第18話 他社さんはどこから来るの?他社さんは…

 とても困ったことがある。

 先日、隣の県のダンジョン行ったんですよ。そしたらうちのライオンがはっちゃけて大量狩りをしてしまって…マジックバッグがパンパンだぜ…

 誰だよ魔水晶が稀少で価格跳ね上がるって言ったのは。

 ───と、脳内のナニカが一人コントをしている中再び来ました中条グループ本社ビル。

 ただ、少しビル自体が妙な雰囲気だ。

 人はいるが、なにかおかしい。

「中条社長と面会予定の岩崎ですが…」

「そのような予定は入っておりません。お引き取りください」

 日本人というよりも東洋人といった顔立ちの女性は画面も見ずにそう返した。

「ほう?おかしいですね。今朝確認をとったのですが?」

「お引き取りを」

「もう一度聞きますが、本当ですね?」

「お引き取りください」

 無表情でそう答える受付女性の目の前でスマートフォンを取り出し電話を掛ける。

 ただし、その掛ける先は───

『トラブルか?』

「はい。現在中条グループ本社ビルに来ているのですが、至急応援お願いします。できる限り重武装で」

『分かった!すぐ向かう!』

 スマートフォンを仕舞おうと視線を僅かにずらした瞬間に受付嬢が素早く俺めがけて銃を───

「目の前に出されると弾きたくなるよな…」

 撃とうとした間合いは見事に俺の間合いだったのですぐに銃を奪って受付カウンターから引き摺り出し、組み伏せて足でロックする。

 と、周囲の人間が一斉に銃を向ける。

「『因果応報』となるぞ?」

 直後、一斉に発砲され、その弾丸は全て発砲した全員に返っていった。

 東洋系の偽装社員がグループを組んでこのビルを襲う…ここまでだと大規模グループか。

「これだけの人間が1階フロアにいたという事は…少しマズイか」

 再度スマートフォンを取り出し、電話を掛ける。

「岩崎ですが、現在1階フロアにいます」

『お疲れ!今地下で立てこもっているんだけど…危ないよ?』

「今十数名から銃撃を受けました。そちらに押し込んできた賊はいかほどでしょうか」

『7名だね。研究資料と機材、資材を根こそぎ持って行くつもりだったみたい』

 それ系のアイテム持ちと。

「今刑事課の磯部課長に連絡を入れましたので重武装隊が向かっています。もうしばらくお待ちください」

『大丈夫大丈夫。ここなら食事の関係で四日は耐えられるから…というよりも、ここへの直通エレベーターも停止させているからそれ以上かかるよ?』

 ───そういえば、地下研究室って外からの爆撃も内部での核融合があっても耐えられるって言ってたなぁ…

 マッドな連中がやりたい放題な地下研究所を作ったせいでこの堅牢さか。

『それと、こちらも呼んだんだけど…来ていない?』

「来てませんね…むしろ警察署が近いので刑事課の人たちが突入してきました」

 刑事課の見知った人たちが機動隊のような格好で突入してきた。

『早くない!?』

 刑事課の皆さん、手際よく全員逮捕していってます。

「他の社員はどうしたんですか?」

「今日は本社ビル一斉メンテナンスだから8割は出社していないよ」

「警備員さえ居ないんですが」

『縛られてどこかに転がっているんじゃないかなぁ』

「おそらく殺されているかと」

『えっ?』

「相手は躊躇いなく銃撃して来ましたよ」

『…へぇ、そういった手を使ってきたんだ』

 あ、普段怒らない人を怒らせた。

「俺は刑事さんと合流しますので。また後程」

 そう言って通話を切った。



「これは…マジで何なんだ?」

 磯部課長が周りを警戒しながらやってきた。

 そしてじっとじっと俺の足元を見ている。

 ああ、忘れていた。

 俺は組み伏せていた女性を起き上がらせる。

 彼女は抵抗せず起き上がり、じっと俺を見つめている。

「貴方、私も守ったのね」

「当然だろう?」

「何故?」

「君の罪禍はそこまで酷いモノではなさそうだった。何でも屋かと思ってね」

「…貴方、本当に何者?」

「ただの労働者だな」

「噓つくんじゃない」

 磯部課長がツッコミを入れてきた。

「で?こいつは捕まえるのか?」

「いえ。それよりも7名ほど武装した連中がビルの中にいるそうですよ」

「マジか…刑事課のすることでは無いんだがなぁ…」

 そう言いながら部下の人たちにハンドサインを送ると部下6名が3人1組で階段とエレベーターを使って移動を始めた。

「出入り口は既に機動隊を手配してある」

 早すぎない?

「早すぎませんか?」

「何でも襲撃を受けたという連絡はあったらしいが、どこからか待ったがかかったらしい」

「は?」

「そんな中、俺らが緊急出動をしたもんで準備をしていた機動隊が一斉出動したってわけだ。俺らの緊急出動に関してはほぼ天下御免の緊急災害対策扱いだからなぁ…」

 何故に?

「…まさか、貴方が岩崎!?」

 何故そこで分かるんですかねぇ?

「ん?それをわかるって事は、お前、警察関係とも繋がりがあるな?」

 磯部課長が女性をジロリと睨む。

 女性は意味ありげな笑みを浮かべるが、俺を見て少し目を逸らした。

 微かに聞こえた銃撃音に磯部課長はため息を吐いた。

「…機動隊仕事してくれ。マジで」



 8人の襲撃犯を捕まえた刑事達はイイエガオで1階フロアに戻ってきた。

「其奴が引き込み役か?」

「課長。時代劇見過ぎです…でもそうです。コイツが率先してデータを抜き取ろうとしていました」

「嘘だっ!俺は脅されて、脅されてやったんだっ!」

 暴れる男に俺は磯部課長に問う。

「確認しても?」

「…ああ。まかせる」

 男の方を向く。

「仲間ではないのは間違いないか?」

「ああっ!誤認逮捕だぞ!協力会社の人間だからってこの扱いかよ!」

「誓文を受けても同じ事を言えるか?」

「っ!?アンタ、聖者かよ」

「どうする?対価は…そうだな…魔水晶三個なら?」

「やる!」

「では誓文を…もしこの者が無実であれば私、岩崎結羽人は魔水晶3つを彼の者に謝罪対価として引き渡す」

 男は魔水晶の価値を知っているのだろう。ニヤニヤしている。

『───彼の者に此度の襲撃教唆並びに手配の罪あらば、腎臓を一つ、腐らせよう』

「…えっ?」

 どこからともなく聞こえた声に今までニヤニヤしていた男は冷や水を浴びせられたような顔をした。

「…まあ、超常的なナニカの仰せだ。それで釣り合っているのだろう。さて、改めて確認する。仲間ではないのだな?」

「…えっ?、あ、待ってくれ。いっ、今、今の…」

「ああ、気にしなくて良い」

「いや、俺、昔腎臓いっこ、えっ、あ…」

「どうした?魔水晶3つでは足りないか?では再度───」

「おっ、俺…きょ、う、協力者…です」

「それは自白と捉えても?」

 男は項垂れたまま小さく頷いた。

「…連れて行け」

 磯部課長は刑事に指示を出す。

「───お前は本当に裁判所いらずだな。後で映像寄越せよ」

「勿論です」

「あとは…避難している職員の救出と確認か…」

「少し電話します」

 そう断って電話を掛ける。

『終わった?』

「ええ。8名捕まりました」

『8名?…あー…じゃあ、エレベーターを動かすけど、シェルター解除まで30分かかるから…』

「分かりました。動き次第警察が下におります」

 通話を切る。

「そう言う訳なので、お願いします」

「ああ、了解した。オマエ等行くぞ」

「「「「うーい」」」」

 後続として来た警官が磯部課長に続いて動き出した地下直通エレベータに乗り込んだ。

「…で、私はどうするの?」

「騙されたんだろ?諜報員さん」

「えっ?」

 何故?と言った表情の女性に対し軽く肩をすくめる。

「二重に騙されるのは感心しないが…アンタのせいでもないようだしな。貸し1って事で。早くこの国を出た方が良いぞ」

「…そうさせて貰うわ」

「ああ、彼奴らは東南アジアのグループに見せかけたおたくの国の殺戮組織だよ」

「っ!?」

「だから早く戻った方が良い。何故かは分かるだろ?」

「感謝する!」

 彼女はそう言って走り出した。

「…この眼は、かなり怖いな…真実を見過ぎる」

 今回、3人を鑑定した。

 彼女と、一斉掃射してきた男の一人。そして自称協力者。

 彼女のカルマ行為閾値はこういった事をしている人間なのに通常値より少し低い程度。

 貴族家の三女で諜報部員という情報が見て取れた。

 ───まあ、かなり個人情報満載な部分は割愛。

 問題は男の一人と自称協力者。

 俺を撃ってきたうちの一人…これはランダムではなく、良い銃を持っていた人間を見た。

 カルマ値マイナスで様々な罪状がでてきたあげく、彼女と同じ国を母国としていた。

 依頼でここの情報と所蔵しているレアアイテムの強奪となっていたが、そこまでだった。

 さあ、問題は最後の自称協力者だ。

 依頼した会社の出向社員で会社を二社潜ってここに入っている。

 しかも襲撃した組織の上級幹部。そして何故か外交官となっていた。

 それも関係の無い第三国の。

 これを説明した場合、この眼のことも言わなければいけないんだよなぁ…面倒だ。

 言わないとしたら…一応外部情報で補強をしてその事も伝えないとなぁ…

 前に助けた情報屋、まだ生きているかな…

 そんな事を思いながらフロアの奥にある自動販売機へと足を運んだ。


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