第16話 百里を行く者は九十里を半ばとす。
「これが資料だ」
警察署に到着し、何故か専用席まで用意されている刑事課で出された資料を読む。
………こんな事日本でするなよ…
いや、遠因が俺というのはあるが、魔水晶…そうか。価格高騰決定だな…
まあ、それも餓鬼や小鬼を倒せるハンターか聖職者が必要なんだが…近場は今出なくなっているからなぁ。
資料を読み進め、最終的な結論を読む。
「お家騒動どころか創業者一族皆殺し計画…ついでに日本に罪を被せて…って馬鹿にしすぎだろう」
「馬鹿なんだろうが、途中まではうまくいっていたんだからな」
「しかし厄介なのは此方で騒いでも相手本国にはほぼノーダメージという所と、暗殺実行部隊…傭兵ではなく暗殺組織だな」
俺の台詞に磯部課長が「いいや」と首を振る。
「相手側結構な騒ぎになっているぞ?」
「そうなのか?」
「ああ。依頼したとされる対立派閥及び敵対企業なんだがな…それぞれのトップが殺された」
「あちらの警察は?」
「警護に就いていた警官や警備員ごとやられたらしい」
「今日の俺みたいなのは普通に考えられるからな…」
「しかし、そうなるとお前さんの弟たちは大丈夫か?」
「弟の方はほぼ100%問題無い。タイミング良く野良猫が懐いているからな」
「…野良猫……」
「妹は…まあ、修行だろ」
「おい!?」
「歩くアクション映画に襲いかかった所で返り討ちだろ?」
「歩くアクション映画って…自分の妹だろうが…誰が面白いことを言えと」
ふむ…
「一度、中条さんの所に全部持っていくか…」
「何をだ?危険物か?違法なモノか?」
「危険物ではあるが、ダンジョンの拾得物だ」
「…あー…」
磯部課長が微妙な顔をする。
「情けないよなぁ…警官が地域住民を守れないと言うのは」
「そうだな」
「…だよなぁ…しかし、獣にすら単体で勝てない俺等があんなバケモノどもと戦うなんてなぁ」
「いや、獣は単純だから努力して欲しいんだが?彼奴ら、稀にポーション落とすぞ」
「は!?聞いたことないぞ!?」
「だいたい1000体倒せば1体は落とす」
「いやどんだけの確率だよ!そんなに居ないだろ!」
「多分戦い続けないと落ちない可能性がある」
「それは無理レベルだろ…」
「中層部で4時間戦い続ければいけるぞ?特にオオカミは仲間を呼んでくれるから呼んで3時間で800は越えた」
「そりゃもうスタンピードじゃねぇか!」
「彼奴らは境界を越えないし、呼ぶのは1体当たり最大で6体だぞ?椀子蕎麦方式でやればイケルイケル」
「保たねぇよ!体力が!」
「だから弱いんだ。覚悟はあっても修行が足りない」
「その前に死ぬわ!自分がどれだけ規格外か分かれ!」
「いや、俺だけでは無く、中層でそうやって鍛えている連中が居るんだよ。其奴らだいたい100体くらい倒して逃げるが」
「お前、それを見ているのかよ…」
「採掘していると俺の後ろでやり合っているからな。作業中だからって人も獣も気を使ってくれるが」
「お前ぜっっったいに何かやったろ!」
せめて相手側の善性を信じてあげてくれ。
「いやぁ…ごめんごめん。待たせてしまったようだね」
少しテンション高めな静留の親父さんがロビーにやってきた。
「いえ、アポイトメント無しで申し訳ありません」
俺が深々と頭を下げると、親父さんは慌てて俺をあげさせてきた。
「イヤイヤ構わないよ!君から預かっているモノが今うちの会社の中心だからね!」
「その件なんですが」
「何かな?」
「魔水晶の事も合わせてお話が」
「…ここでは拙そうだ。奥で話を聞こうかな?」
親父さんが真剣な表情で周りを見ながらそう言ってきた。
「───済まないね。受付の社員教育が出来ていなくて」
「いえ、俺はただの採掘者ですから、雑な対応の方がありがたいですね」
「…アレを雑程度で片付けるか?」
ああ、見られていたのか。
「何処もあんな感じですよ?買取所も一人以外はあんな感じですし」
「…本気でてこ入れをしないといけない気がしてきたぞぅ!?」
エレベータに乗り込み、親父さんが上の階を押す。
「まあ、今はまったく使っていないので」
「マジか…君の納品次第で粗利が変わるから現在のレートが怖いんだけど…」
ん?
「それはどういうことですか?」
「中層で大量の鉱石やマギトロンを安定供給しているのは君くらいなんだよ」
そんな馬鹿な…
「最近は他にも結構な数の探索者が中層を行き来していますが?」
「採掘中に襲われる確率が高いらしくてね…基本戦闘でほとんどは採掘せずに撤退しているらしいよ」
「……確かに、二、三名グループが来て一人は採掘。残りが護衛というのは何度か見ましたが…」
「そういった探索者がほとんどだよ。一日にバッグ1つ。しかも2~3人で分ける」
俺は一日4〜5往復しているんだが?
「慎重や怠惰では済まないと思うんですが」
「年間200人余り・・・上層でもこれだけの人間が死んでいるんだよ」
「準備もせずに軽い気持ちで入った連中がほとんどでしょう?」
「確かにそうだけどね・・・でも中級乙種探索者でも亡くなっているからね?」
「・・・そのカテゴリーすらないのですが?」
「は?」
「俺の探索資格証明書です」
差し出した探索資格証をみた親父さんの表情が抜け落ちた。
「協会には何度行ったんだい?」
「このまえの緊急搬送以降行っていませんが…以前は何度か緊急搬送していましたので10回以上は」
「都度これを見せていたんだよね?受付に」
「はい」
「…これは、仮資格証。通称白札だよ。普通1ヶ月で買取所からの実績や君の行ったレスキューポイント。そして到達深度によってランクが決まるんだ」
「知っています」
「だったら何故!ランクが上がれば優遇される物も多いんだよ!?」
「受付から「お前はずっとこれだ。変わることはない」と言われましたので。それに優遇に魅力はまったく感じません」
「いやしかしね…うちらが色々協賛している協会だけではなく買取所も駄目となると…」
「こちらで直接買取とか?」
「出来たらありがたいんだが、合同買取所に出資している手前……特殊な物は買い取れるな。うん」
「魔水晶は」
「買い取れるね。鉱石とマギトロン以外は買い取れる」
「では」
エレベーターの扉が開く。
「地下の第2研究室で鑑定しながら買取額を算出しよう。あそこならそこそこ広いからね」
親父さんはそう言って今度は下の階のボタンを押した。
「キターーーーーー!」
「これで検証が進む!」
「分からない事が楽しいなんて滅多にないぞ!」
「俺もうここに住む!」
「残念でした!管理職は何も言われないから残業し放題!」
───何このカオス。
第2研究室でおっさん達が俺の出したアイテムに身悶えしているという嫌な光景だ。
獄卒シリーズを出した瞬間これである。
「これ!これ!買う!買う!」
「落ち着いてください」
「落ち着けないよ!?今まで分解出来なかったから分析のみだったけど、これがあれば分解が出来る!」
「売る為に持って来たのでご自由にどうぞ。価格については後日で構いませんので」
中身を減らすのがメインだから問題は無い。
「で、魔水晶に関しては…」
「ああ、あまり言ってはなんだが…今は絶対に売らないで欲しい」
「何故?」
「うちも開発しているけど、道半ばかなぁ…今までマギトロンの濃縮版としてしか見られていなかったけど、実はそれどころのレベルではない事が分かってね」
「と言うと?」
「これ自体がエネルギー体なんだよ。しかも万能」
そう言いながら研究室の奥から魔水晶を持って来たと思ったらおもむろに近くにあった使っていないパソコンの電源を抜き、その電源プラグを魔水晶に当て、電源を入れた。
「───とまあ、こんな感じで」
普通に立ち上がるパソコン。
「出力自在で供給出来ると」
「しかもこの大きさ、これ一個で一般家庭300世帯一年間まかなえるんだ」
「一メガワットと」
「…うん。そうだね…」
親父さんのしょぼんとした姿に何の需要もないです。
「しかもそれをかなり安い価格で買い取っていたと…」
「まあ、知らなかったからね…他にも使い道があると現在調べているんだよ」
「確かに売らない方が良いですね。一千万円近い価格を投げ売り状態か…」
「因みに市場には買取所だけでも67個だね」
「それ以外で30個以上は売りましたねぇ…ただ、買取所よりは高かったですよ」
「ちょ!?」
「どのみち合同買取所でも安く買い叩かれていただけですよね?」
「そうなんだけどね…」
「その大きさのものであればあと100以上はありますし、それより大きな物も十数個ありますので」
「君一人で国内の電力まかなえそうで怖いんだけど…」
いやそれはない。
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