第19話 毛を謹んで貌を失う
「…あー、これも目的の一つか」
自動販売機で飲み物を買おうとした時、取り出し口に妙なスイッチがあった。
「磯部課長案件第二弾か」
即電話。
『また何かあったのか!?』
「1階自動販売機に恐らく爆弾が仕掛けられています」
『は!?』
「とりあえずこのビルの全ての自動販売機を確認お願いします。もし爆破するなら俺が囲んで爆破しますので」
『ちょ!まっ───』
通話を切ってこの近くにコンビニがあったかな、と考えながらエントランスロビー中央へと戻った。
「結局六箇所だけだったか…」
「その六箇所でこのビル吹き飛んだかも知れないんだからな!?」
顔面蒼白で騒ぐ磯部課長に「はいはい」と流す。
飲み物を買ったら取り出し口のスイッチでドカン。
解除のために扉を開けても中の商品が取り出し口に落ちるよう設定されていて…ドカン。
なお、取り出し口のパネルをを開けてもセンサーでドカン…という代物だった。
「建物に傷を付けず爆破処理出来た警察はラッキーと思ってください」
「…まあ、協力者岩崎が爆破処理を行った。(添付映像参照)で済むからある意味お前さんの存在がありがたいよ」
俺と爆弾処理班2名以外の全員がビルから退避し、周辺を交通規制掛けたらしい。
処理班2名は覚悟を決めた顔で処理に当たろうとしたが、センサーと扉の仕掛けや電源が切れた際の危険性を考慮した結果酷く時間が掛かると判断。
ならばと覆ってさっさと爆破してしまおうと提案するも処理班が拒否。
流石に爆発の威力と俺の守りがどの程度なのか分からないとのことだった。
仕方ないので覆った状態で対処をして貰ったが、処理班の一人が扉を開けた瞬間に爆発。
ピッタリと覆っていたために処理班には左手が衝撃で軽く弾かれる程度のダメージを受けた。
しかしこれで現場解体は少し難しいと判断。
更に爆破させてもまったく問題無いとも判断されたようだ。
なので今後のことも考え色々な方法で解体を試す方法に切り替えた。
5つは失敗。まあ、出来ない前提で色々試してはいた。
しかし最後のは覆って数分経たずに爆発したのだ。
「まさか時限式まで組み込まれていたなんてな…」
「日本の手口を良く分かっている」
「犯人を褒めるな」
「敵の策が上手ければ褒める。当然では?」
「相手がテロリストでもか?」
「対策が取れていないのなら受け入れるしかないでしょう?本来はそうならないための訓練や研究を行うべきなのですから」
「…まあそうなんだが、しかしこちらにも限度はある」
「そう言っている間にも相手は凄惨に、陰湿になっていくでしょうね。数年前まで平穏無事な生活をしていた俺ですらこの異常さと世界の異常・狂気さは理解しています」
「……確かに、他の地域では国がなくなり、都市が滅んだりと人は何かたがが外れたように道徳…倫理観を忘れ始めているな」
苦虫をかみつぶしたような顰めっ面をする磯部課長。
「忘れないと生きていけない状態になりつつあるからですよ。今この奇跡的に平和な日本は小さな事に拘って根本的なことを忘れつつあります。
目の前に居るバケモノは今はそう襲ってこれない。対処出来ている。しかし、一致団結してあらゆる側面から現状を見渡し、いつか来るであろう絶望を如何に軽減するか考えるべきなんですよ」
「絶望。来ると思うのか?」
「来ないと考えるのがおかしいのですよ。宮内庁ダンジョン崩壊事件の時も、上級探索者連続変死事件の時も、あんなことがあって尚無警戒レベル…いえ、どこか「守られてあげているんだ」という妙な状態に陥っている。宮内庁の件は兎も角、探索者の件は今後も起こりますよ。絶対」
「………」
磯部課長は俯く。
「これまでたまたま俺がいたから騒ぎになっても大きな被害は起きていない。しかしそれではいけないんですよ。一人の勇者や英雄は要らない。必要なのは万の優秀な者達です」
「………」
「身の回りの人達を守れる力があれば良いんです。周辺を監視し、守れればいいんです」
俯いていた顔をクッと上げ、俺を見る。
「…それは、俺等の仕事だ」
「ならばそれを行ってください。強くなってください。周囲に目を光らせ、市民の安全を守ってください」
「例え魔物相手にも、か?無茶を言う。ただ…害獣対応も警察の仕事だよなぁ」
「そうです。あんなモノ、害獣呼ばわりで十分です」
「市民にそう叱咤されたら嘆くわけにはいかないか」
磯部課長は大きく息を吐き、ニヤリと笑う。
「では、後を任せました。俺はすることがあるので」
「待て。…何をする気だ?」
「友人の家族が襲われたなら…キッチリ仕返しをしないといけませんよね?」
「お前なぁ…それを俺に言うか?」
「非合法かつ政治が絡むような組織ですよ?」
「何?」
「何処の後ろに誰、とは言いませんが…こいつらに関しては俺がやります。それに」
「何だ?」
「こいつらをある程度潰せば、今逮捕した連中は後ろ盾…秘密裏の保釈が出来なくなりますから」
「……!?まさか、だから足止めを喰らって?」
「警察も尻尾切りが好きなようなので、ヒュドラの頭を一つ潰して一言言わないといけませんから。ああ、後で呼ぶかも知れませんので、スタンバイお願いしますね」
笑ってみせる俺に磯部課長が顔を引きつらせていた。解せぬ。
現場からタクシーで1時間あまり。横浜市の某大学裏手にある森に来ている。
そこは自然保護公園や竹林のあるような場所だ。
ただ、民家より少し奥に入ったところにいくつか新しい資材置き場や倉庫があり、俺はそこに向かっている。
まあ、立派な住居侵入による犯罪行為だが…忠告に伺っているし、何よりも正々堂々と正面から来ているので問題は無い。
「たのもう!そこの倉庫の奥に居る女性三名を保護しに来た!」
白昼堂々と大声を張り上げ、中に居る人々へ声を掛ける。
返事はない。が、倉庫内の気配は数名、倉庫の入口…こちら側へと集まっている。
「そちらに女性三名がいる事は確認されている。何事もなく開放するのであればこちらも何も言わない。ただ、倉庫内11名が反応を見せない場合は速やかに制圧する!」
そう言ってしばし待つ。
相手は動かない。
「地域はまたいでいますが、令状は取れますか?」
『横浜だぁ!?…ちょっと待て。一応手回しはするが、少し時間が掛かる』
「拉致監禁ですよ?しかも国際問題になります」
『おまっ!?急ぎ手回しをする!ただ、そこに行くまで40分は掛かる!』
「お待ちしております」
スピーカーをオフにして通話を切る。こちら側に居た一人が奥へと移動したようだ。
さて、何も言わず通報するか?それとも襲撃するか?それとも───
ガチャリと、扉が開き、スーツ姿の男性が出てきた。
『何やら煩いと思ったら学生か。警察を呼ばれたくなかったら立ち去れ』
そう英語で言って鬱陶しそうに手でシッシッとジェスチャーをする。
『…ヴィンセント・L・東。日系オーストラリア人。入国目的は木材の買い付け。にもかかわらず何故塗料関連倉庫で偉そうにしている?』
俺はニヤリと笑いながら英語で返すと男、ヴィンセントは目に見えて顔を引きつらせた。
『君は俺のストーカーか何かか?今すぐ警察を呼んでも良いんだぞ?』
『安心しろ。もう呼んだ。ここに来るまで少し時間が掛かるそうだ。聞いただろ?入口で聞き耳立ててた男がわざわざ報告したんだから』
『───想像力がたくましいな。で?ここで何を騒いでいる?』
『アンタの居た部屋に居る三人の女性を解放してもらいに来たのさ。序でに各種資料も戴きにね』
『妄言だけではなく堂々と犯罪を宣言したな!』
ヴィンセントは大笑いした後俺を睨む。
『そんな女達はいない』
『本当に?』
『ああ!見てみるか?』
『神に誓って?』
『勿論。ただ、無かった場合、お前はどうする?俺を侮辱したんだ。相応の代償は覚悟しろよ?』
『ああ。ならばこれでどうだ?』
俺はそう言って用意していたカバンから一回り大きな魔水晶を出してみせる。
『っ、これは…っ!』
ヴィンセントの顔がにやけていく。
『中型魔水晶5つだ。相応の代償だろ?これで良いな?』
『……ああ』
『もし居た場合は、倉庫内、いや、この事件に関連しているアンタの仲間全員の臓器が一つ、腐り落ちる』
『何?』
『何、ただの誓文だ。ほら、受け取れ』
そう言って俺はカバンを投げ渡す。
そしてそれをヴィンセントが受け取った直後、スキルが発動した。
『ぐぅっ!?』
『どうやら、倉庫内に居るようだな?───残念だったな?裏から連れ出そうとしていたみたいだが、出ることが出来なかったみたいだぞ?』
「き、さま…っ!」
「日本語喋れるのも知っていたよ。誓文はなされた。この誘拐に関連したアンタの仲間全員の臓器が一つ、腐り落ちているだろうな」
「悪魔めっ!」
『人を殺したり攫ったりする方が余程悪魔だろ?ああ、これを指示した諸国連合のボスも悟るだろうな。アンタがやらかしたって』
「ぐっ、ぞぉぉぉっ!」
素早く銃を取り出し、俺目掛けて発砲する。が、弾丸は弾かれ、右肩、上腕頭骨辺りに被弾。そのまま踞る。
「さて、面倒だが…延命措置をしなければな」
再度磯部課長へ電話をする。
『今お前の案件だと言って令状を取った!急ぎ向かっている!』
「序でに救急車を7~8台お願いします。馬鹿なまとめ役が盛大な自爆を2度して犯行グループ11名うち10名が誓文により臓器損壊。一名は臓器損壊の上、発砲の跳弾で右上腕頭骨に弾が刺さっています」
『ほぼ全滅じゃねーか!わかった。救急と現地警察に応援要請をする!』
「俺はそれまでここで待機ですかね?」
『…勝手に入るわけにはいかんだろ。他所のシマで入られたら…もみ消せん』
「では、待機しておきます」
俺は通話を切り、ため息を吐く。
「返してもらうぞ?」
カバンを取り、ヴィンセントを見る。
呼吸がおかしい。
──ああ、肺が片方腐れ落ちたか。
「良かったな。煙草、止めたかったんだろ?」
『くそったれ!っぐ…』
まだ元気だなと思いながらも俺は倉庫から目を離さなかった。
まあ、俺がここに来た時点から彼女らには薄く光壁の防御膜を張っているし、先行して子獅子が倉庫内に入り込んでいるので万が一すらあり得ないんだが…しかし、
「今日はとんだ厄日だ」
空を見上げため息を吐く。
日は傾き始めてはいるが、雲一つ無い良い天気だった。
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