第8話 平和とは裏に隠されているものを見ていない者の言う与太話である
あの事件から1週間経ち、一応、一応平穏な生活をおくっている。
子供じみた事をしてきていた講師が顔面蒼白で謝罪をしてきたり、磯部課長から「自首してくる奴が途切れないと各署から悲鳴が上がっているんだが、マジで。裏のバランスが崩壊すると関西系が一気に来るからちょっと止めてくれないか!?」
と悲鳴の電話が十数度来たくらいか…その倍の数の組織の上の方々が謝罪に来ていたが…関係各署と連絡をして少し早めに解除した。
此方の命と財産を賭けたにしては…なぁ?
なんて思いながらも普通に今日もダンジョン内で採掘作業を行う。
中層から割と頻繁に小鬼や餓鬼が現れるが、これは本当にどうなんだ?
探索者やハンターと呼ばれる人はこいつらを倒していない?
聖職系や神職系が居ないというわけないんだが…
そんな事を思いながらサクッと両断して採掘を行う。
中層も奥に行けば行くほど良い鉱石などが採掘出来る。ただ、鑑定が出来ないのが残念だ。
鑑定出来ればもっと効率よく…ふむ。
突然だが聖者には聖女にない特殊スキルが2つある。
明らかに男女差別だと思うが、その分リスクの高いスキルなので恐らく意図としては戦闘支援としての聖者と後方支援としての聖女なのだろうと言われている。
特殊スキル
真偽眼:これは対象の真偽を看破するスキルであり、見鬼という姿を隠して悪さをする類の妖魔視認スキルの上位互換のようなものだ。
利点は見えざる者を見ることができ、擬態や偽装している対象を看破する事。
欠点は一度このスキルを起動させると8時間はずっと起動したままで、終わった後のクールタイムは4時間ある。更に起動している間はダンジョン外の方がキツい。
霊や妖怪のなりそこないなどがワラワラと寄ってくるのだ。
聖痕:聖者スキルの聖属性ブーストスキルだが、両手両足の1~4箇所に聖痕が現れ、それによって1.2~2.5倍に聖属性がアップする。
デメリットは2時間回復不能な穴が出来るのと、常時激痛に苦しめられる。
───一度試した時に4箇所にできたままダンジョン外にいた妖魔を殴り倒したのは秘密だ。
あの化け狸、何か叫んでいたが、何だったのか…
あと、誓文は一部の聖者にしか現れない特殊スキルらしい。
詳しくは知らん!
時刻は深夜1時半。
先程とほぼ同じ鉱物個数で合同買取所へ向かう。
「査定を頼む」
俺がそう言ってバックパックを買い取りカウンターに置くと、受付の女性が小さく舌打ちをする。
そして奥へ持って行き、番号カードを渡してくる。
十数分が経ち、番号が呼ばれたので受付に行くとその女性が買取金額を提示してきた。
「66790円ですね」
「…ほぼ同じ鉱物を数時間前に買い取りして貰った際は116000円したが?」
「はぁ?不満なんですかぁ?」
「ああ。おかしいな。今回の取引はなしだ」
「……はぁ、では暫くお待ちください」
そう言って受付の女性は奥へと戻り、バックパックを持ってくる。
そして無造作にドンッとカウンターに置く。
「どうぞ」
「ああ。念のため、確認するのでそちらも立ち会いを頼む」
「はぁ!?」
「受付は確認する義務があるはずだが?」
「……はぁ。では立ち会いさせていただきます」
受付の女性はあからさまなため息を吐いて此方の確認を了承した。
ちなみに此方が持ち込んだ鉱石数は総合計53点。細かい鉱石の名前は分からないが、Aが15点、Bが22点、Cが16点だった。
「…Aが14点、Bが19点、Cが11点、明らかに少ないのですが?」
「はぁ!?」
明らかに足りない事を告げると突然受付嬢が怒り出した。
「言いがかりですか!?」
「いや?採取から此方への納品までを確りカメラで撮影しているし、バックパックに入れる際も確認しながら入れていますが?」
「……チッ」
その受付女性は舌打ちをして再び奥へと行った。
数分後、
「あー…此方で間違いないでしょうかぁー?」
そう言いながら小石レベルの鉱石を此方へと持って来た。
「いや、大きさからしてまったく違うんですが?中層では小粒な鉱石は取れませんので」
「…ハァ」
此方を軽く睨み、持って来た小粒の鉱石を手に三度奥へと戻っていった。
───ようやく正しい物を持ってきたようだ。
目の前で軽く確認をし、分かり難い部分にあるサインを確認した上で買い物袋にそれらを入れてバックパックにしまった。
「…そこまでするか」
受付の女性がボソリと呟いたのを無視して一礼すると買取所を後にした。
~~買取所受付~~
「チッ」
やけにくそ真面目な男の後ろ姿を見送りながら苛立ちを隠さずに何度目かの舌打ちをする。
イケメンでかなり良さそうだけどあんなに細かい人間はパス。
心の中でそう吐き捨てながら奥の鑑定ブースへと入る。
「残念だったね。良い小遣い稼ぎになりそうだったけど」
「本当にな?あんな細かいヤツは駄目だね。将来絶対ハゲるわ」
「でもさ、あの鉱石、マジで買い取りしなくて良かったの?」
「えー?良いんじゃない?採掘者一人くらい離れたところで売上は減らないし、いざとなったら辞めれば良いし」
「あくにーん」
「はははははっ」
大声で話し合う二人。
その斜め後ろにもう一人、夜間鑑定業務をしている男性担当者がそのやりとりを録音し、更にはブース内数カ所には防犯カメラが一部始終を捉えていたことを二人は知らない。
「あーでも、中層が何とかって言ってたなぁ」
「はぁ!?大きいと思ったらアレ中層のやつなの!?」
「なに、どした?」
「それ、ちょっとマズイかも」
「なんでよ」
「中層の探索者、最近襲撃受けて減ったのよ。今ここのダンジョンで中層を普通に探査出来るのって4~5人くらいだって」
「はぁ?…ま、アレが中層探索者とは限らないし。だいじょーぶよ」
「そぉ?」
「じゃ、アタシは受付に戻るわ」
「いってらっしゃーい」
受付担当がブースから出て行き、静寂になる。
「───ねえ」
不意にさっきまで受付担当と話していた女性が男性担当者に声を掛ける。
「何か?」
「今のやりとり、聞いていたよね?」
「はい。あんなこと日常的にしているんですか?」
「まさか。あの子は分からないけどね。私は今回の件もノータッチでしょ?」
「此方としてはただ業務をこなすだけなので知ったことではありません」
「…そ。一つ聞きたいんだけど、あのレベルの鉱石ってやっぱり中層の可能性しか無いの?」
「ないですね。上層ではどうやっても小石程度しか採掘出来ないそうです。そして中層では成人男性の手のひら大。鑑定の手間からすると小石大だと手間が掛かるので安いですが、あの大きさなら全部で10万くらいにはなります」
「へぇ…」
「それとおそらくですが、今のお客さん、アンタッチャブルですよ」
「えっ?…えっ!?」
ガタンと立ち上がる女性を表情一つ変えずに見る。
「どういうこと!?」
「数時間前もほぼ同じ量を持って来ましたが、鉱石に必ず小さなマークを入れているのですり替えしようものならバレます。相場も理解しているようなので下手なこと出来ません。そして更に…」
「更に?」
「彼は警察や自由業の方々から恐れられている中層階自由採掘者です」
数日前から噂になっている鬼ごろしのバケモノの噂が女性の脳裏をよぎった。
曰く、鬼を一撃で殺した。
曰く、警察を顎で使う。
曰く、喧嘩を売った探索者崩れ数人が秒殺された。
曰く、暗殺されても無傷で組織を壊滅させた。
そしてそれはただ一人で、毎夜中層部を何往復もするバケモノ探索者だ───と。
「冗談、よね?」
「自分は今日あの鉱石マークを見るのは3度目です。一往復2時間くらいで回れるのはアンタッチャブルくらいですよ」
女性の顔色が悪くなる。
辺りをキョロキョロと見回し、落ち着かなくなる。
大胆だが何も分かっていない馬鹿な悪党と小心者の小悪党。
しかし、こういった買取の際の中抜きが横行しているから自分のような監査側の人間の休みが取れないのかとため息を吐き、録音データをメールに添付して送信した。
翌朝、買取所は騒然となった。
受付の人間が鉱石を中抜きして懐に入れているという事実が発覚し、合計5名の受付及び事務員が懲戒解雇となった。更には刑事、民事の両方で裁判を起こすと内部通達があった。
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