第25話 内容確認と審判(準備)
探索者協会本部から手紙が来た。
内容は、少し前に起きた勝手な治療停止やそれ以降の治療拒否の件で確認したい事があるから来い。との事だった。
これでも結構オブラートに包んだ方だ。
文面としてはお役所的な感じですらなく、威圧的かつこちらが悪いような書かれ方だったりする。
その手紙を持って中条邸へお邪魔する。
いやぁ、こういったモノを受け取るのは初めてだから、身近な大人に聞くよな?
「これ、どう思いますか?」
「これは…酷いね。午後会社行った時にクレーム入れておくから、写真撮って良い?」
「どうぞ」
中条の親父さんに確認して貰っても結構酷いものらしい。
序でに警察側もこの件には関係しているわけだから確認してみよう。
「……報告書はきちんと上にあげたが…上がもみ消したのか、それとも警察の報告書は無視されているのか、…今からでも遅くない。被害届を出さねぇか?」
磯部課長はかなりご立腹のようだ。
怒りで手紙を握りつぶされたり破られても困るので確保しておく。
「どの件で?」
「カウンターでの件と、それに関連した2件だな」
「後半2件は警察がガッリ関わっているが?」
「上に言うさ。「出す気は無かったらしいが、協会から糾弾まがいの手紙が来たので仕方なく責任の所在を明確にするために提出してきたそうです」とな」
ニヤリと笑う磯部課長は悪役のソレだった。
「ナイス不良警察官」
「うっせ!ここ数日検察とかから俺に直接電話があるんだよ!お前を止めろって!」
「何もしていないが?」
いやしかも何故検察?
「誓文の件やお隣の県警トップ総辞職の件だよ!裁判とかマジで止まっているんだからな!?まあ、俺等は捕まえるまでが仕事だが、送り先が詰まっているから何とかしろって何度も何度も…!」
「ルールを連続で破るヤツが悪い」
「仰るとおり!」
どちらかというとかなり温厚に対処したはずなんだが…通常なら一発で大問題となる所を抑えに抑えた結果なんだが…
まあ、磯部課長もそこは分かっているから本気で言っているわけではないだろう。
「───まあ、これから松谷神父の所へ行く予定ですので、状況を確認します」
「そこで軽減を…と言わないのがお前らしいよ。とりあえずコピーを取っておこう」
「本当にお前さんは何処でも問題を起こすねぇ…今度は何処とやり合っているんだい?暗殺組織とか、国際テロ組織かい?」
教会の談話室で初老…まあ、現代で言う初老の男性からお茶を差し出されながら軽くディスられている。
「相手が突っかかってくるだけですよ。後その両方とも反撃済みです」
「………そうかい。まあ、うん。君だしねぇ…あと、この手紙はいただけないねぇ…まあ、今回は君の巻き込まれ事故が大いに役立ったようだねぇ」
「あまり嬉しい事ではありませんがね」
ため息を吐き、お茶を一口。
うん。茶葉を多く使いすぎだ。
「しかしこの手紙もそうだけど、聖者職の地位向上は難しいね…医療系は結構良い待遇なんだけど」
「力一辺倒な現状では無理でしょうね。ただ、聖者がいなければ妖魔への対応は絶望的になる」
「しかし、倒せはするのだろう?」
そう。倒せはする。
しかしそれはコストパフォーマンス面だけの話ではない。
鬼相手にロケットランチャー打ってもあまり効かないが、波状攻撃で撃破はできる。
しかし正直それをやって確実に魔水晶が手に入るわけでもないし、弾薬には限りがある。前のような鬼の群がでた場合は…ダンジョン内部にミサイルをぶち込まなければならないだろう。
…根絶やしに出来るかは未知数だが。
「数体は、ですが。それに弾薬には限りがあります。あちらこちらで核を使われる世の中…如何ですか?」
「人類は滅びるだろうね」
核を使えば倒せるかも知れないが、大妖と呼ばれる妖怪は下手をすると痛手程度で死なないかも知れない。
しかし人類は核ミサイルを撃ち込んだ場所へすぐに突撃する事は出来ず、結局は相手に回復の時間を与えてしまうわけで…結局は自分の首を絞めただけとなる。
合衆国側のでダンジョン侵攻を受けた際のミサイルを撃ち込んだ件を、宮内庁ダンジョン崩壊事件を忘れたわけでもないだろう。
ただ、
「危機感が足りなすぎる。そして聖者職含め特殊職は10年、いや7~8年以内に次のステージまで行かなければ恐らくはこの世界は終わるでしょう」
「世界終焉とは、大きく出たね」
この神父でさえこの状況だ。
何とか抑え込めているのかと疑いつつも信じたいが為にそれ以上踏み出さない。
「事実です。2回。この数字が何か分かりますか?」
「む?大事に巻き込まれた数字かな?」
「この数ヶ月内でダンジョン侵攻に遭った数です」
「…は?」
数ヶ月どころではないが、まあ、誤差だ。
愕然とする神父を前に言葉を続ける。
「協会本部側にあるダンジョンと、隣の県にある小鬼ダンジョンです。小鬼のダンジョンは完全駆除済みですが」
「冗談、ではないようだね」
神父の表情が変わる。
「いつも通り映像もありますが?あと、小鬼ダンジョンに関しては中務省も把握済みです」
「…提出をお願いするよ。私も動ける範囲で動く…聖者職の育成か…難しいな…」
「よろしくお願いします」
「はぁ…お前さんに関わっていると、老いを感じる余裕がないのだが…」
「なんちゃって神父なんてしているからでは?」
「きちんと神父していますからね!?」
言葉が乱れているのに?
「きちんとした神父はフィクサーのような事をするのですか?」
「ぐっ…」
惚ける事も否定する事も出来ず唸る神父。
「ああ、それと」
コトン
テーブルの上に小瓶を置く
「!?これは!」
欠損回復とまではいかないが、中級回復薬なのでかなりの回復が見込める代物だ。
「息子さんへのお土産です。ダンジョン侵攻で結構収穫出来たのでお裾分けということで」
正確には神父の孫へのプレゼントだ。
お孫さんはとある事故で両足が潰されてしまったのだ。
切断ではなく治療を───との所でトラブルが起きた。
半端な治療をされてしまい、歪な状態で治療は強制中断。
現在回復薬を捜していると耳にしたのだ。
「いやしかしこれは…」
「30本以上ありますので1本程度問題ありませんよ」
「さんっ!?」
回復薬の話はこれまでと言うことで話の方向を変えよう。
「電車で行けて日帰り可能なダンジョンを捜しているので、もし面白そうな所があればご一報願います」
「……日帰りという所は譲れない所かな?」
「いえ、19時辺りの電車で現地着の深夜探索でも問題ありません」
「………お前さんは本当に何を目指しているんだ…」
呆れたように呟く神父。
これで話は終わったと席を立とうと腰を浮かし、磯部課長の件を思い出した。
「ああ、そう言えば磯部課長から「勘弁してくれ」と泣きつかれました」
「ははは…私にも各方面から来ているが、今週いっぱいは困らせてやりましょう」
ニヤリと笑う神父に「いや神父の言う事じゃないだろ」と思う。
「大人げないな60代」
「うっさいわ!お前さんが問題事を次々と持ってくるんでどれだけ苦労していると思っている!?」
「しかしそれに見合うだけの利益もあるでしょう?…政敵への弱みなど」
「───汚い部分を知りながらもソレを叩き潰して進む。私らにはお前さんみたいな真似はできんよ」
「そんな恐ろしい事、俺にも出来ませんよ」
「毎度やっているだろうが!」
「周りの手助けがあってこそですよ」
今度こそ要件は終わったので席を立つ。
「息子さんによろしくお伝えください」
「…ああ。済まない」
「では」
教会を後にする。
余命宣告をされているとは思えない元気な松谷神父に俺は少し安堵した。
あの様子ならお孫さんが完治するまでは生きながらえそうだ。
亡き息子さんも安心してくれるだろう。
───さて、今日は夕飯に間に合わせて…隣県のダンジョンに行くか。
俺は意識を切り替え、この近くにあるダンジョンへと向かう事にした。
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