第9話 ある晴れた昼下がり大学へと続く道…

 鉱石満載のバックパックを担いで少し離れた一企業単体の買取所へと向かう。

 時間帯のせいもあるかも知れないが人気はなく、受付の女性も少し眠そうだ。

「此方でこれらの買取は可能ですか?」

 そう言ってバックパックを置くと、受付女性は少し驚いた表情で此方を見る。

「はい。可能ですが…宜しいのですか?」

「ええ。今夜はこちらで買い取って戴こうかと」

「はっ、はいぃっ!少々お待ちください!」

 バックパックをカートに載せて慌てて奥へと運ぶ受付に苦笑しつつそのまま待つ。

 数分と経たずに空のバックパックを手に受付女性は金額を提示してきた。

「合計で121,900円になりますが、宜しいでしょうか…」

 少し不安そうに聞いてくるが、此方としては相場とほぼ変わらないので問題無いと頷く。

「良かった…あ、では此方の方、現金を…」

「明日でも構いませんので振込で」

「宜しいのですか!?」

「はい。ああ、後一周しますのでまとめてでも構いませんよ?」

「ふぁっ!?」

 驚き固まる受付をそのままに半券にサインをする。

「では、2、3時間後に来ます」

 俺はそう言ってこの買取所を後にした。

 ───この後無茶苦茶採取して、この買取所だけで合計314,200円の収益を得た。



「…眠い」

 午前5時半過ぎ。

 空っぽのバックパックを背負い家路につく。

 採掘中に襲ってきた小鬼達を根絶やしにしたら水晶球を数個でてきたからあんな良い金額にはなったが、毎日5、60万円稼いだら月に・・・いや、もう少しすれば価格が崩れるだろう。

 まぁ、半額になっても1日に20万位に・・・いや、充分すぎるだろ。なぜこんなに高い?

 静留は…今日同じ講義あるな。ちょっと聞いてみよう。

 自宅に戻り、シャワーを浴びた後、朝食を作る。

 そして作り終えたタイミングで弟が部屋から出てきた。

[うにゅ…兄さん?僕が朝ご飯作るよ?]

 少し事情があって声にあまり力を入れきれない弟…弟?に俺は微笑みかける。

「大丈夫だ。もう朝ご飯は作り終えたよ」

[うん。ありがとう…兄さん、いつもありがとう]

 毎日会う度に感謝を伝えてくるこの子。うちの弟可愛すぎないか?見た目少年寄りの少女という…更には高校生なのにそうは見えない。

「どういたしまして。ああ、昨日警察署で騒ぎがあったみたいだけど?」

[う゛っ…迷子だからって警察署に連れて行ったらその子がお礼がしたい。結婚してやるって騒いでて…僕男だって言っても信じてくれなかったよ…]

「あー…もう迷子を拾うな」

[でも、知らない土地で子どもが一人だったら不安でしょうがないよ?]

「…迷子のフリして近付いてきた人を連れ去るヤバイ奴も居るからな?」

[日本に?]

「日本にも。本当に僅かだが、そう言った連れ去りの例もある。スタンガン忍ばせてやられたら流石に無理だろ?」

[うーん…僕戦闘関連どころか運動神経皆無だから…]

「皆無の人間が超接近戦で大の大人をポンポン投げたり地に這わせられないからない?」

[えー?]

 友紀は不思議そうな顔をしながら料理をテーブルへと運ぶ。

「で?その後どうなった?」

[迷子の子?当然のことをしただけなのでお礼は結構ですって言って戻ってきたよ?]

「まあ、そうだよな」

 納得しながら台所を軽く片付ける。

「佑那を起こしてくれ」

[うん。ちょっと行ってくる]

 そう言って友紀は佑那の部屋へと起こしに行った。


 食前の一騒動と食後の一騒動があった後、

 身支度を調え、大学へと向かう。

「結羽人さんっ!」

 車が歩道横で止まり静留が声を掛けてきた。

「ああ、おはよう」

「おはようございます。結羽人さん、車へ」

「何かあったのか?」

「ええ…」

 少し言いにくそうな顔でそう言うとドアが開いた。

 まあ、乗せてもらうか…

「いくつかお話しすることがありますが…まず、組織や愚連隊含め色々な所から狙われていたと聞きましたが、大丈夫ですか?」

「此方に害があったのは1、2回だけだ。後は問題無い」

「そうですか。流石結羽人さんです」

 いや手放しに褒められてもなぁ…

「お話しというのはアノ二人の件含め三点ほどありまして…」

 アノ二人。

 言わずもがなの友人?の二人だ。

 あの日以降見かけてはいない。

 年中発情している奴は親に締め上げられているのは分かるが…

「アレは弟が継ぐことが正式に決定しました。それに伴い、お金を渡して放逐するつもりのようです。勿論アナウンスもするらしいですが…」

「悪手だな」

「はい。しかしそうせざるを得ない状況のようです。ついでに小さな会社を買収してそこに押し込めるようで…」

「過保護だな!?」

「絶縁状を叩きつけたのと、もし遺産等要求するのであれば相応の覚悟をするようにと…」

「…って聞き流していたが弟いたのか!?」

「…似たような事をあちらの父親がしでかしてますから…」

「………あー…」

「母親は数年前に他界し、少し離れた所で英才教育を施していたそうです」

 あ、これ絶対あのお袋さんが政人を早々に見限って育成してるな…

「しかしそうなると、大学は」

「もうしばらく居るのか、流された先の大学へ編入となるのか…どの道終わりでは?」

「そうか。残念だが、自分のまいた種だからな。あとは、ん?」

 車が右折をした時、アノ二人の片割れの姿が見えた。

 しかも歩道に立ってジッと一箇所を見つめている。

「…ちょっと、正気を失っているな」

「はい?」

「今、通り過ぎた所に真子がいた」

「えっ!?」

 何故驚く?

「居たのですか!?家族から捜索願が出されているようですよ!?」

 おっと、これは厄介事の予感がしてきたぞ?

「───服装はあの時のままだったが、髪はボサボサでジッと一点を見ている状態だった」

「宮下」

「はい。直ちに連絡致します」

「しかし…静留が見ていないのは可能性あるが…運転手さん。貴方は見なかったのですか?歩道に立っていた真子を」

「はい。失礼します…いえ、そのような髪が分かるほどボサボサの女性は見ておりません」

「「………」」

 互いに顔を見合わせる。

「これはマズイ」

「ですね…」

「何か、問題ありましたでしょうか」

「宮下さんに問題があるわけではなく、恐らく彼女…何かに取り憑かれている可能性があるのですよ」

「!?」

「まあ、こっちも一応磯部さんに連絡しておくか…」

「あの、刑事課の磯部課長ですよね?」

「ああ。何でも屋扱いされている磯部課長」

「惨い…」

 静留の呟きをそのままに俺はとりあえずの情報提供を行った。


 午前の講義を終え、静留と二人で食事をする。

「しかし…本当に度し難い」

「怒るな怒るな。折角の美貌が台無しだぞ?」

「っ!?…んんっ!先程の女性達のあの様子見ましたか!?急に媚びへつらって」

「まだマシな方だろうな。罪悪感による物なのか、静留のバックにある権力を恐れてなのか、両方か…謝罪もされたしな」

「…そう、ですね。大半が自分は関係ないと無視を決め込むか、そそくさと距離を取っていましたね」

「そういうものだと理解してくれ。人なんてそんなモノだと」

「そうですか…」

「自分の身バレがなければ無実が分かっても変わらず叩き続けるだろうしな」

「最低じゃないですか!」

「だからそれが人間…いや、品性を失った奴等だ。昔からそうだろ?噂話なんて」

「……そう、ですね。そのロクデモナイ噂で人が死んだとしても広めた人達は罪悪感を感じない…」

「ちなみに、気付かなかったと思うが」

 俺の台詞に静留は此方を見る。

「一番酷い時はこの食堂で俺の食事にだけ虫などが入っていた。わざわざ一つ一つに」

 俺の台詞に周辺の喧噪が一瞬止んだ。

「冗談、ですよ…ね?」

「写真もあるぞ?まあ、それを見たらどのタイミングか分かるはずだが…」

 静留の顔色が悪い。

「料理人、医師、理容師、これらは殺そうと思えば瞬時に命を奪える職業だ。特に料理人は一瞬で大量殺人ができる。これがどれだけ恐ろしいことかやった人間はわからないんだろうな」

「あの、因みに、虫って…」

 自分の事でもないのに青ざめた表情の静留に俺は首を横に振る。

「今は見ない方がいい。後で覚悟が決まったらトイレの近くで見せよう」

「そこまでっ!?」

「毒を持っているが、一応食える虫で良かったよ。まあ、食べなかったし、気付かれないように処理したが」

 …いや学食内にいる全員、こっち見んな。

 ───因みに、今ならやられてももっと良い対処法があるので毒を盛られても全く問題ない。

 うむ。人の悪意の一端を知るいい勉強になった件だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る