第14話 脱出と巻き添え。敵対行為には相応の罰を。
暇だ。獣もモンスターも出てこない。まあ、モンスターが出てくる事自体本来は稀だったのだが。
いや本当にどういうことだ?と言いたい。おかげで獅子二頭はフォーメーションを無視して周辺をお散歩しながら警護中。
「…そういえば、二人は何故俺を追いかけて?」
「そうでしたわ。貴方にどうしても確認したいことがあって無理をしてまで追いかけたのです」
「それはまた…」
馬鹿なことを、と続けそうになるのを止める。
横のメイドさんが『私は止めましたが、言うことを聞いてくれませんでした』と目で訴えていた。哀れ。
「で?確認とは?」
俺は彼女に話を促しつつメイドさんに合図をし、彼女に気付かれないように軽くあるものを放る。
それは小型ポーション。ただし少し特殊な代物だ。
絶句するメイドさんに小さく頷いてみせたまま彼女に目を向ける。
「───れたと聞きまして、何とか一命を取り留めたお姉様を助けた探索者が治療をしながら担ぎ込んできたと」
何か似たような事した記憶あるなぁ。
「で、それが俺とどういう関係が?」
「お姉様がその方に会いたがっているのです」
そこら辺の人見繕って会わせろ。
「そこら辺の人見繕って会わせろ」
あ、思考と本音が一致して出た。
「貴方ではないと?」
「知らん。そもそもそういった人助けは少し前まではしていたが、今はほぼしていない。協会から止められたのでな」
「協会が止めた!?」
「弱小回復職の緊急支援は要らないらしい。かなり馬鹿にされて掛けていた回復スキルも致命箇所以外の全てを解除する羽目になった」
「そんな…酷いことを」
メイドさん絶句。
アレ以降協会には行っていないが、連絡も無いことから考えて方針は変わっていないのだろう。
「受付がそう宣言した以上、協会の方針のはずなので此方としては自分から助けるようなことはしていない。意思疎通が不可能な場合のみ応急手当をして理由を説明してそのままだな」
「「………」」
無言になる二人。そのまま会話も無く十数分歩き続ける。と、獅子たちが前方に反応をした。
「ん?誰か来たのか?」
二頭は頷いたあとその姿を光玉に変え、俺の中へと入った。
おい?前回はパッと消えたじゃないか。そんな小技は要らんぞ?
「構え!」
ああ、嫌な予感がする。
俺は手で合図をし、前面に角度を付けた光壁を展開する。
「待て!帰還者三名だ!」
俺はそう言いながらゆっくりとダンジョン入口へと近付く。
しかし、
「撃て!」
出迎えは一斉掃射でのお出迎えだった。
「「ひいっっ!?」」
俺のすぐ後ろで互いにしがみついてへたり込む女性二人に対し俺は光壁を維持に全力を傾けつつ状況を確認する。
「今撃ち込まれた弾丸を全弾発砲者に返すが構わないか!」
大音声を発するが、如何せん銃火器の音が大きすぎて聞こえていないようだ。
「…確認完了。光壁角度修正」
若干閉じて受け流すように展開していた光壁を真っ直ぐの平らに修正する。
瞬間、あちらこちらで悲鳴が上がり、そして銃声が止んだ。
「帰還者三名と声を上げ宣言したにもかかわらず一斉掃射とはどういうことだ!」
大声で問うも誰も答えない。と言うよりも誰も答えられない。死屍累々だ。
ザッと見、死者は出ていないが、時間の問題だろう。
「…ハア」
ため息を吐き、救急車の手配を行う。
周辺全ての救急車が此方に向かうと言われた。
そしてそのまま磯部課長へ連絡をする。
事情を伝えると、すぐにこちらに来るといって通話が切れた。
へたり込んだままの二人に声を掛けて立ち上がらせ、絶対に近付かないように注意する。
「何故ですか!?人命救助は最優先ですよね!?」
「人命救助も何も…見ろ。こいつらははじめから俺等を殺すために待機していたんだ」
そう言ってダンジョンゲート詰め所を顎で指す。
そこには驚いた表情のまま事切れているあの警備員がいた。
「どの勢力が仕掛けたのか以前に、警護だった連中もそこに転がっているぞ」
「「!?」」
はい行かない。
「何故ですかっ!?」
「銃で狙っている奴が居るから」
「えっ!?」
護衛の後ろにまだ動ける男がいて、ソイツがバッチリ此方を狙っている。
「目的は俺ではなく彼女か…」
そう言いながら聖光をレーザーポインターのように照射する。
銃口に。
「撃つと暴発は確実だぞ?」
一応は忠告をするが、直後、引き金を引いた男は案の定銃を暴発させ、周囲を巻き込んだ。
「…まあ、ちょうど良いタイミングで救急車が来たようだな」
救急車のサイレン音が複数台けたたましく鳴り響く。
「…まあ、ヤバイ部分だけでも応急処置をしておくか…『光貴の治癒』」
両手を天に掲げ、スキル名を告げる。
薄い光の雨が降り注ぎ、うめき声が一瞬止んだ。
「何があったのですか!?」
到着した救急隊員が悲鳴を上げる。
「一応応急処置はしましたが、動ける状態までは回復させていませんので搬送よろしくお願いします」
「おい!他の救急車は!」
「4台。あと6~7分かかるそうです!」
「くそっ!間に合うか!?」
「取り込み中悪いが、こいつらの誰かに向こうの警備員が殺されている」
「!?」
救急隊員等が動揺するが、
「とりあえず最重症者からはこぶぞ!」
指示を出していた男性が指揮を執り、トリアージをしていく。
そんな中、恐ろしいスピードでパトカーが突っ込んできた。
「おいおいおいおい!これは何があった!?」
「殺人及び殺人未遂ですよ」
「は!?殺人だ!?」
「ゲート警備員が殺されています。で、俺等が出てきた時に倒れている連中から一斉掃射を受けました」
「……………お前とうとう物理無効になったのか?」
「そんな冗談言っている暇があったら現場検証してください」
「今やっているだろうが。部下が。俺は関係者に確認を取っているんだよ」
「だったら彼女らに聞いてください。俺はいつものようにデータを送りますので」
「こんな状態なのにお前さんはいつも通りだな!?」
「磯部課長も大概ですよ」
俺はそれだけ言ってその場を後にした。
───流石に買取所に行く気にはなれず、家路につく。
日はまたいでいるものの、自分としてはまだ早い時間だ。
「これが、早退か」
そんな阿呆なことを呟きながら近所のスーパーへと向かう。
ここは探索者もよく通うためか24時間営業となっている。
そこで明日…今日のパンとたまご1パック、そしてお酒を購入する。
何となく。そう、何となく安物のウイスキーを買った。
支払を終え、真っ直ぐ家へと帰る。
家について買ったものを片付け、ウイスキーはダイニングテーブルの上に置く。
「…とりあえず、データの提出が先だな」
そう呟き、自室に入り、データの抽出を行う。
数分後、抽出を終えてそのままデータをファイルサーバーに置いて磯部課長宛にメールを送る。
これで一連の件は終了だ。
ため息を吐く。
スマートフォンを持ってダイニングルームへと向かう。
灯りを付けないままショットグラスを2つ取り、ウイスキーをそれぞれに注ぐ。
片方のショットグラスを手に取り、胸元まで掲げる。
「…冥福、もしくは安らかな眠りを」
そう呟いて軽く天へ捧げ、そのまま一気に飲み干した。
何故ああなったのか等は今後警察が明らかにしていくだろう。
俺は出来る事をするだけだ。
もう一杯注ごうとして、ふと向かい側に置いたショットグラスを見る。
グラスの中は空になっていた。
「…もう一杯」
俺は先方のグラスにウイスキーを注ぎ、次に自分のグラスに注いで、再び一気に飲み干す。
そして向かいのグラスを見ると、ほんの僅かに減った程度でそれ以上は減ることが無かった。
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