第24話 弟とデート(なお周りは・・・)

[兄さん、お願いしたい事があるんだけど…良い?]

「了承(1秒)」

 やだなぁ大事な大事な弟のお願いだぞ?聞かないという選択肢は存在しないだろ。

 それがたとえ世界を敵に回してほしいと言われてもやり遂げる。

[兄さん。なんで覚悟完了した顔しているのかなぁ?]

「ああ、友紀の頼みであれば世界を敵に回してもやってのけると誓いをだな」

[それはしなくて良いからね!?]

「で?お願いとはなんだ?」

[えっとね?一緒に、お買い物行ってほしいなぁって…]

「もちろん喜んでお供させてもらうよ」

[やった!お一人様1点限りのものも買える!]

 ───うちの弟、主夫し過ぎてない?あと、可愛過ぎない?辛いんだが?


 商店街を二人で歩く。

 土曜日の昼過ぎということもあり、そこそこ人通りがある。

 そして隣を歩く弟はニッコニコだ。可愛い。

[兄さんとこうして歩くの久しぶりだなぁ]

「そうか?」

[うんっ!だって買い物も兄さんが買ったり僕が買ったりってバラバラでしょ?]

「まあ、そうだなぁ」

 …13、14、

[でも兄さん、無理してない?]

「無理?いいや?」

 …16、17、

[まあ、兄さん体力お化けなのは知ってるけど、無茶したらダメだよ?]

「無茶はしないさ。無理をせざるを得ない場面で力を出しきれなくなるからな」

 …21、22、23、

[そういう意味で言ったんじゃないけどなぁ…]

「ふむ?」

[兄さんがいなくなったら、僕生きていけないよ?]

「「「ぐはっ!?」」」

 近くにいた人含め全員が胸を押さえてうずくまる。

 女性は鼻を押さえ、男性は胸を押さえて「てぇてぇ…過剰摂取は…」と呟いている。

 24、25。

「…友紀?そういう台詞はそんな拗ねたように言わないで欲しい」

[?]

 あ、分かってない顔している…

「解釈違いによっては俺が死んだら友紀も死ぬみたいに聞こえるだろ?」

[うん。多分僕と佑那だけだと変な大人に騙されてとんでもないことになっちゃわないかな…]

「いや、それは絶対にない」

 近隣の人やお前の信者が全力でお前を崇める組織を作るぞ?

 静留の家が友紀を専属コックとして雇う…と言いながら俺の代わりに結婚させるだろうし、佑那はなんだかんだ死なないから気がつくとひと財産築いていそうだ。

「それに、何かあったときは財産用通帳に2人が数年以上は生活できるくらい入っているから」

[………]

 あ、泣きそうな顔してる。

「どうした?」

[兄さんが無茶して死んだらやだよ?]

「………そこは、絶対にないとは、言い切れないな」

 断言した時点で嘘になってしまう。

[…うん。ごめんね?無理言い過ぎちゃった]

「…ただ約束しよう。俺は出来うる限りの力を尽くして友紀の元に帰ってくるよ」

[……うんっ!]

 ───その涙ぐんだ笑顔は、正直反則だと思うぞ?周辺全員被弾してうずくまっているの、気付いて?




「ユーキ!」

[アレ?リチャードさん?]

 ───んっ?どちらさんだ?

 走ってくる青年に対し俺はソッとブロックを掛ける。

「!?誰ですか貴方は!」

「コイツの兄だが?」

 友紀をソッと抱き寄せると友紀は嬉しそうに抱きついてきた。

[自慢のお兄さんです!]

「…そんなぁ…」

「友紀。確かリチャードというのは…2、3年前だったか?」

[うん。ちょうど香椎のお爺ちゃんと遇って、すぐにリチャードさんが襲われているのを目撃して、お爺ちゃんが僕に「どちらが悪だ?」って聞いてきたから相手の方を指したら…一瞬で片付けちゃったんだ]

「爺さんらしいな」

[うん!僕ビックリしちゃったよ!]

「あのー…」

 リチャードとやらが申し訳なさげに友紀を見ている。

[あ、リチャードさんごめんなさい。どうしたんですか?]

「ああ、久しぶりに来日出来たので前回のお礼に食事でもと…」

[?僕は何もしていませんよ?ああ!香椎のお爺ちゃんへの伝言ですね!]

「えっ?」

「爺さんが助けたんだからそうなるわな」

「え?いや…あー…」

 今気付いたのか天を仰いでいる。

「…そう、ですね…ですが、貴方に助けられたのも事実です。貴方も是非」

 おお、予約人数を無理矢理でも増やす方向に切り替えたようだ。

「爺さんと一緒なら良いぞ?」

 俺の方を見る友紀にそう答えると少し口を尖らせた。

 おっと選択肢を間違えたようだ。

「因みに場所の方は?」

「東京エウロペホテルのフレンチ、ピエール・トーキョーだ」

「……」

 スマートフォンを取り出して電話を掛ける。

「───ああ、大林さん。岩崎です。いえ、今日そちらのピエール・トーキョーにリチャードという名前で予約があると思うんですが…あるならそれとは別に二名、俺と妹の予約を入れて欲しい。いやいや、リチャード名義の予約は香椎の御大とうちの弟…そう。だから俺も行くって事で…ああ、頼んだ」

 通話が切れたのでスマートフォンをしまう。

「これで良いか?」

[うんっ!]

「ぇえー?……予約は半年以上待ちのはず…」

 知らん。



 買い物を終え、家に戻って佑那を捕まえる。

「え?何事?」

「喜べ、夕飯はホテルで食事だ」

「え?面倒」

「友紀と爺さんが別件で同じホテル、同じ店で食事をする」

「その話、詳しく」

 いや、掘り下げるような話でも無いぞ?

 佑那に説明をするとニマニマといやらしい笑みを浮かべながら

「友紀兄さんのことになると冷静さを欠くんだから~」

 なんて事を言ってきた。

「もしお前の場合はまず間違いなく敵を撃破して帰ってくるだろうが…コイツにそれが出来ると思うか?」

「老師居るんでしょ?無事じゃない?」

「爺さん、フランス料理ほぼ食わないぞ?」

 つまりは断る可能性がある。そしてそれを理由に一対一と言う可能性もある。

「ああ、うーん…ちょっと電話してくる」

 佑那はそういって席を離れ、数分と経たずに戻って来た。

「結羽人兄さんの言う通りだった。でも、今連絡入れたから行くって」

「と言うわけで、念には念を入れてだ」

[リチャードさん、そんなに悪い人ではないよ?]

「本人はな。ただ、その後ろに居る奴が危ない可能性もあるからな?」

[えっ?]

「友紀。タイミングが良すぎると思わないか?彼は日本に居るわけではないんだろ?」

[うん]

「恐らくは半分好意かも知れないが、それ以外が動いている可能性も捨てきれない」

「残り半分は?」

「ゲスい何か」

「あぁ、そういう…」

[?]

「「守りたいこの純粋さ」」

[あ、でもこの子のご飯は?]

「猫なんだからキャットフード与えとけ」

「うにゃ!?」

 おいおい、お前猫であること忘れていたのか?



 友紀と爺さん達とは少し離れたテーブルで食事を始めた。

「で、兄さん。本当の理由は?」

 俺と佑那は3人の見える位置でゆったりと食事を待つ。

「あのリチャードという男、狙われている」

「護衛もいたんでしょ?」

「離れたところにな。ただ、あの商店街で敵味方合計25名のエージェントがいたんだぞ?」

 歩く癖や視線、そして気の配り方。

 自然過ぎるほどやっている者と荒削りだが気を散らしている者。

 ただ、俺らの側に居たエージェントは変な被弾を受けて早々に離脱していたなぁ…

 友紀の尊さには勝てなかったか…

「何それありえないんだけど」

 顔を顰める佑那の横から一品目が出される。

「野菜と魚介のムースでございます」

「ありがとう」

「まあ、友紀をダシにあの爺さんを利用する腹積りなんだろうが…」

「もしかしてゲスいってそういう事?」

「そういう事も混み、だ」

「うわぁ…うん。普通に美味しい」

 俺たちは食事を楽しみながらもしもの時、対応できるように見張る。

 肉料理まで食べ、デザートとコーヒーを待つ中、佑那が不機嫌さを隠さずに声をかける。

「ねえ、兄さん。こんなモノなの?」

「どうだろうな。多分機械的にやっているんじゃないかな…風邪でもひいていて味覚がダメになっているか」

 デザートを運んできた給仕がビクリと動きを止めた。

「…秋の、フルーツグラタンでございます」

「ありがとう」

「───それに襲撃もないわね」

「そりゃあないだろうな」

「えっ?」

「事前に連絡してある。十中八九ここでの襲撃はない。というか、俺らがいる間は襲撃は来ない」

「何それ!」

「香椎の御大がここにいる。それだけで組織は一時的にだが手を引くだろうさ」

「ふーん。アレ?兄さんが給仕さんに声をかけてる」

「おそらく料理人の乱れを心配したんだろうな」

「お節介だよねぇ…」

「ただ、今日この場の客は2割が見限る可能性があるぞ」

「2割だけ?」

「殆どが気付いていない。ただ、手前のマダム2人は恐らく何度もここにきた事のある人間だ。食べた瞬間に気付いたぞ」

「その人間観察、食事するところに持ってこないで欲しいんだけど…」

「襲撃の可能性が0ではないからな」

 デザートは美味い。

 佑那も上品に、ただしかなりの速度で食べてしまった。

「65点」

 まあまあの酷評だった。いや、悪くはない…のか?

「友紀の料理に慣れ過ぎると後が怖いぞ?」

「ゔっ…私も料理習わなきゃって思うけど、兄さん達うま過ぎるんだもん」

 あ、シェフが友紀の所に行った。

「うわぁ…めっちゃ謝っている…」

「まあ、そうだろうな」

 恐らく友紀の事だ。相手の熱発状態や薬による手元の狂いまで把握してそれを伝えていそうだ。

「───各テーブルに謝罪して回るくらいなら休めと言いたい」

「そういうな。そのおかげで2割の上客が見限らない可能性もあるんだ」

 コーヒーが運ばれてきた。

「コーヒーでございます」

「ありがとう。ああ、シェフにこちらへの挨拶は構わないから早く休んでくださいと、お伝えください」

「…かしこまりました」

「他の料理人の育成もうまく行っていないんだろうな」

「兄さん。今それ言う?」

 キャラメルナッツのクルスティヤンを食べ、コーヒーを飲む。

「さて、相手さんが動く前に爺さんと友紀を回収するぞ」

「あ、うん。ご馳走様でした」

「ちなみに佑那。テーブルマナー88点な」

「ぅえ!?」


 支払いを終えリチャード氏と別れ、俺の運転する車で家路を行く。

「洋食は面倒じゃな」

「それは和食もですが?」

「まあ、そうじゃな」

[料理人って、やっぱり大変なんだね…あんな高熱出しても薬飲んでまで仕事しているんだから…]

「友紀。それでも体調崩して美味しくない料理出された方はたまったもんじゃないからな?」

「まあ、そうよね」

「料理も武術も結果論じゃ。勝つか負けるか、美味いかまずいか…じゃな」

[うん。美味しくないわけじゃなかったけど、これじゃない感があったし、兄さんの料理の方が美味しいかな]

「お前さん、そんなに料理上手いのか?」

「男料理しかできませんよ」

「一度お前さん達の料理も食べてみたいのぉ」

「爺さん」

「なんじゃ?」

「多分後悔するぞ?」

「どんな脅し文句じゃ!?」


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