される。

 激痛に耐えようと力を籠めると先にも言ったように爆発四散だ。

 俺はただひたすらそれを受け入れ、受け流し、意識を保つ。それだけに集中する。

「2本目追加投与します!」

 どれだけ時間が経ったのか…2時間位か?

「中級回復薬も入れるわ!」

 回復しながら、削られていく。

 上級回復薬ハイ・ポーションがあれば失血状態も正常化するため問題は無い、が…限度がある。

 2本目使用から1時間は経ったか…

「3本目使います!」

 もう、そろそろだ。

 溜まりに溜まっていた力が正常化するのは───

「4本目ですっ!」

 強制的に回復させていくが、次でラスト。

 これ以上使うと中毒症状を起こし、魔力暴発を起こす。

「聖魔、癒祈」

 魔力を用いた聖魔法を展開し、俺を回復させる。

「ぅええっ!?」

「出来るなら始めから…」

「今創り出したんだよ…こんな無茶、これっきりにしたいもんだ」

 力の奔流が収束していくのを確認し、起き上がる。

「「…………」」

「人の下半身をジロジロ見ないで欲しいんだが?」

「凄く、おおk「言わないでっ!」」

 ヴィーラとシルフのじゃれ合いを横目に立ち上がる。

「体は、問題なし。プライベートルーム、問題なし。ストレージ……分かってはいたが、あの時の物がそのまま入っているのか」

 少し頭が痛くなったが、今は喜ぶことにしよう。

 時計を見ると午後2時を示していた。

「生還記念だ。風呂入ったあとで特別なお肉で丼物を作ろうか…プライベートルームメンバー分も」

 俺は着替えを手に部屋を出た。


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